奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* Д.д 新たな *
「では、今から、10分ほどの休憩に入る。各々、ストレッチなどをして、筋肉を少し伸ばしておくように」
「はい……。ありがとうございました……」
最初の一時間の訓練は、順調で、問題もなく、つつがなく終わり、(やっと)休憩時間に入った。
その場にいた領地の騎士達が、崩れ落ちて行く。
息もつかせぬほどの、ものすごいスピードだったんじゃない。
息切れするほどの、激しい運動だったんででもない。
なのに――ほとんどの騎士達が、崩れ落ちていた。
「調子はどうですか?」
その声を聞いて、ギルバートが振り返った。
振り返った先に、セシルがやって来ていたのだ。
ラソムが、セシルの前で一礼をする。
「つい、気になってしまって、見学に来てしまいましたの」
やはり、正規の王国騎士団の騎士から訓練を受けるなど、一生に一度あるかないかの貴重な経験である。
それで、つい、興味が先だって、セシルも(多忙な) 仕事の合間に、訓練の見学に、顔を出してしまったのだ。
「どうですか?」
「ええ、順調です」
セシルに答えるギルバートは、今朝、会った時と全く変わらず、おまけに、爽やかに、着ている洋服だって、乱れている所一つない。
そして、汗一つかいていない。
対するコトレア領の騎士達は――なぜか、全員、はあ、はあ……と、肩で息をしているのだ。
あらあら?
もしかして、まだ第一陣の訓練を始めたばかりなのに、すでに――ものすごい特訓に入っていたのかしら?
でも、ギルバートの笑顔は爽やかで、特別、激しい訓練を終えたようには、全く見えない。
どうやら、付き添いのクリストフは、ギルバートの側に控えて見学らしい。
それなら、尚更、ギルバートがたった一人で、領地の騎士達の訓練を見てくれていることになるのだろう。
「私も時間がありましたのなら、本当は、訓練に参加したかったのですが」
「――――――――ご令嬢が?」
ふーむと、それ以上、深く質問をしないギルバートは、まだ、爽やかな笑みを顔に浮かべている。
ここは、やはり、深く指摘するべきではないのだろう。
伯爵令嬢のご令嬢が訓練など――危険すぎる、などなど?
たぶん、セシルには――そんな懸念も、全く当てはまらない令嬢であるのは、ギルバートもよーく知っている。
だが、ギルバート自身が、進んで、騎士の訓練をご令嬢に勧めることは――有り得ない。したくはない。
「お邪魔はしませんので、しばらく、見学させてもらっても、よろしいですか?」
「もちろんです」
見学くらいなら、どんどんしてくれ。全く問題でもない。
これが、王国の騎士団の訓練所なら、
「邪魔だから立ち去ってください」
と、速攻で、群がる貴族の令嬢達を追い払っていただろうに。
だが、ここは隣国。
セシルの治める領地だ。
王国とは違う。
それで、セシルは、見学大歓迎だったのだ。
「すごいですわ。正規の王国騎士団の騎士の方に、訓練をしていただけるなんて」
それで、セシルはかなり嬉しそうだ。
「この程度のことなら、もっと早くからすべきでした……」
「そんなことありませんわ」
セシルは二日だけの訓練でも気にした様子もなく、むしろ、その二日間でも、とても喜んでいる様子だ。
だが、これだけお世話になってしまい、思ってもみない多大な好意をセシルから授かったギルバートとしては、この程度の訓練で、お礼のお返しなど、全然、足りない……と、思ってしまう。
「ほらほら、皆も、しっかり頑張ってくださいね」
「……はい、マスター…………」
休憩している騎士達に声をかけるセシルに、一応、ちゃんと、丁寧に返事をする騎士達だ。
だが、少し前屈みになって呼吸を落ち着かせていたり、腰に手を当てて立ったまま、肩で息をしていたりと、それぞれの騎士達は――うーん、大分、お疲れみたいですわね。
子供達の方は、かなりの数が地面に座り込んでいる。
あらあら。
厳しい訓練になりますわよ、とは伝えてあったのだが、あまり、役に立ったアドバイスではなかったようですね。
「今日は、まだ日差しも暑いですからね。水分補給を、しっかりと摂るように」
「……はい、マスター……」
騎士見習い達も、ちゃんと返事をする。
それで、仕方なさそうに、モソモソと、立ち上がっていき、最初に水場だと説明された場所に、子供達が並んでいく。
大きな樽の貯水タンクを設置しているようで、机の上に並んでいるカップを取り上げ、子供達がお水を汲んでいる。
それで、カップを持った子供が――口をつけずに、むしろ、口からかなり離して、コップから水を落とすように、口の中に水を入れている光景を見て、ギルバートとクリストフが、かなり不思議そうな顔をみせた。
「――――ああいう、飲み方、なのですか?」
「ええ、そうです。唾液感染を防ぐ為ですわ」
「唾液、感染? ――あの……、それは、一体――」
「口の中にある唾液のことです」
「あの……、それが、なぜ……?」
問題になるのか?
