奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「今夜のお仕事は、終了なされたのですか?」
「いいえ。これから、定例の報告会がございまして」
「そうですか」
そうなると、夕食を一緒にしているセシルであっても、また、これから仕事が残っていたらしい。
「我々のことでしたら、そのようにお気遣いなさらなくとも――。お忙しい中、我々は滞在させていただいているのですから」
「いえ、夕食をご一緒にする程度、気遣いでも、お世話、でもございませんでしょう? なんだか、お二人を放ったらかしのままですものね」
「いいえ。どうか、そのようなことは、お気になさらないでください」
初めから、セシルは多忙で今はタイミングが悪いのだ、とギルバート達に説明してきたことだ。
だから、セシルがギルバート達と顔を合わせる機会が少なくとも、その多忙さは理解しているし、さすがに、滞在を許されたギルバート達が、これ以上の無理を、セシルに押し付けることはできない。
「それに、私が皆様と夕食をご一緒すると、邸の者達も安心しますしね」
「――それほど、ご多忙だからでしょうか?」
「ええ、まあ……それもあるのですが、移動をしていたり、視察をしていると、つい、夕食の時間を忘れてしまうものでして。それで、邸の者からも、いつも、叱られていますの」
「そう、でしたか……」
窘められるのは理解できても、主が臣下から叱られるなど――驚きな光景だ。
「では、移動中など、なにをお食べになられているのですか?」
「そこらで摘まめるものなのですけれど」
「つまめるもの? それは?」
「宿場町にいるのでしたら、露店とかでも、簡単に軽食が手に入りますし、移動中であれば、携帯食で持ち歩いているビスケット、とか?」
「それは――邸の方も心配なさるでしょうね……」
ビスケット(注:ビスケットは、アメリカでお馴染みのスコーンのようなもの。お菓子ではない)でお腹が膨れるはずもない。
セシルの仕事の量も、多忙さも考慮すれば、その程度のスナックで動き回れるセシルの方が、驚きだ。
「邸に戻ってくると、必ず、食事の時は、このように座らされてしまうものでして……。それで、仕事を持ち込んだら叱られますし、しっかり食事を終えるまでは、仕事もできませんし……」
だから、セシルは、面倒なら、夕食をすっ飛ばしてしまう、と言っているのだろう。
だが、益々、心配しているであろう邸の者達が、セシルを叱りつけている光景が簡単に予想されて、ギルバートも納得してしまっていた。
「実は、食事を噛んでいる時間も勿体ないなぁ……、なんて思う時もありまして」
それは――かなり重症だろう……。
邸の者達が、セシルを心配する理由が、本当に解ってしまう。
「食事は、大切ですよ」
「ええ、そうなんですよね。それを言いつけている私が、いつも破るものですから、すぐに、叱られてしまうのです」
「なるほど」
「ところで――豊穣祭の三日前ほどには、私の父も領地にやってきますので」
「ヘルバート伯爵ですか?」
「ええ、そうです。そして、母と弟も。他国からのゲストがいらしていると知ったら、きっと驚くでしょうね」
「お会いできるのを、楽しみにしております」
おまけに、そのゲストが隣国のアトレシア大王国からの騎士団で、ギルバートなど、隣国の第三王子殿下などと知ったものなら、セシルの両親も、きっと、度肝を抜かすこと間違いなし。
それが判っていて、わざと両親に知らせていないセシルも、セシルである。
「食事の後に報告会がありますけれど、皆様は、どうなさいます? もう、視察巡りが濃いですものね。お疲れでしょう?」
「いえ、我々は大丈夫ですが。――どう、とは――あの……、まさか、我々も、報告会に参加させていただけるのですか?」
「それは構いませんけれど」
「構わないんですか……?!」
それこそ、報告会など、領地内だけの政を話すものではないのか?
