元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 真っ赤な顔で黙り込む千秋さんを放置して、川喜多さんは私に目を向けた。

「紗那さん、お疲れさまでした。もう山内家の連絡先をブロックしてもいいですよ。もし別の手段で接触してきたら法的措置を検討しましょう。ですが、もうその心配はなさそうですね」

 山内家は今後、私のことより自分たちの家庭のことで頭を悩ませることだろう。私がきっかけにはなったけど、いずれ彼らはそうなる運命だったのかもしれない。

「本当に、ありがとうございました」
 
 私は頭を下げて礼を言うと、川喜多さんはぺこりとお辞儀をして「それでは」と短く挨拶すると自分の車を停めた駐車場に行ってしまった。
 私は千秋さんの車で帰宅することになった。

 帰る道中車内で私はぼんやりしていた。すべてが終わったはずなのに、まだ落ち着かないからだ。
 私がだんまりだから、千秋さんが話しかけてくれた。

「今日は疲れただろう。お腹減ってる?」
「えっと、あんまり……」
「そうか。じゃあ、帰って何か軽い食事でも作ろうか」
「それは申し訳ないです」
「いいよ。今回俺は何も役に立っていないから」

 千秋さんは苦笑しながらそう言った。
 そんなことないのに。私のことをずっと気にかけて、心配してくれて、そばにいてくれた。それだけでもずいぶん救われている。

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