奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
信じられない話になり過ぎて、ギルバートが微かにだけ顔をしかめながら、クリストフに向く。
でも、クリストフもギルバートと同じく困惑した表情を映し、微かに眉間を寄せてしまっている。
王太子殿下の調査報告では、セシルは、現在18歳のはずである。
引き算しても、どうにも納得いかない年齢になってしまって、二人とも黙り込んでいる。
二人の混乱も困惑も簡単に予想できて、オスマンドは、二人を静かに見つめている。
納得もいっていないし、まだ困惑をしたままで、二人がオスマンドに向き直った。それで、オスマンドがまた続けていく。
「コトレア領の領地開発は、全て、今のマスターがなさったことです」
「!!」
二人が、目を飛び出さんばかりに、瞠目している。
「では……では、領地の――この運営方法も、政策も、全部……?!」
「はい。マスターがコトレア領を引き継がれてから、この領地の発展が著しく伸びまして、今では、人口も、千人程に増加いたしました」
二人の口が開いて、呆然としている。
たかが百人足らずの小さな農村なのに、そんな部落的な集合が、八年足らずで、その十倍近くにも人口を増加させることなど、絶対に無理な話だ。
「――――どう、やって……?!」
「皆様の視察で、その答えも明らかになっていくことだと、思われます」
だから、自分の目で見て確かめろと、またも言われているのだろう。
「ただの農村ではなく、今では、店も建つようになりましたので、町としての自活が可能になりました。未だ自給自足ではございますが、近年では、近隣の他領との交易で、物資の交易、及び、出入りが盛んにもなりました」
「……はあ、そう、ですか……」
「……すごい、ですね……」
「まだまだ発展途上ではございますので、皆様の視察を終えましたら、感想や意見などをお聞かせ願いたくございます。これからの領地開発への参考とさせていただきますので」
「……はあ、そうですか……。わかり、ました……」
「なにか、質問はございませんでしょうか?」
「――いえ……。今は、まだ、いいです……」
なぜ、視察も始まっていない、ただ、領地の歴史をちょこっとだけ説明されただけなのに、すでに……ものすごい困惑して、ものすごい疲れてしまった気分になってしまっているのだろうか……。
「では、これから、宿場町の方へ、観光を楽しんでいらしてくださいませ。こちらが、宿場町の“観光マップ”でございます」
「――――観光、マップ?」
「はい。宿場町の地図が、このように描かれております。番号が振られているのは、お店の紹介でございまして、店ごとの広告や宣伝は、裏に記載しておりますので、番号と合わせ、お読みください。特産物や特産品も、少々、出しておりますので、それは、このように地図から、“観光の見どころ!”欄と比べていただければ、見やすいのではないかと」
「はあ……」
また二人の前に出された新たな紙は――“観光マップ”らしく、執事のオスマンドが、指で地図の説明をしたり、裏をひっくり返して見せてくれたりと、とても親切に説明はしてくれている。
――が、こんなパンフレットもどきの“観光マップ”をお目にしたのは、ギルバートも、クリストフも、生まれて初めてである。
「ちなみに、マスターは、こちらにあります“ラ・パスタ”がお気に入りでございます。よろしかったら、どうぞ、今夜の夕食にでも、お試しになられてはいかがでしょう?」
「はあ……、わかり、ました」
* * *
「この町――いえ、領地ですか? この領地は、一体、どうなっているんですかね……?!」
「ああ……」
珍しく混乱している様子を隠さないクリストフの前で、ギルバートと言えば、初めて見る、初めて食べる、初めて挑戦するパスタを、どうやってフォークに巻き付けるか、真剣になっていた。
セシルの邸を後にした二人は、案内役と言う領地の騎士が二人やってきて、それで、宿場町の方にやって来ていたのだ。
それも、幌馬車にのんびり揺られながら。
邸の前から出ている幌馬車は、大きな荷台を詰めるような荷車を改造したようなものだった。
荷台の部分は高いアーチのついた布製の屋根がついていて、そのアーチの半分くらいまでは、カバーが下げられていたが、下の方はまくり上げられ、リボンで留められていた。
中に乗り上げると、両端にちゃんとしたベンチが設置され、クッションも敷いている。
幌馬車に乗って移動するのも初めてで、のんびりと揺られながら、通り過ぎていく領地の景色を、ぼんやりと眺めていた二人だ。
右手に林、左手はポツポツと木が植えられていて、その合間、合間に、領地の町並みが見えている。
宿場町の入り口までやってきた二人は、次に「観光情報館」 という施設に連れて行かれ、観光の登録を済ませ、そこで、宿場町での観光概要や注意事項を説明され、快く送り出されていた。
さすがに、観光者登録の時は、自分の名前を出す訳にもいかず、クリストフの苗字を使用したが、それほど問題視されることもないだろう。
