パティシエ総長さんとコミュ障女子


「俺の名前…」


近づいてくる御神楽竜司から遠ざかるように一歩二歩と後ずさる。


「ちょっと待てよっ…、ってぇ!」


立ち上がった途端に鳩尾を抑えてうずくまる御神楽竜司。


「くっそ、効いてんなさっきの殴り。遅効性かよ!?」


怪我に即効も遅効もないでしょ!という突っ込みが一瞬頭に思い浮かんだが、早く店を出たい一心に、私はドアに手をかけた。


「ご迷惑をおかけしました!忘れてください!!」

「おい、待てってば!」


顔を覚えられたくない。

私は外に飛び出すと、走った。

走って、走って、ただただ走った。

私はやっぱりコミュ障だ。
突拍子もない行動をしてしまう。

罪悪感に胸がちくりと痛んだ。

私を呼び止めた彼の、複雑な顔が頭の中に浮かんでは消えて、消えては浮かんだ。


「あああああ!不可抗力!無理だった!!」


走りながら叫んだ。

人を殴って、しばらく居座り、いきなり逃走するなんて。

変な奴だと思われただろう。

でも、これは保身のために、しょうがなかったんだ。
そう言い聞かせるが、なぜか、心は晴れなかった。
< 9 / 181 >

この作品をシェア

pagetop