元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 いつもなら客人を前にしたらとりあえず愛想笑いくらいする母がここまで感情をむき出しにするとは、相当ストレスが溜まっているのだろう。
 兄はまだ無職のまま家にひきこもっているようだし、母は兄の世話やご近所の人たちの目に耐えられないのだろう。

 母に放置されてきた以前の私ならきっと、諦めて母の命令通りにするだろう。それは自分が必要とされていると勘違いしてしまうからだ。
 だけど違う。母が必要なのは私ではなく家政婦なんだ。

「知らないよ。私の人生は私のものだから。お母さんやお兄ちゃんの世話をするために生きているんじゃないの」
「あなた、親を見捨てるの?」
「違うよ。自立するんだよ」

 あくまで冷静に、感情的にならないようにしながら母に話す。
 すると母は少し驚いた顔をしたあと、ふっと口角を上げた。

「自立ですって? 前の結婚が破談になったとたん新しい相手を見つけておきながら自立? 笑わせないでくれる?」
「ちょ、ちょっと母さん……」

 父が慌てながら母を制止しようとするも、まったく無意味だった。
 母は千秋さんをチラ見して、冷笑しながら言う。

「あなたは騙されやすいのよ。婚約者と別れたばかりで言い寄ってくる人なんて信用できないでしょ」

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