パティシエ総長さんとコミュ障女子
「俺の名前…」
近づいてくる御神楽竜司から遠ざかるように一歩二歩と後ずさる。
「ちょっと待てよっ…、ってぇ!」
立ち上がった途端に鳩尾を抑えてうずくまる御神楽竜司。
「くっそ、効いてんなさっきの殴り。遅効性かよ!?」
怪我に即効も遅効もないでしょ!という突っ込みが一瞬頭に思い浮かんだが、早く店を出たい一心に、私はドアに手をかけた。
「ご迷惑をおかけしました!忘れてください!!」
「おい、待てってば!」
顔を覚えられたくない。
私は外に飛び出すと、走った。
走って、走って、ただただ走った。
私はやっぱりコミュ障だ。
突拍子もない行動をしてしまう。
罪悪感に胸がちくりと痛んだ。
私を呼び止めた彼の、複雑な顔が頭の中に浮かんでは消えて、消えては浮かんだ。
「あああああ!不可抗力!無理だった!!」
走りながら叫んだ。
人を殴って、しばらく居座り、いきなり逃走するなんて。
変な奴だと思われただろう。
でも、これは保身のために、しょうがなかったんだ。
そう言い聞かせるが、なぜか、心は晴れなかった。