元カレに裏切られてすぐにエリート上司と出会うなんてあり得ないと思ったら計画通りでした
「紗那」

 彼は私の髪をかき上げながら顔を寄せて、私の耳もとでわざとささやくように名前を言った。

 もうこれは、卑怯としか言いようがない。
 耳に触れる吐息とともに、甘い声で声を吹き込まれたら、脳の奥まで刺激される。
 体がぞくぞくする。
 瞬く間に女をその気にさせる。

 彼はやはり遊び人なのかもしれないと勘ぐってしまう。

 たぶん私は真っ赤な顔で彼を見つめているだろう。
 アルコールの力じゃなくて、彼の甘美な言動のせいで。

「千秋さん」
「はい」
「あなたのせいです。こんな気持ちになったのは」
「うん」
「責任、とって」

 彼はにっこりと笑って静かに答えた。
 
「もちろん」

 彼は私の頭を掴んで唇をふさいだ。
 それは強引なようで、意外なくらい優しい感触だったからびっくりした。
 けれどそれよりも心地よくて、一気に雪崩のようなキスの嵐に酔いしれた。
 
 せっかく作ってくれた料理が食べられなくなったけど、なんかもうそれどころじゃなかった。

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