元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 父が大声を出すのは久しぶりだ。というか、ほとんど見たことがないのでびっくりして私は固まった。
 父は息を荒らげながら、どうにか呼吸を整えて、母に強い口調で話す。

「さっきから、お前は、恥をさらすようなことばかり」
「だ、だって……」
「どうして娘の結婚を素直に祝ってやれないんだ!」
「だって紗那は失敗したばかりじゃないの」
「失敗してない! 紗那は何も失敗していないぞ!」

 部屋中に父の声が響き渡る。
 いつも何も言わない父が感情をあらわにしている。そのことに驚いているのは私だけではなくて、母も驚愕の表情で固まっている。
 
 私がとなりに目を向けると、千秋さんはやけに真剣な表情で私の父を見つめていた。私はふと彼が以前に言っていたことを思い出す。

『君はちゃんと家族から愛されているんだよ』

 急に胸の奥が熱くなり、視界が揺れた。
 あふれそうになる涙を堪えながら「お父さん」と私は呟いた。
 父は真っ赤な顔を私に向けると、すぐに笑顔になり、それから千秋さんに向かって深々と頭を下げた。

「申し訳ありません。妻の発言は忘れてください。どうか、紗那をよろしくお願いします」

 千秋さんは穏やかに笑って「はい」と答えた。

< 269 / 282 >

この作品をシェア

pagetop