奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *


「こちらは、カボチャとチキンのクリームスープ。こちらが、カボチャのミートソースグラタン。これは、おツマミ程度にカボチャ団子。カボチャばかりになってしまいますけれど、一応、このスライスはカボチャのパイです。「パンプキンパイ」 と言います。スライスだけにしてもらいましたから、味見程度なら、皆様で食べられますでしょう?」

 それで、全員が、テーブルの上に運ばれてきた料理に視線を落とす。

 ホカホカと湯気が上がっていて、色鮮やかなオレンジ色の料理が、テーブルの上に乗っている。

「カボチャばかりでは、味が飽きてしまうかもしれませんので、こちらは、普通の食事もオーダーしました。こちらは、牛肉とマッシュルームのキャセロール。こちらは、鶏肉のハーブ焼き。中にチーズが入っていて、おいしいですわよ。そして、ローストベジタブル。今夜はグリーンに欠けてしまいましたが、お野菜はたっぷり()れますから、良しとしましょう」

「はあ……」

「今夜は、皆様で色々試せれるように、シェアする形になりますけれど、大丈夫ですか?」
「シェア、ですか?」

 ギルバートは、生まれてこの方、食事を“シェア”する経験などしたことはない。

 なにしろ、一国の王子殿下なものだから、食事は、必ず、自分の皿に、侍女や侍従が盛り付けていくものを食べる。

 晩餐会などでは、全員に配膳することを考えれば、それも一応、“シェア”のうちに入るのだろうか……。

「問題でしょうか?」
「いえ――問題ではありません」

「そうですか。たくさんありますので、皆様、しっかり召し上がってくださいね? では、皆様の最初の分は、配膳しますね」

 セシルは手慣れた風に、配膳用の大きなスプーンを取り上げ、一人一人の皿に、それぞれの食事を乗せていく。
 スープ用のボールももらっているので、チキンのクリームスープも、スプーン一杯ずつ配り終わっていた。

 初めてで慣れない食事なので、沢山盛り付けては、食べられない場合、大変なことになってしまうだろう。

 それで、食事も数口分ずつ、スープはお肉や野菜が一個ずつで、スプーンで、何回か食べられる程度の量だけである。

 それで、ギルバートを含めた残りの騎士達も、全員、セシルが食事を配膳してくれるのを大人しく待っていく。

 なにしろ、騎士団で訓練は受けていたり、遠征などで野宿することもあっても、大抵、誰かが配膳してくれる為、今日揃っている騎士は――ある意味、全員、()()()()()とも言える。

 夕食の時間になり、セシルと共に宿場町に下りて来た一行は、食堂なのか、食事(どころ)にやって来ていた。
 中は広々としていて、丸いテーブルがたくさん並べられている。

 だが、壁側には仕切りのついた四角いテーブルを囲っていて、今夜のセシル達は、壁側の席に座るようだった。

 それで、セシルがやって来ると、満面の笑みを浮かべて女将がやってきて、セシルと残りの全員を席に通してくれた。

 食事のオーダーも、セシルに全部任せることにして、全員が席についていた。

 年期の入った大きな四角いテーブルの両端に、背もたれのないベンチ式の椅子が置かれているので、三人対の向かい合って座る形式だった。

 一番奥に座ったセシルの隣にギルバート。ギルバートの隣にクリストフ。
 三人の向かいには、残りの二人の部下が。

「えっと……毒見、した方がよろしかったかしら?」
「いえ、とんでもございません。そのような必要は、ありませんので」

 ギルバートだって、そこまで警戒はしていないのだ。

 それも、セシルが食事をする食事(どころ)なら、尚更だ。

「では、皆様、どうぞ召し上がってくださいね?」
「ありがとうございます」

 ギルバートはスプーンを取り上げ、クリームスープの中に入っていた、オレンジ色の野菜を取り上げてみた。

 一口含んで、咀嚼(そしゃく)してみる。

「柔らかくて甘いですね」
「ええ、そうですね。どうでしょう? 食べられそうですか?」

「はい。味が優しくて、おいしい料理ですね」
「ありがとうございます」

 上官であるギルバートが食事を始めたので、残りの三人も、それぞれ、カトラリーに手を伸ばす。

「どの料理も――聞いたことのないものばかりなのですね」

 ふふふ、とセシルは微笑んでいる。

 なにしろ、ここに出されている料理全部、この店の店主であるコックに、セシルが自ら伝授したものなのだから。

 こういう作り方で、こういった感じの味なんだけれど――等々と説明をして、コックの方も、自分から試行錯誤(しこうさくご)して、今の料理が出来上がったのだ。

 この地――というか、この世界では、どうやら塩や胡椒(こしょう)の味付けはあっても、ただそれだけが多く、お肉を焼いても、おいしいソースがあるわけでもない。

 まあチーズソースだったり、プラムソースだったり、オシャレなソースはシェフ達も日々開発しているようだったが、それでも、普段の一般的な食事には、味付けが――どうも欠けているのが、セシルには気に入らなかったのだ。

 セシルは、元は日本人である。

 (お醤油(しょうゆ)はないが) ソースも、多種多様な味付けも大好きである。

 素材を生かした味付けで、それでも旨みを乗せるのも――なんていう料理が懐かしい……。

 だから、この食事(どころ)だって、セシルの食への欲求不満から建てたようなものだ。セシル個人の趣味が、入りまくりである。

 その甲斐あってか、この食事(どころ)はいつも(にぎ)わっている。

「皆様も、問題ありませんか?」

 残りの三人が、モグモグと、口を動かして、
「いえ、ありません」

 どうやら、全員、食事に満足してくれたようである。

 外部のお客さまには、“宣伝”が一番なのである。

「この――ミートソースの料理も、とてもおいしいものですね」
「それは良かったです。ミートソースは、ご存じですか?」

「いいえ、初めてです」
「ミートソースは、お肉を細かく刻んで、そこに玉ねぎを加え、香辛料とトマトをベースとして、煮込んだものなのです。トマトのお料理などは?」

「それはあります。ですが、ミートソースは、初めてです。チーズと相性がいいのは、知りませんでした」

「トマトをベースにしたお料理は、大抵、チーズととても相性がいいんです。つい、()みつきになってしまいますわよ」

「そうですか」

 ひょんなことから夕食を一緒にすることができて、おまけに、テーブルの配置から、ギルバートはセシルの隣に座っているから、セシルとこんなに近くで会話ができるなんて、今回は、随分、幸運なことだ。

「――ああ、次からは、どうぞ、ご自由にお料理を取ってくださいね」

 セシルの向かいに座っている騎士の皿が空になり始めていたので、向かい側の騎士が取りやすいように、盛り付け用の大きなスプーンを反対側に置く。

「あっ、ありがとうございます」
「皆様、たくさん食べてくださいね。お料理を残すのは、勿体ないですから」

 まあ、その点は、心配する必要はないだろう。

 セシルも、領内に騎士達を置いているから知っているかもしれないが、とかく、騎士というものは、よく食べるのだ。

 毎日、訓練やら、護衛やらと、体を動かしているだけに、食事の時間は、ある意味、戦争と化す。

 そして、真剣に食べている間は、ものすごい静かになる。

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