パティシエ総長さんとコミュ障女子
そう微笑ましく思っていると、私は竜司くんに手を引かれて、彼の部屋に通された。
そういえば、竜司くんの部屋は熱中症になった時以来訪れていなかった。
改めて見ると、随分と整頓された部屋だ。
白基調の家具や寝具が置かれていて、壁紙も白、床は木のフローリングだった。
いや、よく見たらこの床、おそらく天然の椋…?
一度だけ見たことがあるけど、確信は持てない。
私は部屋を出る竜司くんそっちのけで床を観察していた。
少しして、竜司くんが低い机を出してきて、私たちはその周りに座った。
「じゃあさ、手始めに数学教えてくれない?」
早い展開に完全に置いていかれていたと気づき、私は慌てて床から注意を逸らした。
いつのまにか数Ⅱのテキストがちゃっかり用意されていて、筆記用具も揃っていた。
「仕事が早いねっ…!」
「善は急げって言うだろ。」
いつの間に鳴き始めたのだろうか。
窓からは、蝉の声がジーワジーワと響いていた。
「竜司くん、どこの高校行っているの?」
ふと気になって聞いてみた。
「星峰高校。底辺でもなく、有名校でもない、すげー中途半端なところ。」
その名前に、体がびくりと反応した。
星峰…あいつらがいるところだ。
大嫌いな、大嫌いなあいつら。
私から普通の生活を奪った、絶対に許せないあいつら。