奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「バカな行動ね」
「確かに」
そんな無駄な動きをしている間に襲われたら、剣を振り上げるまでに、前ががら空きになって、速攻で、即死させられていることだろう。
「さっさと後ろの女を寄越せ。それなら、命は見逃してやってもいいぜ」
「へへっ。女一人にてこずらせやがって。大した女でもないだろーが。高値で売れもしねーぜ」
ははっと、わざとらしく後ろにいる男達も大笑いし、それで、攻撃してこないのか、最後列の男二人は並んで立っている。
その目が、嫌らしそうに、ギルバートの後ろにいるセシルに向けられているが、ギルバートの背に隠されているセシルには、舐め回すような汚いその視線は、届いていない。
「下衆だな」
もうこれで、完全に、ギルバートも容赦する必要はなくなった。
元々、容赦してやるつもりもなかったが、下衆にくれてやる情けなど、初めからないのである。
ギルバートが一歩前に出たのを見て、一番前の男が、にやっと、口を曲げる。
「おっとっ。ナイトの登場か? なら、相手してやるよ」
一番前の男が剣を構え、ダッと走り込んできた。
ギルバートは前に駆け出すのでもなく、一歩だけ踏み込んだかと思うと――男が振り上げて来た剣を、一発だけで振り払っていた。
それで、がら空きになった男の足を斬りつける。
「ぐわっ……! ――うわぁっ――――っ!」
あまりの痛さに、男が腿を押さえ込んで、地面にうずくまる。
その髪の毛を掴み上げたギルバートが、男の顔面に、モロ、鋭い蹴りを入れる。
グシャッと、顔が潰れ、鼻が折れた音と共に気を失った男を、ギルバートが無造作に横に放り投げた。
一瞬の出来事に気を取れた次の男に、ギルバートの剣が伸び、躊躇いもなく、男の腹を突き刺していた。
「うがぁっ……っ――んぐぅ――!!」
剣を引き抜いたギルバートが、スピードに乗せて足を上げ、素早い横蹴りを食わす。
それで、声もなく男が横の壁に吹っ飛び、激突して、ズルズルと、地面に崩れ落ちる。
また、一歩、ふわり――と、大股で飛んだギルバートの地面に足が届くと共に、三番目の男を斬り落とす。
「――っぐぁ――!!」
目を大きくしたのもつかの間、ドサリと、男が地面に倒れ込んでいた。
このギルバートは王国騎士団の騎士サマで、おまけに、第三王子殿下ともなる、王子サマである。
王族で、貴族のお坊ちゃまのはずなのに、随分、喧嘩慣れしていて、おまけに、型にはまったお綺麗な戦い方でもない。
ここまでくると、ストリートファイティング、と言っても過言ではない。
さすがに、ギルバートがここまで強かったなど予想していなかったセシルだけに、珍しく、セシルも驚いてしまう。
一瞬だけ、剣を振ったようなギルバートが、剣の血糊を振り飛ばしていた。
そして、向きを変えずに、また一歩大きく飛んで、地面の男達をよけて、後ろに戻って来たのだ。
「なっ――なんだっ、このヤローっ!!」
「――――ふざけんじゃねー――っ!」
あまりの素早さに驚いて、呆然と立ち尽くしていた残りの三人だったが、怒気も露わに、顔を真っ赤にして、一斉に剣を抜き放つ。
「下衆が。マスターに手を出そうなんて、お前らは地獄行き決定だ」
突然割って入って来た声に驚き、パっと、一番後ろの男が振り返った――が、声も出さずに、その男が地面に崩れ落ちていた。
「――なっ――っ!」
ドサリ、と後ろで仲間が倒れた気配で、二人の男が振り返り、そこに突っ伏している男を見て、一気に殺気立つ。
「くそっ!」
「きさまっ――」
だが、次の罵声が飛ぶ前に、シュッ――と、何かが空を切っていた。
