奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「――――あの……よろしいのですか? 街頭からの――買い出しのようなことですが……」
「全く問題ありませんよ。なにしろ、かのご令嬢は、出されたものをきちんと食べ、そういった些末なことに、文句も言わないご令嬢ですからねえ」
「はあ……」
上官二人に太鼓判を押されたような気配で、一応、その場の全員が納得するようだった。
まだ、移動が始まって二日ほどだったが――思い返せば、他国の伯爵令嬢であるセシルは、変わった令嬢だったことを、騎士達も自覚している。
初日、休憩を取る際に、ある街の領城に入った時、貴婦人を外で待たせることはできないので、休憩用の為に宿屋へ向かう騎士団の前で、セシルはそれを止めていた。
ただ、馬を停められる場所を探しましょうと、領城の広場から少し離れた場所で、ただ、全員が馬を停めただけだった。
それで、馬車の中から出て来たセシルは、少しそこらを歩いて(足を伸ばしていただけだったのだが)、それで、終わりだった。
飲み物や軽食も出さなかったが、後からギルバートに、セシル達は、どうやら自分達で携帯している水袋があり、それで、水分補給は終えているから、またすぐに移動可能だ、などと説明されて、初っ端から、唖然としてしまった騎士達である。
それで、その晩だって、宿に到着した騎士達に、
「これ、領地のものなのですけれど、宜しかったらどうぞ? カボチャの種を炒って、乾燥させたものなのです。疲労や体力回復には、丁度、良いのですのよ」
親切に、騎士達に、一つ一つ“カボチャ”という、その種を渡してくれたのだ。
それで、謎なご令嬢の行動に、ポリポリ、ポリポリと、カボチャの種を必死で噛んでいた騎士達だったのだ。
二日目を終えて、セシルが休憩の時に外に出てきても、特別、騎士達に話しかけることもない。
まあ、貴婦人は、護衛の騎士達など無視しているし、世話係が世話をしてくれるので、休憩中などは、自分の気の向いたことや、好きなことをしているのが通常なので、セシルが話しかけてこないことは驚きではない。
でも、それと同時に、文句も上がってこなかった。
あまりに――静かすぎて不気味なほどで、もしかして、自分達は粗相をしてしまったのだろうか……そっちの懸念の方が、上がってきてしまうものだった。
だが、今夜も、セシルは騎士達にカボチャの種をくれた。
だから、怒っているのではないらしい。
「君達ねえ、いいから、下手な心配はしないで、かのご令嬢には感謝して、さっさと休みなさい。明日も早いんですから」
「はい……」
「感謝することを、忘れないんですよ」
「はい」
いや、そんな押しつけがましく感謝させなくてもいいのに。
セシルだって、そんなことは、一言だって頼んでいない。
ギルバートだって、頼んでいない。
別に、ここに揃っている部下達に、セシルの良さを理解させたいとか、そんなことは、一切、考えていないのに。
「この宿は、今夜は、私達で貸し切りのようなものだ。部屋に続く廊下で、護衛は二人でいいだろう」
「わかりました」
「じゃあ、今夜はもう休め」
「はい。それでは、失礼致します」
それで、全員が談話室から出ていった。
そんなこんなで、あまりに順調な移動を進めて王都にやってきた一行は、予定よりも(やはり早く)到着して、予定日前日の午前中には、王宮に到着していたのだった。
あまりに順調な移動で、実はここだけの話だったが――ギルバートと共に、護衛の任務で同行していた騎士達からは――セシルの好感度が倍に跳ね上がっていたのは、言うまでもない。
なにしろ、あまりに順調な移動で、文句が一切上がって来なくて、街頭で並ぶ食事でも、適当に買っただけだったのにお礼を言われ、夜は夜で、「皆様、お疲れでしょう?」 と、全員に声をかけてくれる。
それで、最初の二日分のスピードを取り戻して、六日の移動予定が、普段通り、五日とちょっとで済んでしまったのだ。
毎晩の確認で、しっかりとセシルに感謝しなさいよと、クリストフにも刷り込まれたせいか、付き添ってきた騎士達の間で、セシルの好感度が倍に跳ね上がっていたのは、言うまでもない。
だから……、ギルバートは、自分の部下達にセシルの良さを自慢したり、見せびらかしたりするつもりもないし、セシルの良さを、無理矢理、売りつけるつもりだって全くないのだ。
余計なクリストフの行動でも、クリストフはいつもああだ。
ギルバートが深く追求するだけ、無駄ではあるのだ……。
だが、セシルの好感度が上がっていた理由はそれだけないことも――ギルバートは、ある程度、理解してしまっていた。
経験組の騎士の何人かは、あまりに衝撃的な出会いを遂げた、セシルとの出会いを覚えている者がいる。
それだけに、あの時のイメージと全く違うご令嬢が馬車に乗っていて、間近で見るセシルは――とても見目麗しい美しい女性なのだ。
セシルは、騎士団がいるからきっと遠慮して、普段のようなキビキビとした行動や態度が見られなく、そうなると、セシルの醸し出す雰囲気は、儚げな美女である。
その些細な仕草も、動きも、話し方も、ほんのりとした色香があって、それでいて、穏やかで洗練されている。
だから、若い騎士達が――セシルに憧れてしまう気持ちは理解できるが、できても、ギルバートには面白くない状況だ。
「その程度で、膨れっ面をなさらないでくださいね。今の所、ご令嬢の好感度が上がり、王宮での反応も、きっと良いことでしょうから」
だから、ギルバートは一度だって、セシルを売りつけてくれ、などと頼んだ覚えはないのに!
