奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「……っうぅ……くそっ……!」
痛さで顔をしかめながら、一番上に伸し掛かっている男が、起き上がりだした――
「……ぅく……っ……お、い……!」
だが、一番上の男が起き上がった反動で、すぐ下の男の首輪が閉められ、二番目の男が一番上の男の身体を引っ張り返す。
その動きで、三番目の男の首が絞められ、同じ動作をしてしまった三番目、四番目と、連鎖反応で、全員が首を絞めつけられてしまったのだ。
うぐぅ……!
あっ……くぅ……!
男達の苦し気な呻き声だけが、響き渡る。
「――お前ら、えげつねーな……」
反対の壁側で傍観している男達も、少々、顔を強張らせている。
自分が引っ張っていた縄の端っこを、階段の木枠にグルグルと巻き付け終わった子供が、しっかりと結び目をくくりつける。
「動かなかったら死なないんだから、平気だろ」
そして、ダマになった六人の男達は、無様な格好と体勢で、ひっくり返ったまま、階段の下でもがき苦しんでいる。
ここで、忘れられている重要な点は、六番目で一番下に下敷きになっている男は、五人分のいかつい男達の体重を一気に受け、首を絞められるよりも、その重みで――すでに窒息死しているなど、やはり、その点は深く指摘しないでおくべきでしょう……。
一気に店内が静まり返り、数十秒もしないで、敵は全滅状態。
だが、外には、店内の気配を伺っていた敵が、まだ残っていた。
店内がシーンと静まり返っていて、その後から、喧騒が上がってくるのでもない不穏な様子に――店のドアが、ゆっくりと開いていく。
それで、また他の男達が、ゆっくりと、慎重に、店の中に入って来た。
四人。風体の悪そうなヤサグレ。
これ、敵、確定ね。
「あんたら、誰か追ってるの?」
四人の男達の真正面に、一番小さな子供が立ちはだかった。
「さあな」
「10数えるうちに、退散する?」
「するかよっ。ふざけんな、ガキが!」
「あっそ」
それを言い捨てると共に、ザッ――と、マントの下から、ボーガンが男達に向けられた。
「なっ――!!」
「はい、一丁上がり!」
壁側に移動していたもう一人が、手に持っていたナイフで、壁に巻き付けてある縄を斬り落としていた。
縄が一気に緩んで、天井に吊らしてあったシーツの中には、錘を詰め込んだ木箱が。
グシャンッ――!
ガラガラっ、ガシャ――!
バラバラっ――!
ものすごい轟音が響き渡り、男達目掛けて落ちて来た木箱が、直撃する。
全員が木箱の下敷きになり、木箱自体も地面に叩きつけらえて、バラバラと破壊して、木辺が飛び散っていった。
悲鳴を上げる暇さえなく、男達が無残に木箱の下敷きになった。
自分のお店でもないのに、子供達が勝手に改造してしまって、店のマスターだって――実は、ゲンナリ……。
最初、「少しだけ、対侵入者避けの仕掛けをしていいか?」 などと、お願いされた時は、店のマスターだって、速攻でその要望を断っていた。
だが、その分の支払いはするから、とその分の金額を出されては――まあ、嫌とは言えない。それで、仕方なく、店を壊さない程度ならいい、と承諾したマスターだ。
それで、イソイソと、嬉しそうに、子供達が天井に錘を仕掛けたり、ドア側に飛び矢を仕掛けたりと――忙しく動き回っているその光景を見ていた客達や、その店でたむろっている傭兵達だ。
それで、「このガキ共、只者じゃないな」 と、暗黙の了解が上がっていたのだ。
期待を外さず、期待通り、このガキ共は大暴れしてくれたものだ。
「あの――さすがに……、手加減無用――など、少々、問題になるのではありませんか?」
唖然としているギルバートが、つい、そんなことを聞き返してしまっていた。
「そう、かもしれませんわね……。つい、行き過ぎてしまうんですのよね」
階下の惨状を見ながら、うーん……と、セシルもちょっと考えてしまう。
「行き過ぎ――って……、そういう問題ではないのでは……?」
「張り切っていますから」
いやいやいやいやいや。
そこで、困ったわぁ……などと、傍観している場合じゃないでしょう?