「うっ……!」
「……ぐっ……!」
それで、後ろを向きかけた男達は、なぜか、フラフラと足をもつれさせ、その場で、ドサッと、倒れ込んでいたのだ。
さすがに、突然の新手の登場で、おまけに、あっさり残りの男達を倒してしまった――目の前の子供に、ギルバートが瞠目してしまう。
だが、視界の前で立っている、まだ背も体格も小さい――気にした様子もない子供が、スタスタと前に進んできて、そこで伸びている男の頭を、平気で蹴り飛ばした。
男達の反応は、全くなかった。
見れば――男達の額のど真ん中に、細いナイフが突き刺さっていたのだ。
その子供は、セシルのような黒いマントを被り、その襟元からフードを立て、口元は布で隠した覆面をしている為、目元しか見えない。
驚きを隠せないギルバートの前で、その子供は、ギルバートが倒した地面で伸びている三人の男達の背中の上を平気で踏みつけ、こっちに渡ってきて、それで、スタスタとギルバートの前にたどり着いた。
「マスター、ご無事ですか?」
布で隠された声がくぐもっていても、声質は、子供のものそのものだった。
「ええ、無事よ。ありがとう。迎えに来てくれたの?」
「はい」
尾けられていた気配は、ギルバートだって察知していた。
だが、子供の気配は、感じ取れなかった。
その事実にも驚きで、ギルバートは目の前にいる子供を、警戒したように見下ろしている。
まさか、アルデーラの話していたセシルの精鋭部隊が、本気で、本当に、子供だった事実に、ギルバートは驚きが隠せない。
一体、いくつなのかは知らないが、セシルよりも背が低く、マントを被っていても、体格だって、それほど大きな体格ではないはずなのだ。
それが、ナイフの一撃で、ヤサグレ共を瞬殺するなど――信じられない話だ!
「さて、この男達どうします? ここに護衛の騎士達を呼びつけてしまえば、大騒ぎになり、どこかで見張っている敵に、バレてしまいますわね」
王宮から出たばかりのセシルを直接狙ってくるなど、すでに、王宮内でも、セシルを密かに見張っていたかのような素早さである。
王宮内にも腐った鼠がいるのは、間違いなかった。
ギルバートも、その点だけは真剣に考えてみる。
「まずは、生き残っている者から、少し話を聞きましょう。その後に、一度、分かれた組と合流するべきだと思います。向こうでも狙われていたのなら、かなりの数を飛ばしていることになります」
それなら、そんなヤサグレ共を雇う雇い主だって、ただの貴族や金持ちというだけにはならないはずだ。
それに、あまりに計画的に、セシルが王宮を出ると共に、すぐに狙ってきた。
元より、王宮でも敵の“目”が潜んでいても不思議はないが、ギルバートには、王宮側でも裏切り者を吊り上げる為には、まず、背後の人間が一体どれだけの力があるのか、把握しておかなければならない。
「では、通りを少し見張っていてくれませんか? 近寄って来る気配があれば、すぐに知らせてください」
「わかりました」
子供が一度頷き、後ろに戻って行く際、地面に転がっている男達の――頭からナイフを抜き取り、そして、通りに出る一歩前で、辺りを伺うように、壁側に身体を寄せる。
その動きを観察していたギルバートも、地面で足を抱え込んだまま気絶している男の首根を掴み上げ、グイッと、引っ張り上げた。
「ご令嬢は、あちらでお待ちください」
「別に、その程度、気にしていませんが」
貴族のご令嬢でありながら――これから、ギルバートが “少々厳しいお話し合い” を始めようとも、恐怖もなく、嫌悪もないというのか?
このご令嬢――本当に、一体、何者なのだろうか?
