新そよ風に乗って 〜慕情 vol.2〜
「で、 でも……どうやって私のパスポートナンバーとか……。 だって、 絶対ゴールデンウィークなんて取れないのに。 本当に、 どうしたんですか? これ」
わからない事ばかりで、 高橋さんに問い返した。
「ハハッ……。 そんなお前が想像しているような、 悪い事はしてないぞ。 俺達は、 航空会社にいるんだぞ? 出張に行った時の仮払いの控えを見れば、 お前のパスポートナンバーも書いてあるから、 それ見て手続きをした」
あっ……確かに、 そうだ。
そんな事、 思いつかなかった。
「で、 でも、 チケットとか、 ホテルとか……どうやって……ゴールデンウィークですよ? そんな簡単には、 いくら何でも取れないですよね?」
「だぁかぁらぁ。 それは兄貴が旅行会社だから、 兄貴に言ってチョロッとまわしてもらっただけ」
高橋さんはそう言うと、 はにかんだように微笑んだ。
「高橋さん……」
「はい」
「凄く嬉しいです」
入院中、 頑張ってきて本当に良かった。
その言葉のすべてが、 今の素直な気持ちだった。
「それは、 良かった」
高橋さんは微笑んでいるが、 私は別の意味では素直に喜べなかった。
「でも、 ゴールデンウィークって、 チケットもホテルも物凄く高いですよね? 私……直ぐに、 お支払い出来ないです。 ボーナスが出てからでもいいですか?」
そう……。
その封筒の中には、 社内旅行の終わった翌日出発のハワイ行きのチケットが入っていた。
「あっ。 でも、 ボーナスが出ても全額お支払い出来ないかもしれません。 入院費とか……後、 高橋さんとの食事の積み立てとか……」
「フッ……俺との食事の積み立てか。 気にするな。 それは、 俺からの快気祝いだ」
「えっ? そ、 そんな駄目ですって。 こんな高いもの……私、 受け取れません」
思わず慌てて封筒にチケットを入れ、 返そうとして高橋さんの前に置くと、 上から高橋さんの手が私の手に重なった。
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