奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *
「――……すごいっ……、きれいなご令嬢……!」
会場中の全員から一斉に注目を浴びて、扉の向こうから現れた隣国の令嬢を見て、第一声がそれだった。
自分の持っている扇で口元を隠し、それでも、あまりの驚きで、じーっと、会場の中をゆっくりと進んで行くセシルに、全員の突き刺さるような視線が向けられる。
「…………………………」
自分の妻の隣で、同じように扉に視線を向けていた騎士の一人、テイト・スタイナーも、自分の目を疑うかのように、激しい瞠目を見せていたなど、隣で興奮している妻は、全く気づきもしなかっただろう。
――――……ギルバート殿下の、エスコート……!?
おまけに、あの――180度変貌を遂げたような、かの令嬢の!?
確かに、全員が驚くほどの――ものすごい美女に変貌を遂げて(遂げたのかどうかも定かでない……) やって来たかのような令嬢は、王国でも、稀に見ぬほどの美貌を持ち合わせていた。
まさか――あの衝撃的な出会いで、奇天烈なドレスを着ていたあの野暮ったい令嬢が、あれほどの美しい女性だったなど、一体、誰が考えようか。
サラサラと、癖のない長い髪の毛が、会場を進んで行く動きに合わせ、ゆらり、ゆらりと、肩から流れ落ち背中を揺らしている。
そして、王国では見慣れないドレスを着て――でも奇天烈ではなくて――エスコートされているかの令嬢の様相は、儚げな雰囲気だ。
どこそこに浮かぶ色香が艶っぽく、それで、ドレスの線から浮かぶ女性らしい柔らかな稜線が、緩やかに揺れるドレスの動きで強調され、男の視線を奪って離さない。
初めての出会いは、あまりに衝撃的だった。
まさか、今夜までもまた、衝撃的な出会いで、もう一度、かの令嬢を目にするなど、テイトだって信じられない状況に、隣の妻とは違った意味で、更なる衝撃を受けていたのだった。
「――……なんて、美しい女性だったのかしらぁ……! ――ギルバート殿下に恋人がいたなど、全く知りませんでしたわ……」
未だに驚愕が取れず、それでも、目が逸らせず、じーっと、あまりにぶしつけな視線を向けている(と非難されても仕方がない) 妻は、口元に当てた扇の向こうで、ほうぅ……と、感動しながら、感嘆めいた長い息を吐き出している。
ちらっと、その妻を横目で見たテイトは、何と言っていいのか、微かに眉間を寄せてしまっていた。
――――……ギルバート殿下の、エスコート……!?
もう、これは、王家のスキャンダル並の大事だった。
まさか――あのギルバート王子殿下自らが、貴族の令嬢をエスコートしてくるなど!
それも、その相手が――いわく付きの、有名なかの令嬢だ。
騎士達とその身内の集まりとは言え、王家主催の夜会だ。
そんな公式の場で、王子殿下の一人であるギルバートが、貴族のご令嬢をエスコートするなど――それは、もう、完全に、ギルバートのパートナーを、公式に紹介しているも同然の行為ではないか!
会場中の全員が驚いて、まさか、思いもよらぬ場で、ギルバート王子殿下の恋人を目にするなど、予想もしていなかったことだろう。
王家主催の夜会だから、当然のこと、新国王陛下となったアルデーラが、かの令嬢を招待したことは、テイトも簡単に予想がついた。
あの――あまりに衝撃的な出会いをした令嬢だけに、国王陛下となったアルデーラでも、未だに、あの令嬢に探りを入れていることは、テイトも知っていた。
本人が納得していないからか、敢えて、かの令嬢を夜会に招待したのだろうが、それでも、エスコート役をギルバートにさせるなど、それを承諾したであろうアルデーラの気が知れなくて、テイトも、その点に一番に驚いていたのだ。
誰だって、ギルバート程の立場の王子が、公式の場で女性を連れて来たのなら、即座に、恋人やそういった関係を疑うものだ。
あまりに疑う余地もないから。
現宰相であるレイフ殿下と、第三王子殿下のギルバートは、未だ独身なだけに、社交界で、目下、“夫候補”で“最良物件”のナンバー1と2を行くほどの有名な二人だ。
宰相であるレイフの方は――並の女性では宰相の相手にもならないだけに、そう言った理由で、令嬢達が気安く近づける相手ではないことも相重なって、レイフは、あの年齢でも、未だに、独身を通している。
前国王陛下だって、今の国王だって――半分以上、レイフの結婚問題は、諦めているようなものだ。
対する第三王子殿下のギルバートは、レイフほど扱い難い男性ではない。むしろ、騎士団の副団長を務めるほどの実力主義者で、人望も厚い。
王家で王子であっても、王国の政にそこまで縛られていないせいか、独身の貴婦人からも、若いご令嬢からも、ものすごい熱烈なアプローチを受けて、次の妃候補が後を絶たないほどだ。
テイトとは同じ騎士団と言うこともあり、仕事上で顔をよく合わせている仲でもある。
今は、互いに副団長となり、そういった集まりでも、会議でも、毎回、顔を合わせているほどだ。
そのギルバートと言えば、結婚していないレイフ殿下のツケが回ってきて、ここ数年、ギルバートの元には、(あまりにうるさいほどの) 縁談話が持ち上がっている。
本人は、まだその気が全くないらしく、いつも、うまい具合に縁談話を避けて、令嬢達からの(うるさい) 誘いも避けて、仕事一筋の王子である。
「――……すごいっ……、きれいなご令嬢……!」
会場中の全員から一斉に注目を浴びて、扉の向こうから現れた隣国の令嬢を見て、第一声がそれだった。
自分の持っている扇で口元を隠し、それでも、あまりの驚きで、じーっと、会場の中をゆっくりと進んで行くセシルに、全員の突き刺さるような視線が向けられる。
「…………………………」
自分の妻の隣で、同じように扉に視線を向けていた騎士の一人、テイト・スタイナーも、自分の目を疑うかのように、激しい瞠目を見せていたなど、隣で興奮している妻は、全く気づきもしなかっただろう。
――――……ギルバート殿下の、エスコート……!?
