元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 優斗父は薄ら笑いを浮かべながら私を見下すようにして告げる。

「だいたい、たかが恋人同士のいざこざに弁護士とは、冗談にしては馬鹿げている。紗那さんはあまりに非常識な方だな」

 非常識はどっちなの?

 私が反論しようとしたら、優斗が先に口を出した。

「俺は悪くない。紗那と別れるつもりもない。けど、紗那が謝らない限り俺は許してやるつもりはない」

 一体どうしろと言うのだろうか。
 話が通じなさ過ぎて頭が痛くなってきた。
 どう返せばいいか考えていると、川喜多さんが冷静に彼らに訊ねた。
 
「そうですか。では裁判に進めてよろしいですね?」
「は? 裁判……?」

 優斗がぽかんと口を開けて呆気にとられた。
 川喜多さんは淡々と話を続ける。

「あなた方はどうもまともに会話ができないようだ。これ以上の話し合いは無駄なようですから、法廷で解決が望ましいでしょう」

 裁判というパワーワードに過激に反応したのは優斗母だった。

「バカなことを言わないで! こんな些細なことで裁判ですって?」
「些細なことではありません。紗那さんは婚約中にパートナーの優斗くんに不貞されたあげく毎日のように暴言を受けた。充分価値のある事例です」
「こんなことで裁判起こすくらいなら、もっと大事なことがあるでしょ! 窃盗や殺人の犯罪者を裁きなさいよ。優斗は何の犯罪も起こしていないのよ!」

 激しく罵倒する優斗母に向かって、川喜多さんはまったく微動だにせず、さらりと返す。

「無関係な事例を出して論点をすり替えるのはおやめください」

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