猫は口実
『うわぁあぁ…!』

全てを思い出してしまった私は、テーブルに肘をつき、頭を抱え、うめき声をあげてしまった。

チェーン店の居酒屋だから、店内は騒がしい。

多少騒いでも、あいつ酔ってるなって周りから思われるだけだ。

残念ながら、まだ完全には酔っていないけれど。

目の前のヤマサキさんは気持ち良さそうに居眠りをしていて、なんか腹が立った。

ヤマサキさんに八つ当たりをしても、この件からは逃れられない。

バーベキュー大会2次会の翌日、複数の知り合いから言われたのだ。

『フジノさん、隣の人の髪食べてたよ。』

違う、私はラーメンを食べたんだって反論したいけど、それは嘘になってしまう。

知り合いの人は半分イジリというか、冗談混じりに言っていたけど、イケオジは相当怒っていた可能性だってある。

イケオジもかなり酔っていたし、怒っていないどころか覚えていないという可能性もあるけど、周りの人からはドン引かれてしまったかもしれない。

何より恐ろしいのは、髪を食べた記憶は漠然と残っているのに、その先を全く覚えていない点だ。

そこから私の記憶は飛んでいる。

元々、私という人間は都合の悪いことを忘れるタイプだ。

脳みそが完全に記憶を消してしまった。

現に、バーベキュー大会のことも、イケオジのことも数時間前まで忘れていたわけで。

アジフライ→猫→イケオジ→ラーメン。

自分のしょうもない連想ゲームのせいで、思い出してしまった。

なんてしょうもない。

自分自身で面倒だなと思うのは、都合の悪いことなんか全部忘れるくせに、他人からの視線とか諸々を気にし過ぎてしまう所だ。

しかしながら、お酒の失敗談なんて誰にでもあることだ。

周りにとんでもない迷惑をかけている人だって大勢いる。

私がしたことなんて大したことないはずだ、と自分に言い聞かせたけど、無駄だった。

ダメだ、どうしても気にしてしまう。

あー、謝りたい。
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