余計なことをしてくれるクリストフである。
「全く問題ありませんよ。なにしろ、かのご令嬢は、出されたものをきちんと食べ、そういった些末なことに、文句も言わないご令嬢ですからねえ」
「はあ……」
上官二人に太鼓判を押されたような気配で、一応、その場の全員が納得するようだった。
まだ、移動が始まって二日ほどだったが――思い返せば、他国の伯爵令嬢であるセシルは、変わった令嬢だったことを、騎士達も自覚している。
初日、休憩を取る際に、ある街の領城に入った時、貴婦人を外で待たせることはできないので、休憩用の為に宿屋へ向かう騎士団の前で、セシルはそれを止めていた。
ただ、馬を停められる場所を探しましょうと、領城の広場から少し離れた場所で、ただ、全員が馬を停めただけだった。
それで、馬車の中から出て来たセシルは、少しそこらを歩いて(足を伸ばしていただけだったのだが)、それで、終わりだった。
飲み物や軽食も出さなかったが、後からギルバートに、セシル達は、どうやら自分達で携帯している水袋があり、それで、水分補給は終えているから、またすぐに移動可能だ、などと説明されて、初っ端から、唖然としてしまった騎士達である。
それで、その晩だって、宿に到着した騎士達に、
「これ、領地のものなのですけれど、宜しかったらどうぞ? カボチャの種を炒って、乾燥させたものなのです。疲労や体力回復には、丁度、良いのですのよ」
親切に、騎士達に、一つ一つ“カボチャ”という、その種を渡してくれたのだ。
それで、謎なご令嬢の行動に、ポリポリ、ポリポリと、カボチャの種を必死で噛んでいた騎士達だったのだ。
二日目を終えて、セシルが休憩の時に外に出てきても、特別、騎士達に話しかけることもない。
まあ、貴婦人は、護衛の騎士達など無視しているし、世話係が世話をしてくれるので、休憩中などは、自分の気の向いたことや、好きなことをしているのが通常なので、セシルが話しかけてこないことは驚きではない。
でも、それと同時に、文句も上がってこなかった。
あまりに――静かすぎて不気味なほどで、もしかして、自分達は粗相をしてしまったのだろうか……そっちの懸念の方が、上がってきてしまうものだった。
だが、今夜も、セシルは騎士達にカボチャの種をくれた。
だから、怒っているのではないらしい。
「君達ねえ、いいから、下手な心配はしないで、かのご令嬢には感謝して、さっさと休みなさい。明日も早いんですから」
「はい……」
「感謝することを、忘れないんですよ」
「はい」
いや、そんな押しつけがましく感謝させなくてもいいのに。
セシルだって、そんなことは、一言だって頼んでいない。
ギルバートだって、頼んでいない。
別に、ここに揃っている部下達に、セシルの良さを理解させたいとか、そんなことは、一切、考えていないのに。
「この宿は、今夜は、私達で貸し切りのようなものだ。部屋に続く廊下で、護衛は二人でいいだろう」
「わかりました」
「じゃあ、今夜はもう休め」
「はい。それでは、失礼致します」
それで、全員が談話室から出ていった。
そんなこんなで、あまりに順調な移動を進めて王都にやってきた一行は、予定よりも(やはり早く)到着して、予定日前日の午前中には、王宮に到着していたのだった。
あまりに順調な移動で、実はここだけの話だったが――ギルバートと共に、護衛の任務で同行していた騎士達からは――セシルの好感度が倍に跳ね上がっていたのは、言うまでもない。
なにしろ、あまりに順調な移動で、文句が一切上がって来なくて、街頭で並ぶ食事でも、適当に買っただけだったのにお礼を言われ、夜は夜で、「皆様、お疲れでしょう?」 と、全員に声をかけてくれる。
それで、最初の二日分のスピードを取り戻して、六日の移動予定が、普段通り、五日とちょっとで済んでしまったのだ。
毎晩の確認で、しっかりとセシルに感謝しなさいよと、クリストフにも刷り込まれたせいか、付き添ってきた騎士達の間で、セシルの好感度が倍に跳ね上がっていたのは、言うまでもない。
だから……、ギルバートは、自分の部下達にセシルの良さを自慢したり、見せびらかしたりするつもりもないし、セシルの良さを、無理矢理、売りつけるつもりだって全くないのだ。
余計なクリストフの行動でも、クリストフはいつもああだ。
ギルバートが深く追求するだけ、無駄ではあるのだ……。
だが、セシルの好感度が上がっていた理由はそれだけないことも――ギルバートは、ある程度、理解してしまっていた。
経験組の騎士の何人かは、あまりに衝撃的な出会いを遂げた、セシルとの出会いを覚えている者がいる。
それだけに、あの時のイメージと全く違うご令嬢が馬車に乗っていて、間近で見るセシルは――とても見目麗しい美しい女性なのだ。
セシルは、騎士団がいるからきっと遠慮して、普段のようなキビキビとした行動や態度が見られなく、そうなると、セシルの醸し出す雰囲気は、儚げな美女である。
その些細な仕草も、動きも、話し方も、ほんのりとした色香があって、それでいて、穏やかで洗練されている。
だから、若い騎士達が――セシルに憧れてしまう気持ちは理解できるが、できても、ギルバートには面白くない状況だ。
「その程度で、膨れっ面をなさらないでくださいね。今の所、ご令嬢の好感度が上がり、王宮での反応も、きっと良いことでしょうから」
だから、ギルバートは一度だって、セシルを売りつけてくれ、などと頼んだ覚えはないのに!
余計なことをしてくれるクリストフである。