それとも、もう、問題なのか?
「健康の時は、左程、問題ありませんが、少しでも風邪気味だったり、そのような症状があったりと、唾液感染する病気の一種ですと、一気に、病原菌が広がってしまう恐れがあるのです。この領地では、常備の医師がおりませんので、簡単にできる衛生方法に、力を入れておりますのよ」
「――それで、あのような――飲み方に?」
「ええ、そうです。コップを回し飲みで使用する際、全員が口をつけていては、もし、病原菌など体内に保有していた場合、全員に、一気に感染してしまいますものね。それで、水を飲む時は、口をつけず、口から離して、水を飲ませていますの。それなら、コップを再使用しても、あまり汚くありませんものね」
「なる、ほど」
そして、そんな衛生方法があるなんて、全く知らなかったギルバートだ。
この方法は、現代でもよくある簡単な衛生方法だ。
セシルが前世(現世なのか) で見たのは、イスラム教の教徒達がテンプル(寺) で、水を飲む時に、ボトルを回し飲みしていたのに、口もつけず、ボトルから水を落とす形でしているのが最初だった。
理由は、全員の唾液が着かないように。
それは、理に適っている。
セシルも、よく、スポーツをしている人達から話を聞いていた。
C型肝炎(Hepatitis-C)などは、簡単に唾液感染するのだ。それで、ボトルなどを回し飲みすると、口をつけた先から、肝炎が感染してしまうことになる。
だから、スポーツをしていた人達も、よく、ボトルは口をつけず、水を回していた。
この地では医師がいない領地だけに、領地の衛生管理は徹底している。
セシルが率先して、領民達に教えこんでいる知識だった。
「あの――こちらで、よく出されるタオルなのですが……」
「おしぼりのことですか?」
「オシボリ? ――ですか? タオルで、手を拭くようにと」
「ええ、そうです。それも衛生管理の一つなのですわ」
それで何を思ったか、セシルがギルバートの前で、自分の両掌を見せるようにした。
「手と言うのは、体の部分で、一番、何かに、どこかに、触れているものなのです。その為、目では見えない、極小さな雑菌や、バイ菌が手についていることも、気付きません。そして、その手で食事をすれば、体内に雑菌やバイ菌が入ってしまいます。そうやって、病気が感染する時もあるのですわ」
出されたセシルの手の平を見下ろしているギルバートの目には、手が汚れているような様子には見えなかった。
「はい……。ありがとうございました……」
最初の一時間の訓練は、順調で、問題もなく、つつがなく終わり、(やっと)休憩時間に入った。
その場にいた領地の騎士達が、崩れ落ちて行く。
息もつかせぬほどの、ものすごいスピードだったんじゃない。
息切れするほどの、激しい運動だったんででもない。
なのに――ほとんどの騎士達が、崩れ落ちていた。
「調子はどうですか?」
その声を聞いて、ギルバートが振り返った。
振り返った先に、セシルがやって来ていたのだ。
ラソムが、セシルの前で一礼をする。
「つい、気になってしまって、見学に来てしまいましたの」
やはり、正規の王国騎士団の騎士から訓練を受けるなど、一生に一度あるかないかの貴重な経験である。
それで、つい、興味が先だって、セシルも(多忙な) 仕事の合間に、訓練の見学に、顔を出してしまったのだ。
「どうですか?」
「ええ、順調です」
セシルに答えるギルバートは、今朝、会った時と全く変わらず、おまけに、爽やかに、着ている洋服だって、乱れている所一つない。
そして、汗一つかいていない。
対するコトレア領の騎士達は――なぜか、全員、はあ、はあ……と、肩で息をしているのだ。
あらあら?
もしかして、まだ第一陣の訓練を始めたばかりなのに、すでに――ものすごい特訓に入っていたのかしら?
でも、ギルバートの笑顔は爽やかで、特別、激しい訓練を終えたようには、全く見えない。
どうやら、付き添いのクリストフは、ギルバートの側に控えて見学らしい。
それなら、尚更、ギルバートがたった一人で、領地の騎士達の訓練を見てくれていることになるのだろう。
「私も時間がありましたのなら、本当は、訓練に参加したかったのですが」
「――――――――ご令嬢が?」
ふーむと、それ以上、深く質問をしないギルバートは、まだ、爽やかな笑みを顔に浮かべている。
ここは、やはり、深く指摘するべきではないのだろう。
伯爵令嬢のご令嬢が訓練など――危険すぎる、などなど?
