元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
 花束は食事のあいだホテルのスタッフが預かってくれることになった。どうやら今夜はこのまま宿泊するらしい。

「私、着替え持ってきてないのに」
「いらないよ。着る必要がない」
「そうじゃなくって! いろいろ、女子は物入りなんです!」
「大丈夫、紗那は綺麗だから」

 わざわざ私の肩を抱いて耳もとでそんなことを言う。
 千秋さんの声とか仕草とか、私にとってはすごく妖艶でたぶん今夜は私が溺れてしまうんだろうなって、今からそんな覚悟をした。

 となりで歩く千秋さんの手の甲が私の手に触れた。
 もうすぐ店に入らなきゃいけないのに、私はたまらなくなって、彼の手の中に自分の指を滑り込ませて繋いだ。
 そうしたら、彼は私の手をぎゅっと握りしめて、ふたりで恋人繋ぎをしたままレストランに入った。
 恥ずかしいから、あんまり見えないように、スカートの影に隠れるようにして。

 アラサーにもなって何をやってるんだろうって自分でも思うけど、今日だけはいいかなと思った。
 だって、今でも泣きたくなるくらい、彼のことが好きだから。
 こんなに満たされるくらい幸せな結婚ができるなんて、思いもしなかった。

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