新そよ風に乗って 〜慕情 vol.2〜
「貴博! 久しぶり~」
『 何なの? あの女! 』
そんな御局様の怒りに満ちた声が、 聞こえた。 きっと、 山本さんの正体を知らないからなんだと思う。
「おい。 ここは日本だ。 いい加減にしろ」
高橋さんが、 首にまわされた山本さんの腕を振り解き、 体を離した。
「いつ帰ったんだ?」
「昨日よ。 健康診断の時期なのよね」
「そうか……」
山本さんは、 会社の健康診断で帰国したんだ。
「いつまで居られるんだ?」
「来週いっぱい。 全く、 終わったらすぐ帰って来いだなんて、 本当にナンセンス。 帰国したからには、 健康診断だけじゃなくてやりたいことだってあるのにさ。 こっちにも出社するから、 よろしく」
山本さんが高橋さんに握手を求めたが、 髙橋さんは握手しようと見せかけてその手を叩いた。 しかし、 そんなことは百も承知とばかりに、 山本さんもわかっていてちゃんと受け止めていたので、 2人の手が合わさる音がした。 そんな微笑ましい光景を見ていて、 こちらまで何だか幸せな気分になった。
「今夜でも、 飲みに行くか?」
高橋さんが、 山本さんを誘っていた。
「そうね。 話しもあるし……あっ! そうだ。 陽子ちゃんも、 一緒にどう?」
エッ……。
「あっ……いえ、 私は……その……お2人で積もるお話もあるでしょうし……」
「何? 陽子ちゃん。 遠慮してんの? そんなの気にする事ないわよねぇ。 貴博」
山本さんが、 高橋さんに同意を求めた。
「ああ。 矢島さんに、 用事がなければな」
「プッ!」
山本さんが、 いきなり吹き出した。
「何だよ?」
「いいえ。 別にぃ」
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