「定例の報告会など、ただ、一日の報告を済ませるだけですので、他国のお方が混ざっても、なにも問題ではありませんわ。今日一日はつつがなく終わりました、なんて報告をお聞きになったくらいで、他国への侵略などできませんでしょうし、その程度で、政を操ることだって、できませんでしょう?」
「いえ、そう、ですが……」
「そう言った報告会ですので、きっと、つまらないと感じてしまわれると思いますが?」
「そのようなことは――あの……、本当に、参加させていただいても、よろしいのでしょうか?」
「ええ、構いませんけれど。お疲れではありません? 三日間、かなり強行軍でしたでしょう?」
「いえ、我々は問題ありません。――ですが、本当によろしいのでしょうか……」
「そのように他領、そして他国の政を心配なさってくださるのですから、もしかして、ただの定例の報告会に、興味がおありなのですか?」
セシルは、ただ二人と食事を一緒にしていて、話の流れから、社交辞令で誘ったようなものだ。
まさか、ギルバートが本気で報告会に参加したい、その興味があったなど、思いもよらなかった。
「もし、ご迷惑でなければ」
「迷惑ではありませんわ。つまらないものですけれど」
さすがにそのコメントには、ギルバートも微苦笑を禁じ得ない。
「いえ……。ご令嬢の領地は――こう、なんと申しますか、我々の理解の域を超えていまして……」
それを認めてしまうのは少々恥ずかしいことだが、それでも、それが事実なだけに、ギルバートも隠しておかないことにした。
「変わってはいるでしょう?」
「はい」
変わっている、などという次元の問題ではないのだったが……。
「ですから、ご迷惑でなければ、是非、参加させていただきたくあります」
「ええ、よろしいですわよ。では、その代わりと言ってはなんですが、報告会後、皆様の意見や感想を、教えて下さいませんか? 改善の余地があるかどうか、今後の為にもなりますから」
「もちろんです」
だが、セシルの統治方法、運営方法に――すでに理解の域を超えている情報が満載なこの地で、一体、どれだけ、ギルバートやクリストフが意見など、出せるというのだろうか。
「報告会は、一応、八時からとなっていますので、食事の後は、自室で、少しだけ休憩なさってくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいえ。これから、定例の報告会がございまして」
「そうですか」
そうなると、夕食を一緒にしているセシルであっても、また、これから仕事が残っていたらしい。
「我々のことでしたら、そのようにお気遣いなさらなくとも――。お忙しい中、我々は滞在させていただいているのですから」
「いえ、夕食をご一緒にする程度、気遣いでも、お世話、でもございませんでしょう? なんだか、お二人を放ったらかしのままですものね」
「いいえ。どうか、そのようなことは、お気になさらないでください」
初めから、セシルは多忙で今はタイミングが悪いのだ、とギルバート達に説明してきたことだ。
だから、セシルがギルバート達と顔を合わせる機会が少なくとも、その多忙さは理解しているし、さすがに、滞在を許されたギルバート達が、これ以上の無理を、セシルに押し付けることはできない。
「それに、私が皆様と夕食をご一緒すると、邸の者達も安心しますしね」
「――それほど、ご多忙だからでしょうか?」
「ええ、まあ……それもあるのですが、移動をしていたり、視察をしていると、つい、夕食の時間を忘れてしまうものでして。それで、邸の者からも、いつも、叱られていますの」
「そう、でしたか……」
窘められるのは理解できても、主が臣下から叱られるなど――驚きな光景だ。
「では、移動中など、なにをお食べになられているのですか?」
「そこらで摘まめるものなのですけれど」
「つまめるもの? それは?」
「宿場町にいるのでしたら、露店とかでも、簡単に軽食が手に入りますし、移動中であれば、携帯食で持ち歩いているビスケット、とか?」
「それは――邸の方も心配なさるでしょうね……」
ビスケット(注:ビスケットは、アメリカでお馴染みのスコーンのようなもの。お菓子ではない)でお腹が膨れるはずもない。
