元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 千秋さんは駐車場に車を停めると、私をとあるホテルのエントランスに連れてきた。そして彼は少し焦ったような口調で言った。

「ここでちょっと待っててくれる? すぐ戻るから」
「はい」

 千秋さんが行ってしまったあと、私はバーカウンターが併設されたラウンジスペースのソファ席に座って彼を待った。
 見上げると大きなシャンデリア。広いロビーには人がまばらにいる。
 さっき聞いた話ではこのホテルの最上階にあるレストランで食事をするらしい。自分の格好を見て少し落胆した。カジュアルなカットソーに無難なフレアスカート。もっとちゃんとしたワンピースを着てくればよかったなと思った。

 5分、10分、と経ってそわそわしてきた。
 スマホを見たり、周囲を見渡したり、少し落ち着かない。
 用事がどれくらいかかるんだろう。そもそも用事って何だろう?
 千秋さんはロビーにはいない。ということはホテルの外に出ているということだよね。

 ふたたび俯いてスマホに目線を落としたところだった。
 私の背後がやけに騒がしくなったのだ。

「ねえ、見て。あれ」
「すっご!」
「わー素敵」

 周囲の声に反応し、私が振り返るとそこには真っ赤な薔薇の花束(おそらく100本)を手に持ってこちらへ歩いてくる千秋さんの姿があった。

「う、うそ……!」

< 276 / 282 >

この作品をシェア

pagetop