一切、止めに入らないセシルに、ギルバートとクリストフも更に唖然としてしまう。
「なんなんですか、あなたは……?!」
つい、ギルバートの口から、洩れてしまっていた呟きだ。
「ただの伯爵令嬢です」
そんなわけないでしょう……!
そうしている間にも、階下では、壁側に寄っていた客達が、「いいぞっ、ガキ共!」 などと、やんや、やんやと、喝采を上げている。
最早、店の中では、子供達が大暴れしている状況が見世物と化して、誰一人、止める者もいない。
酒の肴になって、そこで飲み食いしていた客達が、賑わっている。
「契約通り、破損した器物などは、全額、弁償してくださいね」
そして、抜け抜けとそんなことを言ってくるセシルに、ギルバートとクリストフの顔が、かなり引き攣ってしまっていた。
階段の真下では、捕縛された男達がダマになっているので、そこを通過することはできない。
それで、ある程度の階段の下まで降りて来たギルバートは、仕方なく、手すりを跨ぎ、そこから飛び降りていた。クリストフも同様に。
セシルも手すりを跨いでくるので、ギルバートがセシルの前に両腕を出していた。
手すりに掴まって、階段の端に立ったセシルが、その出された腕を見下ろす。
まあ、親切に、女性を気遣ってくれているので、セシルもギルバートの腕の方に手を置き、体重を乗せるようにした。
「非礼を失礼いたします」
「――!」
ふわっと、ギルバートの腕がいきなりセシルの腰を掴み、そのまま持ち上げる形で、セシルを床に下ろしていたのだ。
「非礼をお詫びいたします」
「いえ――」
まあ、セシルは無事に床に降りられたので、文句を言う場面でもない。
だが、今の一瞬、ギルバートは、抱き上げたセシルの長い前髪の下で、本当に一瞬だけ覗かせた、その深い藍の瞳を目撃していた。
薄暗い室内でもはっきりと色を分けるほどの、深い藍の瞳だった。
大きな、藍の瞳だった。
長い前髪が邪魔で、今まで一度として、セシルの顔を確認できなかった中で、ほんの一瞬だけ垣間見たセシルの顔立ちは――たぶん綺麗な部類に入るのだろう。
顎の線や、そういった顔のパーツが整っている感じで、もしかしたら、野暮ったい外見に反して、整った容姿なのかもしれない、と疑い始めていたギルバートの憶測は、あながち間違ってはいなかったらしい。
子供達は、せっせと敵の郎党から、武器をかき集めている。
ドサッ、ガタッ――
手に抱え込んだ武器を持って、子供達がカウンターの上に武器を投げた。
「これ、換金したら、少しは金になるかも」
所有者から勝手に奪って、承諾も得ていない武器を持ってきた子供達も、随分、図太い神経をしている。
カウンターの奥で、マスターが、ちらりと、カウンターのテーブルの上に乗っている武器に視線を向けた。
「まあ、いいだろう」
「それなら、俺にも見せてくれよ」
壁側で余興を楽しんでいた男達が数人立ち上がって、気軽にカウンターに寄って来た。
勝手に武器を取り上げ、勝手に見分している。
「大した価値はありそうもないけどなあ――」
などと、それでも、勝手に見分するのは止めないらしい。
タダで手に入る武器なら貰っておこう、ってなもんだ。
武器の没収が終わったので、三人の子供達は指示もないのに、木箱や錘の下で下敷きになった男達の回収に、バラバラになった木箱を片している。
姿が見えて来た男達は、全員、気絶していた。
男達一人一人を放り投げて、後ろ手で縛り上げていく。
痛さで顔をしかめながら、一番上に伸し掛かっている男が、起き上がりだした――
「……ぅく……っ……お、い……!」
だが、一番上の男が起き上がった反動で、すぐ下の男の首輪が閉められ、二番目の男が一番上の男の身体を引っ張り返す。
その動きで、三番目の男の首が絞められ、同じ動作をしてしまった三番目、四番目と、連鎖反応で、全員が首を絞めつけられてしまったのだ。
うぐぅ……!
