奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* А.г 関わり合いになりたくないのに *
もう一度、アトレシア大王国の王宮に入ったのなら、なんやかんやと理由を付けられて、呼び出されることは、ある程度、予想はしていた。
予想はしていても、新国王陛下即位のお祝い、その国王に仕える騎士達の戦での貢献を労う慰労会――もどき夜会に参加したその次の日から、もう、すでにこの状態である……。
一週間も滞在などしたくなかったのに、夜会に参加した次の日に、トンズラをかますことも不敬で、仕方なく王宮に残っている――残らされたセシルは、胸内で重い溜息をこぼしていた。
――――この、朝食会の構図。絶対、おかしすぎるじゃない……。
少し遅めの朝食はどうか――と、招待されて、本当に仕方なく、朝の着替えを済ませたセシルは、大広間や小広間といった晩餐会用の部屋ではなく、日当たりのよいガゼボが設置された庭の方にきていた。
数人が座れる小さなガゼボなどではなく、軽く十人は座れそうなほどの大きさもある、長いテーブルが設置されたガゼボだ。
ガゼボの屋根は全体をカバーしていて、柱からは、長いカーテンが垂れながら、端でまとめられている。
そして、ガゼボの中にも、植木鉢に植えられた色とりどりの花々が、その場を華やかに飾っているほどである。
その花々が、そよそよと、可愛らしく揺れていた。
なぜ――伯爵令嬢ごときのセシルが、最後の到着組みとなるのだろうか。
普通は、セシルが、残りの全員を待っている立場であろうに。
それで、最後の最後で、上位のゲストやホストがやって来るのではないのか?
だが、ギルバートに案内されてやってきた場には、すでに、全員が揃っているようだった。
セシルはドレスの端を掴みながら、ゆっくりとお辞儀をしていく。
「おじうえっ、おはようございますっ」
「ああ、お早う」
きゃっ、きゃっと、可愛らしい幼児のはしゃぎ声も混ざってくる。
「ヘルバート伯爵令嬢、今朝は、堅苦しい集まりではない。楽にしてもらいたい」
国王陛下であるアルデーラの言葉通り、アルデーラの様相も堅苦しい正装でもなく、黒地の高い襟付きのシャツに、ベストを合わせたような、シンプルな整いだった。
向かって一番奥の右に、国王陛下。
その向かいの席に、王妃アデラが座り、その隣に小さな男の子が、興味深そうに、その瞳をくりくりさせて座っている。
アルデーラとアデラの第一子、第一王子殿下のオスミンと言った、王子ではなかっただろうか。
オスミン王子の隣には、無表情にセシルを見ている――睨んでいる――若い女性。きっと、末姫の第一王女トリネッテだろう。
黒髪に近い長い髪の毛をおろし、他の兄弟達とは違って、朝からでも、きっちりと公用でも問題にはならないであろうドレスを着込み、それに合わせたイヤリングも、ネックレスも身に着けていた。
四角い襟口の胸元には、細やかなフリルがあしらわれ、そのフリルは、袖口にも三連重なって手首を飾る。
淡いアプリコット色は派手過ぎず、地味過ぎず、そのドレスの色に合わせたネックレスは、小粒の宝石が可愛らしく並んで、けばけばしいのでもない。
全体的に上品な雰囲気を醸しだしていた、まだ若さが残る王女の容姿には、ピッタリと合っていた様相だった。
だが、セシルに向ける眼差しは、まったく好意的ではない。
敵意をむき出しにしているのではないだろうが、それでも、無表情の奥で、他の全員のような素直な興味をみせているような眼差しではなく、完全に“品定め”している冷たい瞳だった。
そして、王女の隣に、まだ幼児に見える、これまた小さな男の子が、少し離れて座っていた。
第二王子殿下イングラムであるのは予想がついたが、イングラム王子の傍で、乳母のような侍女が、少し暴れているイングラムにつきっきりである。
アルデーラの右手にはすぐ下の弟、現宰相のレイフ第二王子殿下、現王太子殿下が座っている。
昨日の夜会では、最初の国王陛下への挨拶以外、全く話す機会がなくてホッとしていたのに、今日は、朝食を一緒にしなければならないのである。
なぜ、仲良し家族団欒の場に、セシルまで混ざるのだろうか。
もう――今回は、なぜ、なぜ、なぜ……そればかりを口にしている気がするのは、気のせいではないだろう。
(――――でも……、なんで? ――って言いたいわぁ……(くすん))
「お早うございます、ヘルバート伯爵令嬢」
レイフは自分の席から、やって来たセシルを興味深そうに眺めている。
「おはようございます」
「ヘルバート伯爵令嬢、朝からお呼び立てしてしまいまして、ごめんなさいね。今まで、少々、忙しかったものですから、今朝は、ゆっくりと朝食でも、と思いまして」
「いえ、お誘いいただきまして、光栄でございます」
セシルは、アデラにも、丁寧な返事を返す。
「ヘルバート伯爵令嬢、どうぞお掛けになってください。今日は、わんぱく小僧が混ざって、少々、うるさいかもしれませんが」
「ギルバートおじうえっ! ぼくは、わんぱくこぞう、じゃありません」
「おや、そうだったかな? では、今朝は、静かに食事ができるのかな?」
「もちろんです。しずかにできます」
「そうか。それは楽しみだ」
おかしそうに笑いながらオスミンをあやしているギルバートは、普段の堅さが抜けて、随分、リラックスしているようだった。
「どうぞ、ヘルバート伯爵令嬢」
「ありがとうございます」
椅子を引かれたので、セシルは(覚悟を決めて……) 静かに腰を下ろしていく。
すぐに、セシルの隣にギルバートが座っていく。セシルの目の前にはイングラム王子が座っていて、見知らぬ顔が混ざってきたのを見て、その瞳をパチパチさせていた。
「まー、まー」
「イングラムさま、「ママ」ではございませんよ。ヘルバート伯爵令嬢、とお呼びになってくださいね」
まだ、二歳かそこらの幼児に、そんな難しい名前を呼ばせるほうが、無理があるというもの。
別に、セシルは何と呼ばれようが気にはしないのに。
「へる、――へる?」
侍女はただにこやかに、イングラム王子に笑っている。
これは――二歳児に、すでに無言の圧力ですか……?
