奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「係員達も、かなりの人数のように見えますね」

「そうですね。豊穣祭も、年々、規模が大きくなってきましたし、自領だけのお祭りではなくなってきました。会場内で、全てつつがなく運営できる為には、それぞれの責任を持った係員達が、必要になってきます」

「係員、と一括(ひとくく)りしていても、それぞれに、違う役割分担があるのですか?」

「はい。会場係りもいれば、豊穣祭の案内係りもいます。全体の指揮を取る運営委員会であったり、会場内の清掃係りなどもおります」

「その分担は――ご令嬢がなさったのですか?」
「ほとんどはそうですが、今では、全員が豊穣祭ですることを理解していますから、プランニングの時に、自分達で役割分担を決めていると聞いています」

 定例の報告会に参加させてもらっても気が付いたことだが、セシルの領地では、領民一人一人に、何かの責任を持たせるような運営がなされていた。

 一人一人が、ただ、領主であるセシルの言うことを聞いているのではなく、責任を持たされ、そして、自分達で仕事や課題をこなしていけるように、そんな運営がなされていたのだ。

 ある意味、領民達は――とても自立している、というような印象を受けたギルバートだった。

「ご令嬢は――指示を出しているだけではなく、運営などにも、ご自分から見回りをなさっていましたよね」

「そうですね。姉上は、何でもこなしますから」
「いえ、その……ように、拝見いたしましたが……」

 あのセシルは、ただ、椅子に座って指示や命令を出しているのではなく、自ら馬に乗って、領地内を動き回っていたではないか。

 ものすごい行動力で、機動力だった……。

「姉上は、問題点などに気付くことが、とても早いお方なのです。ですから、ご自身で領地の見回りに出て行くと、必ず、あまり気付いていない問題点などを解決して、戻ってこられます。そのおかげで、領地では、いつも人員不足なのですが、あまりひどい問題にならずに済んでいるのです」

「はあ、そうですか……」

 聞けば聞くほど――すごい、能力ではないか……。

 ひどい問題になる前に、さっさと一人で、セシルが問題 (になっていない) を解決してしまうなんて。

 そこで、シリルが、ギルバートの方に静かに向き直った。

「私は、姉上より、皆様がこちらにいらした理由を、簡単に説明されております。その出会いがどうであれ、姉上は、皆様をゲストとして豊穣祭に招待なさりました。ですから、私も案内役に務めさせていただきます」

 だが、その口に出されない暗黙の部分で、ギルバート達がセシルに害を為すのなら――と、(ほの)めかしていた。

「その心配は、必要ありません。そのような目的もなく、そして、意図もありません。私の名に誓って」
「身分も弁えず、非礼を申しました」

 スッと、シリルが丁寧に頭を下げた。

「その必要も、ありません。我々は、この豊穣祭に招待された他の観光客と同様ですので。今日は、階級無しの祝いの日だと、お聞きしております」

 だから、堅苦しい挨拶も必要なければ、シリルがギルバートに礼を取る必要もないのだ、と語らぬ口が語っている。

 シリルが顔を上げ、ジッと、ギルバートを見上げる。
 澄んだ、どこまでも深い藍の瞳が、本当に、良くセシルに似ていた。

 そして、ジッと、その静かな瞳で、何もかもを見透かしてしまうような、そんな引き込まれてしまうような引力があった。

「改めて、今日一日、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。豊穣祭の案内をよろしくお願いします」




 ちょっとここで、歴史のおさらいなど?

~*~ セシルの歴史教室:Eye Colour ~*~
 瞳の色。Eye Colour(注:米語ではColor)です。

 世界中には、色々な瞳の色があります。フィクションの物語でもゲームでも、それはもう、想像以上の瞳の色が出てきますし、キャラクターの特徴を強調したり、生かす為にも、更なる稀な色が記述されていますよね。

 さて、瞳の色は、一体、何色あるのでしょうか?

 一応、色の分類で言えば、6色です。

• Brown:世界人口の約55%~79%ほど。最も一般的な色とされ、世界の半数以上が、ブラウン・アイを持っているようですね

• Blue:世界人口の約8%~10%ほど。

• Hazel:世界人口の約5%ほど。 “Hazel”という色の単語で目の色は分別されていますが、正確には、本当の色ではなくて、色の組み合わせ、または複合色の全般で分類されている瞳です。

主にBrown と Greenが混ざり、光の加減で瞳の色が変わって見えることがよくあります。Light Brown から Brown へ、それから Gold といった感じですね。

• Amber:世界人口の約5%ほど。Amberは系統的には、一応、Brownです。系統はそうでも、大抵はHazel と一緒に分類されることがよくあります。
真正のAmber 色というのは珍しく、混じり気のないYellow や、 Gold hue (金の色調)が特徴です