あっ……くぅ……!
男達の苦し気な呻き声だけが、響き渡る。
「――お前ら、えげつねーな……」
反対の壁側で傍観している男達も、少々、顔を強張らせている。
自分が引っ張っていた縄の端っこを、階段の木枠にグルグルと巻き付け終わった子供が、しっかりと結び目をくくりつける。
「動かなかったら死なないんだから、平気だろ」
そして、ダマになった六人の男達は、無様な格好と体勢で、ひっくり返ったまま、階段の下でもがき苦しんでいる。
ここで、忘れられている重要な点は、六番目で一番下に下敷きになっている男は、五人分のいかつい男達の体重を一気に受け、首を絞められるよりも、その重みで――すでに窒息死しているなど、やはり、その点は深く指摘しないでおくべきでしょう……。
一気に店内が静まり返り、数十秒もしないで、敵は全滅状態。
だが、外には、店内の気配を伺っていた敵が、まだ残っていた。
店内がシーンと静まり返っていて、その後から、喧騒が上がってくるのでもない不穏な様子に――店のドアが、ゆっくりと開いていく。
それで、また他の男達が、ゆっくりと、慎重に、店の中に入って来た。
四人。風体の悪そうなヤサグレ。
これ、敵、確定ね。
「あんたら、誰か追ってるの?」
四人の男達の真正面に、一番小さな子供が立ちはだかった。
「さあな」
「10数えるうちに、退散する?」
「するかよっ。ふざけんな、ガキが!」
「あっそ」
それを言い捨てると共に、ザッ――と、マントの下から、ボーガンが男達に向けられた。
「なっ――!!」
「はい、一丁上がり!」
壁側に移動していたもう一人が、手に持っていたナイフで、壁に巻き付けてある縄を斬り落としていた。
縄が一気に緩んで、天井に吊らしてあったシーツの中には、錘を詰め込んだ木箱が。
グシャンッ――!
ガラガラっ、ガシャ――!
バラバラっ――!
ものすごい轟音が響き渡り、男達目掛けて落ちて来た木箱が、直撃する。
全員が木箱の下敷きになり、木箱自体も地面に叩きつけらえて、バラバラと破壊して、木辺が飛び散っていった。
悲鳴を上げる暇さえなく、男達が無残に木箱の下敷きになった。
自分のお店でもないのに、子供達が勝手に改造してしまって、店のマスターだって――実は、ゲンナリ……。
最初、「少しだけ、対侵入者避けの仕掛けをしていいか?」 などと、お願いされた時は、店のマスターだって、速攻でその要望を断っていた。
だが、その分の支払いはするから、とその分の金額を出されては――まあ、嫌とは言えない。それで、仕方なく、店を壊さない程度ならいい、と承諾したマスターだ。
それで、イソイソと、嬉しそうに、子供達が天井に錘を仕掛けたり、ドア側に飛び矢を仕掛けたりと――忙しく動き回っているその光景を見ていた客達や、その店でたむろっている傭兵達だ。
それで、「このガキ共、只者じゃないな」 と、暗黙の了解が上がっていたのだ。
期待を外さず、期待通り、このガキ共は大暴れしてくれたものだ。
「あの――さすがに……、手加減無用――など、少々、問題になるのではありませんか?」
唖然としているギルバートが、つい、そんなことを聞き返してしまっていた。
「そう、かもしれませんわね……。つい、行き過ぎてしまうんですのよね」
階下の惨状を見ながら、うーん……と、セシルもちょっと考えてしまう。
「行き過ぎ――って……、そういう問題ではないのでは……?」
「張り切っていますから」
いやいやいやいやいや。
そこで、困ったわぁ……などと、傍観している場合じゃないでしょう?