さすが、王宮勤めの王子殿下付きの侍女サマ。口を挟まず、控えているだけなのに、その無言の圧が並ではない……。
ここは、セシルも粗相をしないよう、朝から(ものすごい) 神経を集中して、自分のマナーを確認しなければならないだろう。
無言のままなのに――こんな鷹の目のように、テーブルに隙なく目を配っていられる侍女など、絶対に、突然やってきた他国の令嬢であるセシルだって――その厳しい審査の視線にさらされていること間違いなし。
昨夜は、サンドイッチ一切れ。
朝食くらいは――平穏無事に済ませたいというセシルの切な希望は、今朝もまた、完全に打ち砕かれてしまったようだった……。
昨日、夜会から戻って来たセシルは、(一応) 生きて無事に帰れたことに、ストレス発散の為、眠る前に、持参してきたカボチャの種を、ポリポリポリ。
歯を動かして、ポリポリポリ。モグモグモグ。
歯応えがあって、ポリポリポリ。
シーンと、静まり返った広い寝室内で、ポリポリポリ。
絢爛豪奢な室内には全く似つかわしくない、少々、物寂しい音だ。
ポリポリポリ――――
もしかして、今夜もまた同じ状況だったりして……?
それだけは――あまり想像したくないセシルだった。
予想はしていても、新国王陛下即位のお祝い、その国王に仕える騎士達の戦での貢献を労う慰労会――もどき夜会に参加したその次の日から、もう、すでにこの状態である……。
一週間も滞在などしたくなかったのに、夜会に参加した次の日に、トンズラをかますことも不敬で、仕方なく王宮に残っている――残らされたセシルは、胸内で重い溜息をこぼしていた。
――――この、朝食会の構図。絶対、おかしすぎるじゃない……。
少し遅めの朝食はどうか――と、招待されて、本当に仕方なく、朝の着替えを済ませたセシルは、大広間や小広間といった晩餐会用の部屋ではなく、日当たりのよいガゼボが設置された庭の方にきていた。
数人が座れる小さなガゼボなどではなく、軽く十人は座れそうなほどの大きさもある、長いテーブルが設置されたガゼボだ。
ガゼボの屋根は全体をカバーしていて、柱からは、長いカーテンが垂れながら、端でまとめられている。
そして、ガゼボの中にも、植木鉢に植えられた色とりどりの花々が、その場を華やかに飾っているほどである。
その花々が、そよそよと、可愛らしく揺れていた。
なぜ――伯爵令嬢ごときのセシルが、最後の到着組みとなるのだろうか。
普通は、セシルが、残りの全員を待っている立場であろうに。
それで、最後の最後で、上位のゲストやホストがやって来るのではないのか?