セシルの仕事の量も、多忙さも考慮すれば、その程度のスナックで動き回れるセシルの方が、驚きだ。
「邸に戻ってくると、必ず、食事の時は、このように座らされてしまうものでして……。それで、仕事を持ち込んだら叱られますし、しっかり食事を終えるまでは、仕事もできませんし……」
だから、セシルは、面倒なら、夕食をすっ飛ばしてしまう、と言っているのだろう。
だが、益々、心配しているであろう邸の者達が、セシルを叱りつけている光景が簡単に予想されて、ギルバートも納得してしまっていた。
「実は、食事を噛んでいる時間も勿体ないなぁ……、なんて思う時もありまして」
それは――かなり重症だろう……。
邸の者達が、セシルを心配する理由が、本当に解ってしまう。
「食事は、大切ですよ」
「ええ、そうなんですよね。それを言いつけている私が、いつも破るものですから、すぐに、叱られてしまうのです」
「なるほど」
「ところで――豊穣祭の三日前ほどには、私の父も領地にやってきますので」
「ヘルバート伯爵ですか?」
「ええ、そうです。そして、母と弟も。他国からのゲストがいらしていると知ったら、きっと驚くでしょうね」
「お会いできるのを、楽しみにしております」
おまけに、そのゲストが隣国のアトレシア大王国からの騎士団で、ギルバートなど、隣国の第三王子殿下などと知ったものなら、セシルの両親も、きっと、度肝を抜かすこと間違いなし。
それが判っていて、わざと両親に知らせていないセシルも、セシルである。
「食事の後に報告会がありますけれど、皆様は、どうなさいます? もう、視察巡りが濃いですものね。お疲れでしょう?」
「いえ、我々は大丈夫ですが。――どう、とは――あの……、まさか、我々も、報告会に参加させていただけるのですか?」
「それは構いませんけれど」
「構わないんですか……?!」
それこそ、報告会など、領地内だけの政を話すものではないのか?
「定例の報告会など、ただ、一日の報告を済ませるだけですので、他国のお方が混ざっても、なにも問題ではありませんわ。今日一日はつつがなく終わりました、なんて報告をお聞きになったくらいで、他国への侵略などできませんでしょうし、その程度で、政を操ることだって、できませんでしょう?」
「いえ、そう、ですが……」
「そう言った報告会ですので、きっと、つまらないと感じてしまわれると思いますが?」
「そのようなことは――あの……、本当に、参加させていただいても、よろしいのでしょうか?」
「ええ、構いませんけれど。お疲れではありません? 三日間、かなり強行軍でしたでしょう?」
「いえ、我々は問題ありません。――ですが、本当によろしいのでしょうか……」
「そのように他領、そして他国の政を心配なさってくださるのですから、もしかして、ただの定例の報告会に、興味がおありなのですか?」
セシルは、ただ二人と食事を一緒にしていて、話の流れから、社交辞令で誘ったようなものだ。
まさか、ギルバートが本気で報告会に参加したい、その興味があったなど、思いもよらなかった。
「もし、ご迷惑でなければ」
「迷惑ではありませんわ。つまらないものですけれど」
さすがにそのコメントには、ギルバートも微苦笑を禁じ得ない。
「いえ……。ご令嬢の領地は――こう、なんと申しますか、我々の理解の域を超えていまして……」
それを認めてしまうのは少々恥ずかしいことだが、それでも、それが事実なだけに、ギルバートも隠しておかないことにした。
「変わってはいるでしょう?」
「はい」
変わっている、などという次元の問題ではないのだったが……。
「ですから、ご迷惑でなければ、是非、参加させていただきたくあります」
「ええ、よろしいですわよ。では、その代わりと言ってはなんですが、報告会後、皆様の意見や感想を、教えて下さいませんか? 改善の余地があるかどうか、今後の為にもなりますから」
「もちろんです」
だが、セシルの統治方法、運営方法に――すでに理解の域を超えている情報が満載なこの地で、一体、どれだけ、ギルバートやクリストフが意見など、出せるというのだろうか。
「報告会は、一応、八時からとなっていますので、食事の後は、自室で、少しだけ休憩なさってくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」