奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *


 一件落着で、今回の悪の大元であるフリイス公爵は、現代で言えば、現行犯逮捕で捕縛された。

 王宮に飛ばされた早馬で、(しら)せを受けた第三騎士団は、かなりの数の騎士達を、フリイス公爵家の屋敷に早急に派遣した。

 それと同時に、第三騎士団団長からの知らせを受け、アルデーラは、更なる騎士の投入で、第二騎士団の騎士達を派遣。

 彼らは、前回と同じように、屋敷を封鎖し、徹底的に、邸内の証拠を調べ上げる任務だ。

 次々と到着する騎士団の騎士達に囲まれ、屋敷の住人も使用人も捕縛され、状況が判らないまま、全員が大広間に連れて来られ、そこで監視付きのまま、屋敷の調査に取り調べが終わるまで、全員、監禁状態だ。

 フリイス公爵夫人及び、息子二人は、その場で捕縛され投獄。

 夫がなにやらうるさく動き回っていたようだったが、大した気にも留めていなかった夫人や息子二人は、自室や遊戯室で、随分、のんびりと過ごしていたらしい。

 騎士達がなだれ込んで、それで驚いた三人が、喚(わめ)き散らしていたらしい。

 「不敬罪で訴えってやるっ!」 などと。

 自分達は公爵家で最高位の貴族で、今までは、絶対不可侵の領域で権威だった為、まさか、その自分達の身に、騎士団の手が伸びるなど、夢にも思わなかったことだろう。

 今回の大捕物(おおとりもの)は、アトレシア大王国にある七家の公爵家の一つが混ざっていただけに、“長老派”が仕切る派閥の、まず、一つ目を叩き潰した成果と言える。

 この成果は、アルデーラにとっては、ものすごい貴重な結果だった。
 後々の、アルデーラの統治を左右するほどの、最も重要な事件と認識されてもおかしくはないほどに。

 まだ王太子殿下でいる立場でありながら、今回は、ダル男爵、エリングボー伯爵、そして、大元のフリイス公爵までも粛清(しゅくせい)し、一家断絶、お家お取り潰しという、強硬手段を取ることが可能になった、好機となったのだから。

 これで、今まで王族を舐めていた“長老派”に対して、アルデーラ達は、真っ向から、宣戦布告したことになる。

 火蓋は切られた。

 これからは、“長老派”だって、アルデーラに対し、更なる警戒を強め、下手にアルデーラを刺激してこようなどとは、考えないだろう。

 そんな愚行をするのなら、アルデーラだって、本気で相手になってやると、“長老派”に見せしめる最良の機会となったのだ。

 屋敷中が騎士団の騎士達で埋め尽くされ出した場で、ギルバートが気が付いたら、ドアを蹴破りセシルの加勢にやってきた新手の三人は、いつの間にか消えていた。

 彼らから事情を聞くのは無理そうだとすぐに判断し、ギルバートも、深追いはさせていない。

 きっとそんなことをしたら、セシルの逆鱗(げきりん)に触れ、深追いさせた騎士達が、真っ向から反撃されていたことだろうから。

 ギルバートは、かなり、セシルのことを誤解している節はあるが、セシルはギルバートが何も言わないようなので、セシルも、自分から、わざわざ訂正してやる気はないようだった。

「ギルバート様」
「テイト殿」

 教会側の方に駆けて来た騎士は、夜会でも会った、団長格の若い方の騎士だ。
 となると、今やって来た騎士は、残りの騎士団の副団長のようである。

 サッと、教会内の――惨状を確認して、テイトと呼ばれた騎士も、何とコメントすべきなのか、そんな表情をみせる。

「屋敷の封鎖ですか?」
「ええ、そうです。これから、屋敷の、一斉、調査に入ります」

「そうですか。罪人及び、ここにいる護衛や郎党達は、全員、捕縛しました」
「そうですか」

 簡潔な報告を聞き終わり、テイトの視線が、セシルの方に向けられた。

 セシルの元には――見間違いない、一人の子供が立っていた。

 それで、テイトの眉間も微かに寄せられ、更に苦虫を潰したような表情をみせる。

 残りの子供達は、第三騎士団の騎士達が屋敷になだれ込んできた時に、セシルから、この場を離れるように指示され、立ち去っている。

 子供達には、すぐにリアーガ達と合流し、その後も、決して一人で行動しないように、ときつく言い渡しておいた。

 フリイス公爵家を叩き潰したのが子供達だとバレてしまえば、いつどこで、報復の矢が子供達に向けられるか、判ったものではない。

 だから、決して気を抜かず、必ず全員で行動することと、子供達はセシルにしっかりと言いつけられていたのだ。

 だが、夜会に付き添ってきたフィロだけは、セシルと一緒にこの場に残っていた。
 真っ黒なマントに全身覆われ、真っ黒な覆面をつけて。

 本当に、この場に子供がいた事実に、テイトも驚くべきなのか、何とも言えない複雑な気分だ。

 ジーっと、複雑な表情のまま、セシルを凝視しているテイトを前に、ギルバートもテイトが、今、考えているであろうことは簡単に想像がついたが、今は、まず、調査と取り調べが先なのだ。

「では、屋敷の方はお任せします」

 それで、テイトが、ギルバートにもう一度向き直る。

「わかりました」
「私は――ご令嬢を、王宮まで送ってきますので」

「わかりました。後は私が指揮を取りますので、ギルバート様は、そのまま王宮に残られてください」
「そうですか? それでは、後はお願いします」
「お任せください」

 セシルを王宮まで送り届け、それからまた、フリイス公爵家の領地に戻って来るとなると、かなりの距離と時間を要してしまう。

 だから、テイトの好意を受け取って、今は、王宮で、残りの報告待ちだけなので、ギルバートもホッとする。

 なにしろ――ギルバートは、この隣国の伯爵令嬢であるセシルから、あまり目を離したくはないのだ。

 部下達に、セシルの泊まっている客室の近辺の護衛や警護を任せたとしても、さすがに、これだけの事件を異例なスピードで解決してしまったその本人を、一人きりにさせておくのは、ギルバートとしても心落ち着かない。

 セシルの身の安全確保も大事だったが、それ以上に、ギルバートだって、このセシルを警戒せずには、いられなかったのだ。


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