たぶん、セシルには――そんな懸念も、全く当てはまらない令嬢であるのは、ギルバートもよーく知っている。
だが、ギルバート自身が、進んで、騎士の訓練をご令嬢に勧めることは――有り得ない。したくはない。
「お邪魔はしませんので、しばらく、見学させてもらっても、よろしいですか?」
「もちろんです」
見学くらいなら、どんどんしてくれ。全く問題でもない。
これが、王国の騎士団の訓練所なら、
「邪魔だから立ち去ってください」
と、速攻で、群がる貴族の令嬢達を追い払っていただろうに。
だが、ここは隣国。
セシルの治める領地だ。
王国とは違う。
それで、セシルは、見学大歓迎だったのだ。
「すごいですわ。正規の王国騎士団の騎士の方に、訓練をしていただけるなんて」
それで、セシルはかなり嬉しそうだ。
「この程度のことなら、もっと早くからすべきでした……」
「そんなことありませんわ」
セシルは二日だけの訓練でも気にした様子もなく、むしろ、その二日間でも、とても喜んでいる様子だ。
だが、これだけお世話になってしまい、思ってもみない多大な好意をセシルから授かったギルバートとしては、この程度の訓練で、お礼のお返しなど、全然、足りない……と、思ってしまう。
「ほらほら、皆も、しっかり頑張ってくださいね」
「……はい、マスター…………」
休憩している騎士達に声をかけるセシルに、一応、ちゃんと、丁寧に返事をする騎士達だ。
だが、少し前屈みになって呼吸を落ち着かせていたり、腰に手を当てて立ったまま、肩で息をしていたりと、それぞれの騎士達は――うーん、大分、お疲れみたいですわね。
子供達の方は、かなりの数が地面に座り込んでいる。
あらあら。
厳しい訓練になりますわよ、とは伝えてあったのだが、あまり、役に立ったアドバイスではなかったようですね。
「今日は、まだ日差しも暑いですからね。水分補給を、しっかりと摂るように」
「……はい、マスター……」
騎士見習い達も、ちゃんと返事をする。
それで、仕方なさそうに、モソモソと、立ち上がっていき、最初に水場だと説明された場所に、子供達が並んでいく。
大きな樽の貯水タンクを設置しているようで、机の上に並んでいるカップを取り上げ、子供達がお水を汲んでいる。
それで、カップを持った子供が――口をつけずに、むしろ、口からかなり離して、コップから水を落とすように、口の中に水を入れている光景を見て、ギルバートとクリストフが、かなり不思議そうな顔をみせた。
「――――ああいう、飲み方、なのですか?」
「ええ、そうです。唾液感染を防ぐ為ですわ」
「唾液、感染? ――あの……、それは、一体――」
「口の中にある唾液のことです」
「あの……、それが、なぜ……?」
問題になるのか?
それとも、もう、問題なのか?
「健康の時は、左程、問題ありませんが、少しでも風邪気味だったり、そのような症状があったりと、唾液感染する病気の一種ですと、一気に、病原菌が広がってしまう恐れがあるのです。この領地では、常備の医師がおりませんので、簡単にできる衛生方法に、力を入れておりますのよ」
「――それで、あのような――飲み方に?」
「ええ、そうです。コップを回し飲みで使用する際、全員が口をつけていては、もし、病原菌など体内に保有していた場合、全員に、一気に感染してしまいますものね。それで、水を飲む時は、口をつけず、口から離して、水を飲ませていますの。それなら、コップを再使用しても、あまり汚くありませんものね」
「なる、ほど」
そして、そんな衛生方法があるなんて、全く知らなかったギルバートだ。
この方法は、現代でもよくある簡単な衛生方法だ。
セシルが前世(現世なのか) で見たのは、イスラム教の教徒達がテンプル(寺) で、水を飲む時に、ボトルを回し飲みしていたのに、口もつけず、ボトルから水を落とす形でしているのが最初だった。
理由は、全員の唾液が着かないように。
それは、理に適っている。
セシルも、よく、スポーツをしている人達から話を聞いていた。
C型肝炎(Hepatitis-C)などは、簡単に唾液感染するのだ。それで、ボトルなどを回し飲みすると、口をつけた先から、肝炎が感染してしまうことになる。
だから、スポーツをしていた人達も、よく、ボトルは口をつけず、水を回していた。
この地では医師がいない領地だけに、領地の衛生管理は徹底している。
セシルが率先して、領民達に教えこんでいる知識だった。
「あの――こちらで、よく出されるタオルなのですが……」
「おしぼりのことですか?」
「オシボリ? ――ですか? タオルで、手を拭くようにと」
「ええ、そうです。それも衛生管理の一つなのですわ」
それで何を思ったか、セシルがギルバートの前で、自分の両掌を見せるようにした。
「手と言うのは、体の部分で、一番、何かに、どこかに、触れているものなのです。その為、目では見えない、極小さな雑菌や、バイ菌が手についていることも、気付きません。そして、その手で食事をすれば、体内に雑菌やバイ菌が入ってしまいます。そうやって、病気が感染する時もあるのですわ」
出されたセシルの手の平を見下ろしているギルバートの目には、手が汚れているような様子には見えなかった。