夜会のことと言い、さっきからの行動と言い、ギルバートの胸内には、激しい疑問が湧いてしまっているが、今は、そんなことに集中が逸れている場合ではない。
うぐぅ……と、腿を切られた男は、両手で腿を押さえ付きながら、体を丸め、すすり泣きが止まない。
「誰に雇われた?」
グイッと、重そうな男を難なく引っ張り上げたギルバートの力のせいで、男は壁にしっかりと顔を押し付けられていた。
「……ぐぅ……っ……!」
「誰に雇われた?」
怒鳴り声でもない。威張り散らしているのでもない。
ただ、感情の欠片も感じられないほどの冷たい声色をし、無機質で、無表情で、淡々と、ギルバートが男の頭を壁に向かって殴りつけた。
「確かに」
そんな無駄な動きをしている間に襲われたら、剣を振り上げるまでに、前ががら空きになって、速攻で、即死させられていることだろう。
「さっさと後ろの女を寄越せ。それなら、命は見逃してやってもいいぜ」
「へへっ。女一人にてこずらせやがって。大した女でもないだろーが。高値で売れもしねーぜ」
ははっと、わざとらしく後ろにいる男達も大笑いし、それで、攻撃してこないのか、最後列の男二人は並んで立っている。
その目が、嫌らしそうに、ギルバートの後ろにいるセシルに向けられているが、ギルバートの背に隠されているセシルには、舐め回すような汚いその視線は、届いていない。
「下衆だな」
もうこれで、完全に、ギルバートも容赦する必要はなくなった。
元々、容赦してやるつもりもなかったが、下衆にくれてやる情けなど、初めからないのである。
ギルバートが一歩前に出たのを見て、一番前の男が、にやっと、口を曲げる。
「おっとっ。ナイトの登場か? なら、相手してやるよ」
一番前の男が剣を構え、ダッと走り込んできた。
ギルバートは前に駆け出すのでもなく、一歩だけ踏み込んだかと思うと――男が振り上げて来た剣を、一発だけで振り払っていた。
それで、がら空きになった男の足を斬りつける。
「ぐわっ……! ――うわぁっ――――っ!」
あまりの痛さに、男が腿を押さえ込んで、地面にうずくまる。
その髪の毛を掴み上げたギルバートが、男の顔面に、モロ、鋭い蹴りを入れる。
グシャッと、顔が潰れ、鼻が折れた音と共に気を失った男を、ギルバートが無造作に横に放り投げた。
一瞬の出来事に気を取れた次の男に、ギルバートの剣が伸び、躊躇いもなく、男の腹を突き刺していた。
「うがぁっ……っ――んぐぅ――!!」
剣を引き抜いたギルバートが、スピードに乗せて足を上げ、素早い横蹴りを食わす。
それで、声もなく男が横の壁に吹っ飛び、激突して、ズルズルと、地面に崩れ落ちる。
また、一歩、ふわり――と、大股で飛んだギルバートの地面に足が届くと共に、三番目の男を斬り落とす。
「――っぐぁ――!!」
目を大きくしたのもつかの間、ドサリと、男が地面に倒れ込んでいた。
このギルバートは王国騎士団の騎士サマで、おまけに、第三王子殿下ともなる、王子サマである。
王族で、貴族のお坊ちゃまのはずなのに、随分、喧嘩慣れしていて、おまけに、型にはまったお綺麗な戦い方でもない。
ここまでくると、ストリートファイティング、と言っても過言ではない。
さすがに、ギルバートがここまで強かったなど予想していなかったセシルだけに、珍しく、セシルも驚いてしまう。
一瞬だけ、剣を振ったようなギルバートが、剣の血糊を振り飛ばしていた。
そして、向きを変えずに、また一歩大きく飛んで、地面の男達をよけて、後ろに戻って来たのだ。
「なっ――なんだっ、このヤローっ!!」
「――――ふざけんじゃねー――っ!」
あまりの素早さに驚いて、呆然と立ち尽くしていた残りの三人だったが、怒気も露わに、顔を真っ赤にして、一斉に剣を抜き放つ。
「下衆が。マスターに手を出そうなんて、お前らは地獄行き決定だ」
突然割って入って来た声に驚き、パっと、一番後ろの男が振り返った――が、声も出さずに、その男が地面に崩れ落ちていた。
「――なっ――っ!」
ドサリ、と後ろで仲間が倒れた気配で、二人の男が振り返り、そこに突っ伏している男を見て、一気に殺気立つ。
「くそっ!」
「きさまっ――」
だが、次の罵声が飛ぶ前に、シュッ――と、何かが空を切っていた。
「うっ……!」
「……ぐっ……!」