だが、ギルバートに案内されてやってきた場には、すでに、全員が揃っているようだった。
セシルはドレスの端を掴みながら、ゆっくりとお辞儀をしていく。
「おじうえっ、おはようございますっ」
「ああ、お早う」
きゃっ、きゃっと、可愛らしい幼児のはしゃぎ声も混ざってくる。
「ヘルバート伯爵令嬢、今朝は、堅苦しい集まりではない。楽にしてもらいたい」
国王陛下であるアルデーラの言葉通り、アルデーラの様相も堅苦しい正装でもなく、黒地の高い襟付きのシャツに、ベストを合わせたような、シンプルな整いだった。
向かって一番奥の右に、国王陛下。
その向かいの席に、王妃アデラが座り、その隣に小さな男の子が、興味深そうに、その瞳をくりくりさせて座っている。
アルデーラとアデラの第一子、第一王子殿下のオスミンと言った、王子ではなかっただろうか。
オスミン王子の隣には、無表情にセシルを見ている――睨んでいる――若い女性。きっと、末姫の第一王女トリネッテだろう。
黒髪に近い長い髪の毛をおろし、他の兄弟達とは違って、朝からでも、きっちりと公用でも問題にはならないであろうドレスを着込み、それに合わせたイヤリングも、ネックレスも身に着けていた。
四角い襟口の胸元には、細やかなフリルがあしらわれ、そのフリルは、袖口にも三連重なって手首を飾る。
淡いアプリコット色は派手過ぎず、地味過ぎず、そのドレスの色に合わせたネックレスは、小粒の宝石が可愛らしく並んで、けばけばしいのでもない。
全体的に上品な雰囲気を醸しだしていた、まだ若さが残る王女の容姿には、ピッタリと合っていた様相だった。
だが、セシルに向ける眼差しは、まったく好意的ではない。
敵意をむき出しにしているのではないだろうが、それでも、無表情の奥で、他の全員のような素直な興味をみせているような眼差しではなく、完全に“品定め”している冷たい瞳だった。
そして、王女の隣に、まだ幼児に見える、これまた小さな男の子が、少し離れて座っていた。
第二王子殿下イングラムであるのは予想がついたが、イングラム王子の傍で、乳母のような侍女が、少し暴れているイングラムにつきっきりである。
アルデーラの右手にはすぐ下の弟、現宰相のレイフ第二王子殿下、現王太子殿下が座っている。
昨日の夜会では、最初の国王陛下への挨拶以外、全く話す機会がなくてホッとしていたのに、今日は、朝食を一緒にしなければならないのである。
なぜ、仲良し家族団欒の場に、セシルまで混ざるのだろうか。
もう――今回は、なぜ、なぜ、なぜ……そればかりを口にしている気がするのは、気のせいではないだろう。
(――――でも……、なんで? ――って言いたいわぁ……(くすん))
「お早うございます、ヘルバート伯爵令嬢」
レイフは自分の席から、やって来たセシルを興味深そうに眺めている。
「おはようございます」
「ヘルバート伯爵令嬢、朝からお呼び立てしてしまいまして、ごめんなさいね。今まで、少々、忙しかったものですから、今朝は、ゆっくりと朝食でも、と思いまして」
「いえ、お誘いいただきまして、光栄でございます」
セシルは、アデラにも、丁寧な返事を返す。
「ヘルバート伯爵令嬢、どうぞお掛けになってください。今日は、わんぱく小僧が混ざって、少々、うるさいかもしれませんが」
「ギルバートおじうえっ! ぼくは、わんぱくこぞう、じゃありません」
「おや、そうだったかな? では、今朝は、静かに食事ができるのかな?」
「もちろんです。しずかにできます」
「そうか。それは楽しみだ」
おかしそうに笑いながらオスミンをあやしているギルバートは、普段の堅さが抜けて、随分、リラックスしているようだった。
「どうぞ、ヘルバート伯爵令嬢」
「ありがとうございます」
椅子を引かれたので、セシルは(覚悟を決めて……) 静かに腰を下ろしていく。
すぐに、セシルの隣にギルバートが座っていく。セシルの目の前にはイングラム王子が座っていて、見知らぬ顔が混ざってきたのを見て、その瞳をパチパチさせていた。
「まー、まー」
「イングラムさま、「ママ」ではございませんよ。ヘルバート伯爵令嬢、とお呼びになってくださいね」
まだ、二歳かそこらの幼児に、そんな難しい名前を呼ばせるほうが、無理があるというもの。
別に、セシルは何と呼ばれようが気にはしないのに。
「へる、――へる?」
侍女はただにこやかに、イングラム王子に笑っている。
これは――二歳児に、すでに無言の圧力ですか……?
さすが、王宮勤めの王子殿下付きの侍女サマ。口を挟まず、控えているだけなのに、その無言の圧が並ではない……。
ここは、セシルも粗相をしないよう、朝から(ものすごい) 神経を集中して、自分のマナーを確認しなければならないだろう。
無言のままなのに――こんな鷹の目のように、テーブルに隙なく目を配っていられる侍女など、絶対に、突然やってきた他国の令嬢であるセシルだって――その厳しい審査の視線にさらされていること間違いなし。
昨夜は、サンドイッチ一切れ。
朝食くらいは――平穏無事に済ませたいというセシルの切な希望は、今朝もまた、完全に打ち砕かれてしまったようだった……。
昨日、夜会から戻って来たセシルは、(一応) 生きて無事に帰れたことに、ストレス発散の為、眠る前に、持参してきたカボチャの種を、ポリポリポリ。
歯を動かして、ポリポリポリ。モグモグモグ。
歯応えがあって、ポリポリポリ。
シーンと、静まり返った広い寝室内で、ポリポリポリ。
絢爛豪奢な室内には全く似つかわしくない、少々、物寂しい音だ。
ポリポリポリ――――
もしかして、今夜もまた同じ状況だったりして……?
それだけは――あまり想像したくないセシルだった。