奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
 今夜はセシルのおかげで、全員が、すっかりお腹を満たし、食事を満喫できた夜だった。

 だが、お店を出る際に生じた問題で、セシルは改めて――騎士サマの“紳士道”を、身を以て知ることになる。

「その紙は、なんでしょう?」
「伝票ですの」

「でんぴょう? それは、何ですか?」

 貴族達が贔屓にするレストランなどでは、伝票など、一切、使用しない。

 食事がいくらだったかなど、大広げに出すなど、貴族を侮辱していることになるし、恥をかかせてしまうことになる。

 ウェイターが静々とテーブルによって行き、皮の台帳にチェックを乗せてもらうか、トレーに置かれた金銭を受け取るか、控えめで、目立たない会計が済まされる。

「食事処やレストランでは、こういった伝票というものを使用しておりますの。頼んだ注文書のようなものです。それを持って、ここの――レジと言う場所で、会計を済ませますの。忙しい時など、テーブルに代金を置かれてしまっては、確認することも、受領することもできませんから」

「――なるほど」

 だが、以前、観光のついでに連れて行ってもらった“ラ・パスタ”では、ギルバートは、「伝票」 などというものを、使用した記憶はない。

 「代金は?」 と聞いて、店員の女性が、テーブルで済ませてくれた記憶があるが?

 そのギルバートの様子を見やりながら、セシルも微苦笑を浮かべてしまう。

「今夜は、人数が多いですからね。頭で記憶しておくには、少々、多めかな、と」
「ああ、なるほど」

 セシルが渡した紙切れを受け取った店員が、机の上で――パチパチと、なにかを弾いていく。

「あの、それは?」
「「そろばん」 ですの」

「そろばん、とは?」
「計算が簡単にできるものなんです。こうやって、商売人に教えたら、皆、結構、上手くできるようになりましてね」

「――なるほど」

 だが、「そろばん」 も、全く未知の世界の品物だ。

「マスター、こちらがお会計になりますが」
「あら、ありがとう」

「あっ――待ってくださいっ」

 ものすごい勢いで留められて、パチクリ、とセシルも瞬きを繰り返す。

「あの……、なにか……?」
「まさか――ご令嬢が、我々の代金を……?」

「ええ、そうですけれど……」
「そんなっ……! ――いけません」

「えっ……?」

 なぜ、そんな悲壮な様相を浮かべて、ギルバートが焦ってセシルを止めてくるのだろうか。

「――なにが、でしょう……?」
「このようにお世話になった上に、ご令嬢に、我々の食事の支払いをさせるなど――もう……私の面目も、立場もございません……」

「――えっ?」
「どうか……、それは私に」

「……いえ、お気になさらないで――」

 ください……と、言おうとしたセシルの前で、ギルバートが、更に、悲壮さを強く表してしまったので、セシルも、半ば驚いたまま、口を閉ざしてしまった。

 さすが――王国騎士団。

 騎士道が徹底しているだけでなく、噂に聞く“紳士道”も徹底していたなど……。

「――では……、ご迷惑で、なければ……?」
「もちろん、迷惑ではございません」

 あからさまにホッとしているギルバートを見て、セシルも、内心で、かなり驚いてしまっていた。

 女性に(おご)られる、(おご)らせる――という行為は、そこまで悲壮になって、思いつめてしまうものだったなんて、セシルも思いもよらなかったものだ。


(さすが……、王国の騎士サマ。王子サマ……。紳士道が徹底しているわぁ……)


 ギルバート達は、毎回、毎回、新発見、初体験、新たな経験ばかりして驚いてしまっているが、実は、今夜は、セシルも、珍しい初体験をしていた夜だったのだ。




 そこで、ちょっと歴史の雑談なんて?


~*~ セシルの歴史教室:根菜類 ~*~
 根菜。Root Vegetables。

 一般的に知られている根菜類は、
• ジャガイモ
• ニンジン
• オニオン
• カブ
• パーシニップ
• ラディッシュ
• さつまいも
などがありますね。

 ローストにしてもおいしし、油で揚げてもGood。煮物にも合い、サラダにも抜群の相性です。

 以前、発掘された証拠から、50,000年前より、人類は、料理をしたデンプン類の野菜を食べ始めていたと、言われています。

 近年、“Science”ジャーナルでは(by www.science.org/doi/10.1126/science.aaz5926)、新たな証拠が出て来たそうです。

 約170,000年前に、南アフリカの洞窟で発見された証拠によると、その時から、人間は、なんと、根菜類(ポテトに近いもの) をローストしていたという新発見です。

 そんな大昔から、ローストの根菜類……。
 うーん、すごいですねえ。

 ここで、なぜ、カボチャが根菜類に入ってないの? ――なんて、思われるかも。

 実は、()()()()()()()に言えば、カボチャは“フルーツ”として分類されます。
 “ベジタブル(野菜)”ではありません。

 ええっ?!
 なんて思うでしょう?

 うんうん、私もそう思いました。

 日本のサイトでも、カボチャは“野菜”と言っているのもみかけますが、“フルーツ”(果菜類) と分類されるそうです。

 なぜかと言うと、カボチャは種をつける花の植物の一種だからそうです。花に花粉がつき、その花が実となるから、“フルーツ”となるそうなのです。

 “ベジタブル(野菜)”というのは、植物の食用性のある部分のことを、言うのだそうです。
 例えば、葉や、茎や、根や、花や、結節部分など。

 ただ、カボチャはフルーツの甘さというよりも、風味があり、少し塩味のようなものがフルーツよりも多いため、料理をするにあたっては、“野菜”というように分類されているようですね。

 今日も、驚きました。

 根菜類の野菜は、比較的、育てるのも簡単です。種を植える時には、余裕を持ったスペース(要は、空きスペースですね) が大事だとか。

 ジャガイモの歴史も、長いですよねえ。
 紀元前、8,000年から5,000年頃、ペルーのインカ帝国が、ジャガイモを最初に栽培したのが始まりです。

 その後、スペインによって、ペルーが制服され、ジャガイモがヨーロッパに持ち運ばれたのです。

 19世紀頃になり、ジャガイモは、ヨーロッパ中で重要な主食野菜となりました。
 なにしろ、安い。数が多く取れる。そして、損傷率が低かったことが理由です。

 アイルランドでは、ジャガイモ無しでは生きていけない時代もありました。

 皮も、たくさん栄養があるんですよ。
 アイルライド人など、飢饉が訪れた時、ジャガイモの皮だけを食べて、生き延びたと言うほどの話です。

 カボチャは根菜類ではないと分かりましたが、それでも、栄養価が高く、多々で、おいしい“野菜”ですよね。

 世界中で愛されている野菜なのに、British(英国人) だけは、カボチャをほとんど食べない人が多い。
 これ、有名な話です。

 アメリカなら、ハロウィンでパンプキンパイがなければ、ハロウィンを終われない。でも、イギリス人は、野菜のデザートを認めない傾向が大。

 それで、野菜なのに、デザート!? ――というような反応で、今まで、パンプキンの使用はほとんどなし。

 今は、その傾向も、大分、落ち着いてきたみたいですけどね。

 中世では、パンプキンは、高価で特別な食物だと、考えられていたからでもあるそうです。
 それで、あまり手にしていなかったとか。

 でも今では、マーケットの需要が多く、イギリスでも、ものすごい量のカボチャの栽培がされ、輸出されています。


 そんなこんなで、ちょっと歴史雑談でした。
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