それで、後ろを向きかけた男達は、なぜか、フラフラと足をもつれさせ、その場で、ドサッと、倒れ込んでいたのだ。
さすがに、突然の新手の登場で、おまけに、あっさり残りの男達を倒してしまった――目の前の子供に、ギルバートが瞠目してしまう。
だが、視界の前で立っている、まだ背も体格も小さい――気にした様子もない子供が、スタスタと前に進んできて、そこで伸びている男の頭を、平気で蹴り飛ばした。
男達の反応は、全くなかった。
見れば――男達の額のど真ん中に、細いナイフが突き刺さっていたのだ。
その子供は、セシルのような黒いマントを被り、その襟元からフードを立て、口元は布で隠した覆面をしている為、目元しか見えない。
驚きを隠せないギルバートの前で、その子供は、ギルバートが倒した地面で伸びている三人の男達の背中の上を平気で踏みつけ、こっちに渡ってきて、それで、スタスタとギルバートの前にたどり着いた。
「マスター、ご無事ですか?」
布で隠された声がくぐもっていても、声質は、子供のものそのものだった。
「ええ、無事よ。ありがとう。迎えに来てくれたの?」
「はい」
尾けられていた気配は、ギルバートだって察知していた。
だが、子供の気配は、感じ取れなかった。
その事実にも驚きで、ギルバートは目の前にいる子供を、警戒したように見下ろしている。
まさか、アルデーラの話していたセシルの精鋭部隊が、本気で、本当に、子供だった事実に、ギルバートは驚きが隠せない。
一体、いくつなのかは知らないが、セシルよりも背が低く、マントを被っていても、体格だって、それほど大きな体格ではないはずなのだ。
それが、ナイフの一撃で、ヤサグレ共を瞬殺するなど――信じられない話だ!
「さて、この男達どうします? ここに護衛の騎士達を呼びつけてしまえば、大騒ぎになり、どこかで見張っている敵に、バレてしまいますわね」
王宮から出たばかりのセシルを直接狙ってくるなど、すでに、王宮内でも、セシルを密かに見張っていたかのような素早さである。
王宮内にも腐った鼠がいるのは、間違いなかった。
ギルバートも、その点だけは真剣に考えてみる。
「まずは、生き残っている者から、少し話を聞きましょう。その後に、一度、分かれた組と合流するべきだと思います。向こうでも狙われていたのなら、かなりの数を飛ばしていることになります」
それなら、そんなヤサグレ共を雇う雇い主だって、ただの貴族や金持ちというだけにはならないはずだ。
それに、あまりに計画的に、セシルが王宮を出ると共に、すぐに狙ってきた。
元より、王宮でも敵の“目”が潜んでいても不思議はないが、ギルバートには、王宮側でも裏切り者を吊り上げる為には、まず、背後の人間が一体どれだけの力があるのか、把握しておかなければならない。
「では、通りを少し見張っていてくれませんか? 近寄って来る気配があれば、すぐに知らせてください」
「わかりました」
子供が一度頷き、後ろに戻って行く際、地面に転がっている男達の――頭からナイフを抜き取り、そして、通りに出る一歩前で、辺りを伺うように、壁側に身体を寄せる。
その動きを観察していたギルバートも、地面で足を抱え込んだまま気絶している男の首根を掴み上げ、グイッと、引っ張り上げた。
「ご令嬢は、あちらでお待ちください」
「別に、その程度、気にしていませんが」
貴族のご令嬢でありながら――これから、ギルバートが “少々厳しいお話し合い” を始めようとも、恐怖もなく、嫌悪もないというのか?
このご令嬢――本当に、一体、何者なのだろうか?
夜会のことと言い、さっきからの行動と言い、ギルバートの胸内には、激しい疑問が湧いてしまっているが、今は、そんなことに集中が逸れている場合ではない。
うぐぅ……と、腿を切られた男は、両手で腿を押さえ付きながら、体を丸め、すすり泣きが止まない。
「誰に雇われた?」
グイッと、重そうな男を難なく引っ張り上げたギルバートの力のせいで、男は壁にしっかりと顔を押し付けられていた。
「……ぐぅ……っ……!」
「誰に雇われた?」
怒鳴り声でもない。威張り散らしているのでもない。
ただ、感情の欠片も感じられないほどの冷たい声色をし、無機質で、無表情で、淡々と、ギルバートが男の頭を壁に向かって殴りつけた。