奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
 重厚なドアの真ん中が、グチャリ、と突き出るほどに曲がっていて、すぐに、そのドアをおもいっきり蹴飛ばすような勢いで、ドアが吹っ飛ばされた。

 半分はドアが(くだ)け、半分は無様にぶら下がっているようなドアの間から、誰か――黒い(かたまり)が姿を出した。

 覆面をした新手の男が、サッと、教会内を一気に見渡し、壁側にセシルがいることも確認していた。

「随分、派手にやってんな、あいつら」
「おいおい。またかよ」

 すぐ後ろからやってきた二人も、教会内の――惨状を見て、覆面の奥で、苦笑いを浮かべている。

「相変わらずだな、あのガキ共」

 リアーガ達が入り口にやってきたのを確認し、フィロが叫んでいた。

「全員、一斉攻撃開始っ!」
「「了解っ」」

 子供達が全員、今、相手にしていた敵を無視して、祭壇に向かって駆けだした。

「もう、護衛は必要ありませんよ」

 なにしろ、心強い援軍がやって来たのだから。

「クリストフ」
「わかりました」

 クリストフもその場を捨て、子供達が放棄した男達に向かい、駆け出した。

 入り口から突入してきた新手の男達は、どうやら、屋敷の外で待機させていた騎士達も、一緒に連れてきたようである。

 どうやって騎士達を説き伏せたのかは知らないが、バラバラ、バラバラと、吹っ飛ばされたドアから、騎士達が乗り込んでくる。

 これで、完全に形勢逆転だ。

「くそっ……! くそっ……っ! こっちに近寄らせるなっ」

 自分の護衛に囲まれて、後ろでせせら笑っていたフリイス公爵が、予想外の形勢逆転劇に、慌てふためいて、(わめ)き散らし出す。

「さっさと殺せっ。なにをしているっ!」

 大声で(わめ)き散らされ、命令されて、屋敷の護衛達が、子供達の前に立ちはだかって剣を抜く。

 だが、ジャン、ケルト、ハンスは勢いを止めず、まず、狙い定めた真ん中の護衛に、全員で斬りかかって行った。

「なにをっ――!」

 剣での戦いになると、大抵、正攻法に陥る状況が多い。
 二人、剣で向き合ってしまうと、周囲で茶々入れできないと考えているのか、隙ができるまで、周囲にいる者は、剣を構えたまま、待ってしまう護衛達がたくさんいるのだ。

 だが、ジャン達は、昔から、チームで行動してきた子供達だ。
 卑怯だろうとなんだろうと、大人相手に戦って、生き延びる術を身に着けて、生き延びて来ただけに、全員攻撃は、子供達の十八番(おはこ)だ。

 朝飯前のお手のもの。

 それで、ジャンが最初に斬りかかり、ジャンの剣先を受け止めた護衛の横から、ケルトとハンスが同時に攻撃に参戦する。――というより、ケルトが、剣で思いっきり突き刺した、と言っても過言ではないだろう。

 ハンスの方は、グルグルと早い回転させたファイアーボールの鉄球を、思いっきり、男の頭に振り落とす。

 グシャリッ、直撃して、それで、男は完全に気絶していた。

 シュッ――
 ブシュッ――

 後衛からは、ジャン達に斬りかかろうとした護衛に、トムソーヤがナイフを投げつけていた。
 威力がなくとも、その後すぐに、フィロがボーガンの矢を放つ。

 まだ動きがあった護衛の頭には、ナイフが突き刺さり、意識を保っていたはずの胸には、ボーガンの矢が。
 それで、ドサリッと、護衛の一人は完全に落ちていた。

「ひいぃっ……!! ――なにをしているっ。殺せっ、殺せっ――!」

 バタバタと、次から次に、フリイス侯爵の目の前に陣取らせていた護衛が倒れていき、フリイス公爵が護衛を放ったらかしで、祭壇の後ろに逃げ込んでいった。

「さっきも言ったけど、ここの出入り口は、全部、塞いでんだよ」
「そうそう。入り口は、後ろのあのドア一つ」

「ふざけるなっ! きさまら、タダで済むと思うなよっ」
「だったら、なんだって言うんだ」

 シュッ――
 ブシュッ――

 かなり距離があるはずなのに、子供達が迫ってきている後ろから、ナイフと矢がフリイス公爵に向かって飛んでくる。

「うああぁっ……!」

 ナイフと矢の両方が肩に刺さり、フリイス公爵が大声で叫んでいた。
 あまりの痛さにしゃがみこんで、フリイス公爵が肩を押さえつけながら、前のめりになった。

 ジャンが一気に祭壇まで駆け上がり、思いっきり足でフリイス公爵を蹴り上げる。

 ガガツッ――

 これは、一発、フリイス公爵の顎に入った。

 ふっ、とジャンが軽蔑したような冷笑を投げ捨てる。だが、その口元は、随分、満足そうな、薄い笑みが上がっていた。

 ジャンの皮ブーツは、ただの靴じゃないのだ。
 改造して、靴底とつま先には、(なまり)(おもり)を入れ込んである武器だ。

 普段からも、その重さに耐えられるように、動き回れるように、ジャンは、もう、ずっと昔から、この余分な重さを足したまま、訓練し続けてきたのだ。

 そんな重さのあるブーツで思いっきり蹴り上げられたのなら、顎の一つや二つ、粉砕していてもおかしくはない。

 現に、床に吹っ飛ばされたフリイス公爵の口が、変な方向に曲がり、口を閉じられない場所から、血と(よだれ)が零れ落ちていた。

 床にくたばっているフリイス公爵の周りには、覆面をした五人の子供が、冷酷にフリイス公爵を見下ろしている。

「お前、マスターを監禁するなんて、死罪確実だな」
「絶対許さねー」

 うがっ、うがっ……と、壊れた顎では喋ることもままならいフリイス公爵の目には、恐怖が浮かび上がり、ずるずると、身体を引きずっていく。

 ハンスとケトルの手には、ボーガンが。

 シュッ――
 ブシュッ――

 今度は、ボーガンの矢が、フリイス公爵の両脚に突き刺さっていた。

 その様子を遠巻きに見ていたギルバートが動き出しかけ、その腕に、セシルの手が乗せられた。

「殺しはしませんよ」

 セシルを振り返ったギルバートは、無言でセシルに問いかける。

「殺しはしません。大事な証人ですからねえ、大罪人としての」

 セシルの手がギルバートを押さえ、動きかけているギルバートを止めているので、ギルバートも、仕方なさそうに溜息(ためいき)をついていた。

「わかりました」

 リアーガ達が参戦したことにより、残りの郎党も全滅だ。
 騎士団が混ざって、フリイス公爵の護衛達も全滅だ。

 これで、幕は下りた。

「一件落着、のようですね」
「そう、ですね……」

 信じられない話だ!

 一件落着――したのは、隣国の伯爵()()がいたからで、令嬢に従う()()()がハチャメチャにしてしまったからだ、など……。

 あまりに前代未聞の状態に、結末に、ギルバートもすでに言葉が出てこない。

「期限の二週間前に事件が片付いたようで、安堵なさっているでしょう?」

 その皮肉にも、もう……、反応も反論もありません。


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