元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 私は人気のない場所に乃愛を連れていって問い詰めた。

「あなた、何なの? 朝は私の足を引っかけて転ばせたでしょ?」
「わざとじゃないです」

 乃愛は真面目な顔してそんなことを言った。
 私は怒りを通り越して呆れた。

「私は優斗と別れたの。だから、あなたに嫌がらせを受ける筋合いはないよ」
「嫌がらせだなんてひどい! わざとじゃないってずっと謝ってるのに、ひどくないですか?」
「どうやったらピンポイントで私のバッグにコーヒーぶっかけられるのよ?」
「混雑していたから仕方なかったんですう……ああぁ」

 乃愛は本当に涙を流した。
 見事な演技に開いた口がふさがらない。
 彼女は女優になるべきだと思うわ。

「弁償しますからぁ……」

 彼女はわんわん泣き出した。
 バッグの表面は大丈夫だけど、問題は中身だった。
 少し口が開いていたから中に沁みている。

 正直いくらかもらうべきかなと思ったけど、たぶんこの子は絶対変なことをするだろう。
 私から無理やり金をぶん取られたとSNSと会社の人たちに嘘を言いふらすかもしれない。
 しかも、婚約者に捨てられた腹いせにやったと。

 ここまで予想できたところで、平静でいるのが一番だ。

「私に近づかないで。あなたも優斗も私にはもう関係ないんだから」

 そう言うと、乃愛はにんまり笑った。

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