観光情報館には、色々な資料が提示されていて、お土産品も売っている。
まずは観光情報館からどうぞ、と勧められ、律儀で真面目なギルバートは、その施設内にある資料や観光概要などが展示されたものを、(ちゃんと) 一つ一つ読んでいたのだった。
執事のオスマンドが簡潔に説明してくれた領地の歴史も、資料として展示されていていて、当時の様子、地形、それから、今まで発展してきた領土開発の歴史など色々あって、(実は) かなり勉強になっていたギルバートとクリストフだった。
それで、二人揃って、すごいっ……と、昔の領土の地図と、今の領土の地図を見比べながら、感嘆していたのは言うまでもない。
お土産、などという概念もないだけに、お店に並べられている領地の特産品も――珍しいものが多かった。
それだけで――すでに、ギルバートもクリストフも、一体、今、自分達はどこの国にやってきているのだろうか……、などという激しい疑問にぶつかっていたのは、セシルも知らないことだろう。
たかが隣国で、王国で、近隣諸国だって、自国と大した変わらない政治体制をしているのに、どうして、この領地だけが――あまりに自分達の知らないことばかり、聞かないことばかりが目に入ってくるのか。
おまけに、それが至極当然として扱われているのだろうか、と更なる困惑を生んでいたのは、言うまでもない。
それから、二人は、“初めての観光”を楽しむ為、しっかりと、もらった“観光マップ”を読み終えていた。
どうやら、観光用の見物はお店が多いようで、このお店の特徴は、あのお店の売りは、などなど、観光マップに記載されている。
買い物は興味がなかったが、それでも、観光マップに記載されているので、一応、二人は大通りを進みながら、お店には立ち寄ってみてみたのだ。
立ち寄る度に、店員がにこやかに接客してきて、見ているだけだから……、という二人にも気にした様子はなく、「どうぞごゆっくり」 と、どこに行っても、接客が徹底しているのだ。
それから、“なんでも雑貨屋”という雑貨店のような店に入ってもまた、二人は、すでに、どう反応してよいか判らず。
並べられた商品には、どれも親切な説明書がついていて、それを読めば、ある程度の使用方法は理解できたものの――それでも、二人には、見たこともないような品物ばかりが置かれていて、そこで、すでに言葉なし。
子供用のおもちゃもあり――おもちゃなど、もらった経験も記憶もない二人は、これを、一体、誰にあげるのだろう……との疑問が上がる――が、誰にそれを聞くかも判らない……。
でも、クリストフもギルバートと同じく困惑した表情を映し、微かに眉間を寄せてしまっている。
王太子殿下の調査報告では、セシルは、現在18歳のはずである。
引き算しても、どうにも納得いかない年齢になってしまって、二人とも黙り込んでいる。
二人の混乱も困惑も簡単に予想できて、オスマンドは、二人を静かに見つめている。
納得もいっていないし、まだ困惑をしたままで、二人がオスマンドに向き直った。それで、オスマンドがまた続けていく。
「コトレア領の領地開発は、全て、今のマスターがなさったことです」
「!!」
二人が、目を飛び出さんばかりに、瞠目している。
「では……では、領地の――この運営方法も、政策も、全部……?!」
「はい。マスターがコトレア領を引き継がれてから、この領地の発展が著しく伸びまして、今では、人口も、千人程に増加いたしました」
二人の口が開いて、呆然としている。
たかが百人足らずの小さな農村なのに、そんな部落的な集合が、八年足らずで、その十倍近くにも人口を増加させることなど、絶対に無理な話だ。
「――――どう、やって……?!」
「皆様の視察で、その答えも明らかになっていくことだと、思われます」
だから、自分の目で見て確かめろと、またも言われているのだろう。
「ただの農村ではなく、今では、店も建つようになりましたので、町としての自活が可能になりました。未だ自給自足ではございますが、近年では、近隣の他領との交易で、物資の交易、及び、出入りが盛んにもなりました」
「……はあ、そう、ですか……」
「……すごい、ですね……」
「まだまだ発展途上ではございますので、皆様の視察を終えましたら、感想や意見などをお聞かせ願いたくございます。これからの領地開発への参考とさせていただきますので」
「……はあ、そうですか……。わかり、ました……」
「なにか、質問はございませんでしょうか?」
「――いえ……。今は、まだ、いいです……」
なぜ、視察も始まっていない、ただ、領地の歴史をちょこっとだけ説明されただけなのに、すでに……ものすごい困惑して、ものすごい疲れてしまった気分になってしまっているのだろうか……。
「では、これから、宿場町の方へ、観光を楽しんでいらしてくださいませ。こちらが、宿場町の“観光マップ”でございます」
「――――観光、マップ?」
