元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 そうじゃない、と反論したいのを私は抑えた。どれだけ説明してもきっと本当の意味で彼女には伝わらない。
 だから、私はただ自分の気持ちを伝えることに徹した。

「私ね、この一ヵ月間ひとりで考えてずいぶん冷静になれたの。今まで狭い部分しか見えていなかったけど、いろんなものが見えるようになって本当に大事なものや自分の気持ちを落ち着いて考えることができたの」
「だからあたしにもそうしろって? 地方に飛ばされることが決まったあたしにわざわざそんな嫌味を……」
「どう捉えてもらってもいいよ」

 これ以上何を言っても美鈴は反発するだろう。けれど、伝えたいことは伝えたので、私は黙って席を立ちあがった。
 すると美玲はすがるように私の腕を掴んだ。

「紗那……!」

 私はその手を静かに振り払った。

「美玲の気持ちを受け入れることはできないけど、今まで同僚として助けてもらってきたことには感謝しているから」

 私は最後に一度だけ彼女に笑顔を向けた。

「ありがとう。さようなら」

 私はそれだけ言ってレシートを手に持ち、レジで彼女の分も一緒に会計を済ませた。
 店を出るときに振り返ると、美玲はテーブルに突っ伏して泣いていた。
 少し複雑な気持ちになったけれど、もう振り返らないと決めたから、私はそのまま店を出ていった。

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