奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
あまりに怪しすぎるセシルではあったが――当座は、セシルが集めたであろう事実や証拠を元に、問題が浮き上がりだしていたホルメン侯爵家を取り調べることができるきっかけは、手に入ったのだ。
近年、ホルメン侯爵家の羽振りがよく、王都でもその浪費が著しいものになってきたため、王宮でも、ある程度の監視は立て始めていたところだったのだ。
だが、セシルほど――侯爵家の裏の事情に食い込んでもいなく、噂だけで、本腰では、まだ侯爵家の監査や調査は始まっていなかったのだ。
「下がってよい」
「失礼いたします」
もう一度、丁寧にお辞儀を済ませ、セシルが静々と執務室から去っていく。
その姿が見えなくなり、気配も消えたその時、第一王太子殿下が、思わしくない、といった表情で、国王陛下を振り返る。
「父上……」
「ヘルバート伯爵家の調査はどうなっている?」
息子の心配を遮り、隣にいる宰相に振る。
「調査は継続させておりますが、これといって主だった問題もなく、ほとんど無害で、存在感もなかった――というような報告しか上がっておりません」
それを報告している宰相の顔にも、困惑が浮かんでいるのが隠しきれていない。
それもそのはずだろう。
ヘルバート伯爵家の令嬢など――はっきり言って、今まで一度として挙がってきた名でもなければ、噂一つさえ出てこないほどの存在感のなさなのだ。
社交界デビューした時でさえ、一体、それがいつだっただろうか――などと、そこの三人でさえ、思い出せないほどだ。
まして、着ていたドレスだって覚えていないし、一体、そのデビュー時のパーティーだってどうだったのか覚えていない。
その後だって、社交界やら、お茶会やらに出てきた気配さえなかったほどだ。
「内気なもので、賑やかな場が苦手でして……」
そんなことを、以前、ヘルバート伯爵家当主が口にしていたような記憶はある。ただ、それだけである。
注意も払っていなかったし、気にも留めていなかったような令嬢だ。
あの婚約破棄事件をきっかけに、宰相は、ヘルバート伯爵令嬢の早急な身元調査を頼んでみたが、その報告書でも、学園内では大人しい生徒だった、目立たない生徒だった、噂が上がるような生徒でもなかった――あまりにありきたりで、期待の成果もみられないほど簡潔な報告だったのだから。
それが、だ。
一体、どこをどう変わって、あれだけ綿密に、正確に、おまけに詳細も委細漏らさず記録した証拠品を並べ上げ、態度も変わらず、声も上げず、動揺も見せず、まるで、初めからあんな茶番劇が起こることでも予想していたような様相で、淡々と、冷静で容赦なく、悪名高き侯爵家嫡男のジョーランを逃げ道ないほど追い詰めることができるというのだ。
そんじょそこらの貴族令嬢ができるような芸当ではない。
「どうなさいますか?」
「ガロルド、ホルメン侯爵家の件は、お前に委ねる。私の名を使い、徹底して取り調べるように」
「わかりました。お任せください。その場合、取り潰し――の裁断が上がった場合、いかように?」
国王陛下の口端だけが薄っすらと上がっていく。
「全く問題はない」
「承知いたしました。お任せください」
「引き続き、ヘルバート伯爵令嬢の調査を続けるように」
「わかりました」
「まあ――あれだけ用意周到であれば、これ以上、ススを落とそうとも、何かが出てくるとは思えないがな」
「そうですね……」
全く、信じられないような令嬢が現れたものである。宰相にとっても、前代未聞、であるのは間違いなかった。
近年、ホルメン侯爵家の羽振りがよく、王都でもその浪費が著しいものになってきたため、王宮でも、ある程度の監視は立て始めていたところだったのだ。
だが、セシルほど――侯爵家の裏の事情に食い込んでもいなく、噂だけで、本腰では、まだ侯爵家の監査や調査は始まっていなかったのだ。
「下がってよい」
「失礼いたします」
もう一度、丁寧にお辞儀を済ませ、セシルが静々と執務室から去っていく。
その姿が見えなくなり、気配も消えたその時、第一王太子殿下が、思わしくない、といった表情で、国王陛下を振り返る。
「父上……」
「ヘルバート伯爵家の調査はどうなっている?」
息子の心配を遮り、隣にいる宰相に振る。
「調査は継続させておりますが、これといって主だった問題もなく、ほとんど無害で、存在感もなかった――というような報告しか上がっておりません」
それを報告している宰相の顔にも、困惑が浮かんでいるのが隠しきれていない。
それもそのはずだろう。
ヘルバート伯爵家の令嬢など――はっきり言って、今まで一度として挙がってきた名でもなければ、噂一つさえ出てこないほどの存在感のなさなのだ。
社交界デビューした時でさえ、一体、それがいつだっただろうか――などと、そこの三人でさえ、思い出せないほどだ。
まして、着ていたドレスだって覚えていないし、一体、そのデビュー時のパーティーだってどうだったのか覚えていない。
その後だって、社交界やら、お茶会やらに出てきた気配さえなかったほどだ。
「内気なもので、賑やかな場が苦手でして……」
そんなことを、以前、ヘルバート伯爵家当主が口にしていたような記憶はある。ただ、それだけである。
注意も払っていなかったし、気にも留めていなかったような令嬢だ。
あの婚約破棄事件をきっかけに、宰相は、ヘルバート伯爵令嬢の早急な身元調査を頼んでみたが、その報告書でも、学園内では大人しい生徒だった、目立たない生徒だった、噂が上がるような生徒でもなかった――あまりにありきたりで、期待の成果もみられないほど簡潔な報告だったのだから。
それが、だ。
一体、どこをどう変わって、あれだけ綿密に、正確に、おまけに詳細も委細漏らさず記録した証拠品を並べ上げ、態度も変わらず、声も上げず、動揺も見せず、まるで、初めからあんな茶番劇が起こることでも予想していたような様相で、淡々と、冷静で容赦なく、悪名高き侯爵家嫡男のジョーランを逃げ道ないほど追い詰めることができるというのだ。
そんじょそこらの貴族令嬢ができるような芸当ではない。
「どうなさいますか?」
「ガロルド、ホルメン侯爵家の件は、お前に委ねる。私の名を使い、徹底して取り調べるように」
「わかりました。お任せください。その場合、取り潰し――の裁断が上がった場合、いかように?」
国王陛下の口端だけが薄っすらと上がっていく。
「全く問題はない」
「承知いたしました。お任せください」
「引き続き、ヘルバート伯爵令嬢の調査を続けるように」
「わかりました」
「まあ――あれだけ用意周到であれば、これ以上、ススを落とそうとも、何かが出てくるとは思えないがな」
「そうですね……」
全く、信じられないような令嬢が現れたものである。宰相にとっても、前代未聞、であるのは間違いなかった。