「はい。宿場町の地図が、このように描かれております。番号が振られているのは、お店の紹介でございまして、店ごとの広告や宣伝は、裏に記載しておりますので、番号と合わせ、お読みください。特産物や特産品も、少々、出しておりますので、それは、このように地図から、“観光の見どころ!”欄と比べていただければ、見やすいのではないかと」
「はあ……」
また二人の前に出された新たな紙は――“観光マップ”らしく、執事のオスマンドが、指で地図の説明をしたり、裏をひっくり返して見せてくれたりと、とても親切に説明はしてくれている。
――が、こんなパンフレットもどきの“観光マップ”をお目にしたのは、ギルバートも、クリストフも、生まれて初めてである。
「ちなみに、マスターは、こちらにあります“ラ・パスタ”がお気に入りでございます。よろしかったら、どうぞ、今夜の夕食にでも、お試しになられてはいかがでしょう?」
「はあ……、わかり、ました」
* * *
「この町――いえ、領地ですか? この領地は、一体、どうなっているんですかね……?!」
「ああ……」
珍しく混乱している様子を隠さないクリストフの前で、ギルバートと言えば、初めて見る、初めて食べる、初めて挑戦するパスタを、どうやってフォークに巻き付けるか、真剣になっていた。
セシルの邸を後にした二人は、案内役と言う領地の騎士が二人やってきて、それで、宿場町の方にやって来ていたのだ。
それも、幌馬車にのんびり揺られながら。
邸の前から出ている幌馬車は、大きな荷台を詰めるような荷車を改造したようなものだった。
荷台の部分は高いアーチのついた布製の屋根がついていて、そのアーチの半分くらいまでは、カバーが下げられていたが、下の方はまくり上げられ、リボンで留められていた。
中に乗り上げると、両端にちゃんとしたベンチが設置され、クッションも敷いている。
幌馬車に乗って移動するのも初めてで、のんびりと揺られながら、通り過ぎていく領地の景色を、ぼんやりと眺めていた二人だ。
右手に林、左手はポツポツと木が植えられていて、その合間、合間に、領地の町並みが見えている。
宿場町の入り口までやってきた二人は、次に「観光情報館」 という施設に連れて行かれ、観光の登録を済ませ、そこで、宿場町での観光概要や注意事項を説明され、快く送り出されていた。
さすがに、観光者登録の時は、自分の名前を出す訳にもいかず、クリストフの苗字を使用したが、それほど問題視されることもないだろう。
観光情報館には、色々な資料が提示されていて、お土産品も売っている。
まずは観光情報館からどうぞ、と勧められ、律儀で真面目なギルバートは、その施設内にある資料や観光概要などが展示されたものを、(ちゃんと) 一つ一つ読んでいたのだった。
執事のオスマンドが簡潔に説明してくれた領地の歴史も、資料として展示されていていて、当時の様子、地形、それから、今まで発展してきた領土開発の歴史など色々あって、(実は) かなり勉強になっていたギルバートとクリストフだった。
それで、二人揃って、すごいっ……と、昔の領土の地図と、今の領土の地図を見比べながら、感嘆していたのは言うまでもない。
お土産、などという概念もないだけに、お店に並べられている領地の特産品も――珍しいものが多かった。
それだけで――すでに、ギルバートもクリストフも、一体、今、自分達はどこの国にやってきているのだろうか……、などという激しい疑問にぶつかっていたのは、セシルも知らないことだろう。
たかが隣国で、王国で、近隣諸国だって、自国と大した変わらない政治体制をしているのに、どうして、この領地だけが――あまりに自分達の知らないことばかり、聞かないことばかりが目に入ってくるのか。
おまけに、それが至極当然として扱われているのだろうか、と更なる困惑を生んでいたのは、言うまでもない。
それから、二人は、“初めての観光”を楽しむ為、しっかりと、もらった“観光マップ”を読み終えていた。
どうやら、観光用の見物はお店が多いようで、このお店の特徴は、あのお店の売りは、などなど、観光マップに記載されている。
買い物は興味がなかったが、それでも、観光マップに記載されているので、一応、二人は大通りを進みながら、お店には立ち寄ってみてみたのだ。
立ち寄る度に、店員がにこやかに接客してきて、見ているだけだから……、という二人にも気にした様子はなく、「どうぞごゆっくり」 と、どこに行っても、接客が徹底しているのだ。
それから、“なんでも雑貨屋”という雑貨店のような店に入ってもまた、二人は、すでに、どう反応してよいか判らず。
並べられた商品には、どれも親切な説明書がついていて、それを読めば、ある程度の使用方法は理解できたものの――それでも、二人には、見たこともないような品物ばかりが置かれていて、そこで、すでに言葉なし。
子供用のおもちゃもあり――おもちゃなど、もらった経験も記憶もない二人は、これを、一体、誰にあげるのだろう……との疑問が上がる――が、誰にそれを聞くかも判らない……。