一切、止めに入らないセシルに、ギルバートとクリストフも更に唖然としてしまう。
「なんなんですか、あなたは……?!」
つい、ギルバートの口から、洩れてしまっていた呟きだ。
「ただの伯爵令嬢です」
そんなわけないでしょう……!
そうしている間にも、階下では、壁側に寄っていた客達が、「いいぞっ、ガキ共!」 などと、やんや、やんやと、喝采を上げている。
最早、店の中では、子供達が大暴れしている状況が見世物と化して、誰一人、止める者もいない。
酒の肴になって、そこで飲み食いしていた客達が、賑わっている。
「契約通り、破損した器物などは、全額、弁償してくださいね」
そして、抜け抜けとそんなことを言ってくるセシルに、ギルバートとクリストフの顔が、かなり引き攣ってしまっていた。
階段の真下では、捕縛された男達がダマになっているので、そこを通過することはできない。
それで、ある程度の階段の下まで降りて来たギルバートは、仕方なく、手すりを跨ぎ、そこから飛び降りていた。クリストフも同様に。
セシルも手すりを跨いでくるので、ギルバートがセシルの前に両腕を出していた。
手すりに掴まって、階段の端に立ったセシルが、その出された腕を見下ろす。
まあ、親切に、女性を気遣ってくれているので、セシルもギルバートの腕の方に手を置き、体重を乗せるようにした。
「非礼を失礼いたします」
「――!」
ふわっと、ギルバートの腕がいきなりセシルの腰を掴み、そのまま持ち上げる形で、セシルを床に下ろしていたのだ。
「非礼をお詫びいたします」
「いえ――」
まあ、セシルは無事に床に降りられたので、文句を言う場面でもない。
だが、今の一瞬、ギルバートは、抱き上げたセシルの長い前髪の下で、本当に一瞬だけ覗かせた、その深い藍の瞳を目撃していた。
薄暗い室内でもはっきりと色を分けるほどの、深い藍の瞳だった。
大きな、藍の瞳だった。
長い前髪が邪魔で、今まで一度として、セシルの顔を確認できなかった中で、ほんの一瞬だけ垣間見たセシルの顔立ちは――たぶん綺麗な部類に入るのだろう。
顎の線や、そういった顔のパーツが整っている感じで、もしかしたら、野暮ったい外見に反して、整った容姿なのかもしれない、と疑い始めていたギルバートの憶測は、あながち間違ってはいなかったらしい。
子供達は、せっせと敵の郎党から、武器をかき集めている。
ドサッ、ガタッ――
手に抱え込んだ武器を持って、子供達がカウンターの上に武器を投げた。
「これ、換金したら、少しは金になるかも」
所有者から勝手に奪って、承諾も得ていない武器を持ってきた子供達も、随分、図太い神経をしている。
カウンターの奥で、マスターが、ちらりと、カウンターのテーブルの上に乗っている武器に視線を向けた。
「まあ、いいだろう」
「それなら、俺にも見せてくれよ」
壁側で余興を楽しんでいた男達が数人立ち上がって、気軽にカウンターに寄って来た。
勝手に武器を取り上げ、勝手に見分している。
「大した価値はありそうもないけどなあ――」
などと、それでも、勝手に見分するのは止めないらしい。
タダで手に入る武器なら貰っておこう、ってなもんだ。
武器の没収が終わったので、三人の子供達は指示もないのに、木箱や錘の下で下敷きになった男達の回収に、バラバラになった木箱を片している。
姿が見えて来た男達は、全員、気絶していた。
男達一人一人を放り投げて、後ろ手で縛り上げていく。