元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
「千秋さんの名前には何か意味があったりしますか?」

 会話の流れでその質問をしたら、彼はさらっと答えた。

「母親が千夏だから」
「え?」
「ほら、春と冬だと女性の名前になるだろう? 秋なら男でもいけると思ったんだよ」
「そうなんですか」

 私はぼんやりと千春、千冬と名前を頭に思い浮かべて、千春くんというのも悪くないなあって思っていた。
 そうしたら、彼がぼそりと言った。

「紗那を想っているあいだはずっと、自分の名を恨んでいたよ」
「どういうことですか?」

 意味がわからず訊ねると、彼はひとことだけ返した。

一日千秋(いちじつせんしゅう)

 その言葉の意味を頭の中で探ってみる。一日が千年のように長く感じられること。つまり早くそうなりたいと待ち焦がれるという意味だ。
 千秋さんにとっての5年間のことを差しているのだと思った。

 どう返したらいいか迷って、私は逆に質問をした。

「今は、どうですか?」
「いい名だと思ってる。一番呼んでほしい人に呼んでもらえるから」
 
 満面の笑みでそう話す彼に、私は恥ずかしくなってまともに顔が見られなくなった。駅までそんなに遠くないのに、やけにこの時間が長く感じられた。

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