奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
Part2

* PROLOGUE *

 ポタっ――――


 小さな、小さな、小石を池や湖に落とすと、そこから広がっていく、静かな波紋。

 ユラユラと、それなのに、音もなく、幾重にも広がっていく、緩急(かんきゅう)をつけた輪。

 全く存在感のない、影さえも忘れ去れたような存在で、立場で、若い半生を、全くの繋がりなく生きて来た。
 知り合いは、全員、セシルが繋がりを決めた、許した存在だけだったはずなのに。

 ほんの一瞬の出来事で、出会いで、全く思ってもいない方向に、セシルの周囲で、セシルが作る波紋が広がっていく。

 それとも、セシルが、誰かの波紋に巻き込まれているのだろうか?


 波紋を投げた?
 波紋が広がった?


 たった一つの、それも、ほんの些細な出来事で、行動で、言動で、水面に何万もの波紋が次々と生まれていくかのように、セシルの周囲では――いや、それだけではなくて、セシルの知らない場所でも、多方面に影響が生じて行ったかもしれない。

 セシルが自覚していること、していないこと、そんな出来事全て、これからセシルの人生に、どんな影響を返してくるのだろうか?

 影響を及ぼしてくるのだろうか?

 影さえも忘れ去られて生きて来た半世。
 それなのに、昨年は、自国にいる時よりも、遥に、たくさんの人に会ったかもしれない。

 遥に、たくさんの出来事(事件と問題)に遭ったかもしれない。

 学園卒業後は、確か、セシルの将来計画的に、静かで、穏やかな余生を暮らす――はず?

 なのに、今は、水の上の波紋が揺れ広がっていくかのように、セシルの世界が更に広がっていく。
 これからも、きっと、まだまだ広がっていく。

 自分の想像など遥に追いつかない、追い越した――波紋の先で、一体、何が待ち構えているのだろうか?

 待っているのだろうか?

 小説の次のページをめくる時のあの期待感。でも、つい、次の方向性を予測してしまって、冷めた感情も。

 どんでん返し? それとも、お決まりの展開?

 どちらに転ぶか分からない。

 セシルの人生だって、まだまだお話は続く。
 どちらに転ぶのか、誰にも予想することはできない。




 それが――たとえ、前世(なのか現世)の記憶を持った、異世界転生者だったとしても。

 もう、物語は、紙の上の黒い字だけではなくなってしまった。
 もう、本の中の一小節だけでは、なくなってしまった。

 だって、他の誰でもないセシル自身が、この世界に落とした、小さな小石と一緒なのだから。

 だから、その波紋が広がっていく。

 幾重にも、幾重にも、連なって生まれていく――――

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