パティシエ総長さんとコミュ障女子
「そ、その学校の一年生にさ…すごく派手な女子が居ない…?朝宮、木崎、速水っていう3人組が。」
できるだけ平静を保って訪ねる。
竜司くんは眉間にしわを寄せて考え込んだ。
「あー…あいつらか…。4月からめっちゃ俺に絡んで来ている奴らがいてさ。確か朝宮、木崎、速水だったと思う。凛ちゃんの友達?」
やっぱり。あいつらのことだもん。イケメンで双竜会の総長の竜司くんとなんとかして関わりを持とうとしているんだ。
私は顔を顰めて首を振った。
「なんでもない。ごめんね。さ、数学始めよ。」
竜司くんが心配そうに私を見つめた。
「どうした?顔色悪いよ…?」
気遣うようなその視線が痛い。
大丈夫。私はもう大丈夫。
そう言い聞かせて、にこりと笑った。
ビキリと痛む心の古傷を、隠して笑った。
「大丈夫!私のことは気にしないで。」
竜司くんは訝しげな顔をしながらも、すぐに引いてくれた。
竜司くんの、こういう繊細な心配りが心地良い。
竜司くんは、私との距離の取り方が絶妙で、私が踏み込まれたくないところには絶対に踏み込んでこない。
多分、これが彼と過ごしていてとても楽であることの1番大きな理由だ。
その後、私たちの間には最低限の会話と、シャープペンシルを走らせる音が続いた。
やがて日は落ちて真っ赤な夕暮れが訪れた。
いつものように竜司くんに手を振って店を出て、私は家路についた。
そう、いつものように。