元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 千秋さんは驚いて目をみはり、私に伸ばした手をゆっくり引っ込めた。

「あ、すみません」
「いや、こちらこそ。ごめん」

 何の謝罪? 勝手に触ろうとしたこと?
 それとも、他の女と関係を持ちながら私を慰めるために抱いたこと?

 もう私の頭の中はぐちゃぐちゃで、冷静な思考が保てない。このままだと彼に八つ当たりしてしまいそうだ。

「最近、疲れがたまっていて……少し、ひとりになりたいんです」
「そうか」

 あまりにあっさりした反応で、それが余計に私の心を虚しくした。
 目頭が熱くなり、涙がこぼれそうになる寸前で、私は彼から顔を背けた。斜め下に視線をやりながら、早口で告げる。

「休暇を取ろうと思っています。ひとりでのんびり旅行でもしようと思って……」

 とっさについた嘘だけど、それを聞いた千秋さんは意外とすんなり聞き入れた。

「それがいいね。ゆっくりするといい」

 そんな言葉が聞きたいわけじゃないのに。
 今は彼のその言葉はあまり優しいとは思えない。
 だけどこれは私の身勝手な感情だから、どうにか堪えた。

「いろいろ、ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさ……」
「紗那!」

 私がぺこりとお辞儀をしたら、千秋さんが急に私を抱きしめた。
 急なことでわけがわからなくなり、硬直した。

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