おまけに、あの――180度変貌を遂げたような、かの令嬢の!?
確かに、全員が驚くほどの――ものすごい美女に変貌を遂げて(遂げたのかどうかも定かでない……) やって来たかのような令嬢は、王国でも、稀に見ぬほどの美貌を持ち合わせていた。
まさか――あの衝撃的な出会いで、奇天烈なドレスを着ていたあの野暮ったい令嬢が、あれほどの美しい女性だったなど、一体、誰が考えようか。
サラサラと、癖のない長い髪の毛が、会場を進んで行く動きに合わせ、ゆらり、ゆらりと、肩から流れ落ち背中を揺らしている。
そして、王国では見慣れないドレスを着て――でも奇天烈ではなくて――エスコートされているかの令嬢の様相は、儚げな雰囲気だ。
どこそこに浮かぶ色香が艶っぽく、それで、ドレスの線から浮かぶ女性らしい柔らかな稜線が、緩やかに揺れるドレスの動きで強調され、男の視線を奪って離さない。
初めての出会いは、あまりに衝撃的だった。
まさか、今夜までもまた、衝撃的な出会いで、もう一度、かの令嬢を目にするなど、テイトだって信じられない状況に、隣の妻とは違った意味で、更なる衝撃を受けていたのだった。
「――……なんて、美しい女性だったのかしらぁ……! ――ギルバート殿下に恋人がいたなど、全く知りませんでしたわ……」
未だに驚愕が取れず、それでも、目が逸らせず、じーっと、あまりにぶしつけな視線を向けている(と非難されても仕方がない) 妻は、口元に当てた扇の向こうで、ほうぅ……と、感動しながら、感嘆めいた長い息を吐き出している。
ちらっと、その妻を横目で見たテイトは、何と言っていいのか、微かに眉間を寄せてしまっていた。
――――……ギルバート殿下の、エスコート……!?
もう、これは、王家のスキャンダル並の大事だった。
まさか――あのギルバート王子殿下自らが、貴族の令嬢をエスコートしてくるなど!
それも、その相手が――いわく付きの、有名なかの令嬢だ。
騎士達とその身内の集まりとは言え、王家主催の夜会だ。
そんな公式の場で、王子殿下の一人であるギルバートが、貴族のご令嬢をエスコートするなど――それは、もう、完全に、ギルバートのパートナーを、公式に紹介しているも同然の行為ではないか!
会場中の全員が驚いて、まさか、思いもよらぬ場で、ギルバート王子殿下の恋人を目にするなど、予想もしていなかったことだろう。
王家主催の夜会だから、当然のこと、新国王陛下となったアルデーラが、かの令嬢を招待したことは、テイトも簡単に予想がついた。
あの――あまりに衝撃的な出会いをした令嬢だけに、国王陛下となったアルデーラでも、未だに、あの令嬢に探りを入れていることは、テイトも知っていた。
本人が納得していないからか、敢えて、かの令嬢を夜会に招待したのだろうが、それでも、エスコート役をギルバートにさせるなど、それを承諾したであろうアルデーラの気が知れなくて、テイトも、その点に一番に驚いていたのだ。
誰だって、ギルバート程の立場の王子が、公式の場で女性を連れて来たのなら、即座に、恋人やそういった関係を疑うものだ。
あまりに疑う余地もないから。
現宰相であるレイフ殿下と、第三王子殿下のギルバートは、未だ独身なだけに、社交界で、目下、“夫候補”で“最良物件”のナンバー1と2を行くほどの有名な二人だ。
宰相であるレイフの方は――並の女性では宰相の相手にもならないだけに、そう言った理由で、令嬢達が気安く近づける相手ではないことも相重なって、レイフは、あの年齢でも、未だに、独身を通している。
前国王陛下だって、今の国王だって――半分以上、レイフの結婚問題は、諦めているようなものだ。
対する第三王子殿下のギルバートは、レイフほど扱い難い男性ではない。むしろ、騎士団の副団長を務めるほどの実力主義者で、人望も厚い。
王家で王子であっても、王国の政にそこまで縛られていないせいか、独身の貴婦人からも、若いご令嬢からも、ものすごい熱烈なアプローチを受けて、次の妃候補が後を絶たないほどだ。
テイトとは同じ騎士団と言うこともあり、仕事上で顔をよく合わせている仲でもある。
今は、互いに副団長となり、そういった集まりでも、会議でも、毎回、顔を合わせているほどだ。
そのギルバートと言えば、結婚していないレイフ殿下のツケが回ってきて、ここ数年、ギルバートの元には、(あまりにうるさいほどの) 縁談話が持ち上がっている。
本人は、まだその気が全くないらしく、いつも、うまい具合に縁談話を避けて、令嬢達からの(うるさい) 誘いも避けて、仕事一筋の王子である。