• Green:世界人口の約2%ほど。歴史的に、Gray の瞳の色がBlue ではないと認識されるまでは、最も稀な瞳の色として認識されていました

• Gray:世界人口の約1%以下。今まではBlue の瞳として分類されてきましたが、近年、正式にGray の瞳の色として分類されるようになりました。

パッと見では、Gray の瞳は薄いBlue の瞳に見えます。間違えられもしますしね


 Gray の瞳は、ほぼ世界人口の1%以下ほどで、他の分類に混ざらない色も、この中に入っています。

 例えば、Red Eye(医学的にはPink Eye と呼ばれていますが) は、存在します。

 ただし、この場合の赤色は、瞳の色ではありません。瞳が白っぽく、それで、赤(ピンク) 色のリングや瞳孔を持っていますね。

 ウサギやAlbino(アルビーノ) もRed Eye と知られていますが、私達が見ている赤色は、全部、眼球の光彩の奥にある血管の色なんです。

 メラニン色素がほとんど無い為、光彩の裏の血管を隠すことができなく、それで、その血管の色を、私達が見ていることになります。

 上記の統計は世界人口を基準としていますが、それでも、瞳の色の分配や統計は、記録された場所や、人種に大きく影響されます。

 Blue Eyeは、世界人口で言えば10%ほどですが、アメリカなどでは、人口の27%近くは青い瞳です。

 また、2%というとても稀なGreen Eyeだって、全世界人口約73億人以上の2%など、1億4千6百万近くの人口が、Green Eye を持っていることになります。

 これだと、ほぼロシアの人口くらいの数になりますよね。


 ここで質問#1:瞳の色はどうして変わるのか?

• 瞳の色を決めるのは、光彩にあるたった一つの色素、Melanin(メラニン) で決まります
• 瞳の色は眼球の光彩にどのくらいのメラニンが存在しているか、いないかで、決定するんですね
• それから、Melanin (メラニン) はBrown だけを含みます。Green やBlue は存在しません


 質問#2:瞳の色は遺伝?

• 答えは、イエスとノーの両方です。子供の瞳の色は、両親からの影響がありますが、だからと言って、必ず両親の瞳の色が遺伝するわけではありません

• 近年までは、研究者たちは、両親からの優性遺伝が、一つだけ子供に遺伝されると考えていました。
その上、Blue Eye は、劣性遺伝と考えられていました。ですから、茶色の瞳の親からは、青い瞳の子供は絶対に生まれない、という説がありました

• これ、近年の現代科学の研究やリサーチから、瞳の色はそこまで白黒簡単につけられるほど、シンプルなものではない、と判明したんですね。劣性とか、優性とか、じゃないんです

• 瞳の色を決めるには、ほぼ、16種類の遺伝子が関係していることが判ったんですね。両方の親は、二組の性染色体を持っています。その中に遺伝子の組み合わせや構成により、多様な瞳の色の混ざり合いができてしまうのです。

例えば、両方の親が茶色の目をしていたとしても、その遺伝子構成が、茶茶x茶青、茶青x茶青などという場合なら、青色の子供が生まれないとは、絶対に言い切れません。

昔、茶色の瞳を持つ両親から生まれた子供が青い瞳を持っていて、「お前が浮気したんだ!」 などと、姦通罪(かんつうざい)で処罰を受けた奥さんや、迫害されてしまった子供にも教えてあげたかった事実ですね。

無知って、怖いです。


 質問#3:一般的な瞳の色は?

• 上記でも記載しましたが、Brown です


 質問#4:稀な瞳の色は?

• 今まではGreen Eye とされていましたが、近年、科学者たちは、Gray Eyeを、きちんと別の瞳の色と分類することにしましたので、Gray Eyeが、今の所、最も稀な瞳の色です


 質問#5:瞳の色って変わるの?

• 変わりますよ
• 多くの非ヒスパニック系や、白人の赤ちゃんは、Blue Eyeで生まれます。でも、年を重ねることに、瞳の色が濃くなったりします
• これは、幼児から子供に成長する過程で、光彩の中のメラニンの量が増えることから起こるんですね


 質問#6:Blue Eye は、Blue じゃないの?

• Blue Eye もメラニンによって決まります。本来、メラニンは、Brown です
• そして、Brown のメラニンだけが、瞳に存在するんですね
• Blue やGreen やHazel には、色素がありません。ですから、太陽光線による反射で、その色が違って見えるんですね


 質問#7:Blue Eyeを持った人は、たった一人の共通の先祖で繋がっている?

• 驚きの事実!

• Copenhagen(コペンハーゲン)大学の研究チームでは、6千年~1万年に起こった遺伝子の突然変異を探っていくことができたそうです。その時に、世界初のBlue Eye が誕生していたとか

• 元々は、私達は全員Brown Eyeを持っていたんですね。でも、遺伝子の突然変異により、染色体のOCA2遺伝子が、“スイッチ”を作ってしまう結果になってしまうんです。

要は、Brown Eye の生産可能をOffにしてしまう、“スイッチ”です。
その突然変異の“スイッチ”の結果、Blue Eyeの人種が、世界初で登場です

• Brown からGreen への色変化による変異は、眼光の光彩内にあるメラニンで簡単に説明がつきます。ですが、Blue Eye の人のメラニンの変異は、ほとんどなかったそうです。

この結果から、Blue Eye の人種は、大昔にいた一人の先祖に繋がっているだろう、と結論を出したそうなのです

• 全然、容姿が似ていなく、人種も違っていても、大昔、それも、1万年前のご先祖様が一緒だなんて――すごい……って言うべきなのか、想像が及びませんよねえ


 このお話内でも、セシルとシリルは、稀に見ぬ深い藍の瞳を持つ姉弟です。
 ここで、“稀”というのは本当の話です。

 瞳の色からすれば、Blue Eye に分類されますが、ブルーサファイアを思い出させるような深いDark Blue の瞳の色は、中々いません。

 エメラルドを思い出させるGreen Eye も、きれいで見惚れてしまいますが、Dark Blue の瞳は、神秘的で好きですねえ。


 そんなこんなで、ちょっと歴史雑談でした。
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