奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
 セシルとギルバートが席につくと同時に、その場に控えていた使用人が、一斉に動き出し、朝食のサーブが始まった。

 国王陛下、王妃がサーブされ、次に宰相である第二王子殿下のレイフ、そして、ギルバート。

 そのメインがサーブされると、末姫のトリネッテ姫と子供達。

 最後に、セシルの目の前に並べられている皿に、朝食がサーブされた。

 朝から、豪華なメインの肉料理である。
 王宮のシェフが丹精込めて盛り付けた、それは、それは、美しい薄切りの牛肉に、ソテーされた野菜が並び、その周りに、お飾り程度のグレービーが、優雅に波打ってかけられている。

 そして、その皿の周りを囲うように並んでいる、サイドディッシュの数々。

 切られたパンがパン皿に並べられ、使用人達が、それぞれ丁寧にバターを塗っていく。

 どうやら――この王宮では、パンにバターを塗るのも、使用人の役目らしい。

 自分でバターを塗る習慣もあれば、こんな風に使用人にバターを塗ってもらう習慣もある。




 では、ここでちょっと歴史のおさらいなど?


~*~ セシルの歴史教室:ナプキン、テーブルクロス ~*~
 現代で添えられているようなナプキンは、実は、この時代でも、ポピュラーではないんです。

 元々、ナプキンというより、テーブルクロス、またはタオルというのは、手で食事を食べる時に、手を拭く為に使用されていた為、フォークの導入で、その需要がグッと減ってしまったのだ。

 昔は、柔らかなパン生地(dough) で、手に着いたオイルや汚れを落としてた。

 それから、近代に入り、ウォッシュボールで、料理の終わりの度に手を洗い、手を拭くタオルが出ていたくらい。

 その頃では、テーブルを一周するほどの、ただ長ーい一枚布が、テーブルの端にかかって、それを、共同タオル、または、ナプキンとしていた時もある。

 現代のように、膝の上に掛けるナプキンが出され始めたのは、20世紀近くなのである。

 そうなると、小説や漫画ででてくる西洋の宮殿や王宮物語では、結構、フォークとナイフ、それにナプキンも使用されている場面があるが、ドレスがロココ時代やヴィクトリアン時代なら、たぶん、ナプキンの使用はされていないことになる。

 そして、ナイフも。
 ほとんどが、フォークだけだったはず。

 でも、お話や場面を見ている分には見栄えがいいので、この場で、ナイフとフォークをお話に導入します(笑)。

 ここで余談ですが、ペーパーナプキンというのは、実は、日本人のマーケットで出したことが、きっかけだったんですね。

 当時は、すぐにクシャクシャになるペーパーナプキンなど出してくだらない、などと、西洋の主婦層や階級層から、日本人のくだらなさをバカにされていたくらいです。

 それから、ピクニックパーティーなどで、ロゴが入ったきれいなペーパーナプキンなどが広がって、ホテルやレストランでも使用されるようになり、最終的に、1950年代、アメリカのエチケット著者が、ペーパーナプキンを奨励したことで、有名度が一気に上がったんですねえ。

 ナプキンのエチケットとして、二つ折りにした折口を自分に向けて、膝の上に置きます。
 首に掛けたり、首の後ろで縛ったりするのは✖。エチケット違反ですよ。

 でも、そういう場面、映画や漫画でも出てきましたよね?

 ナプキンがあったんだ、と言う風に主張する分には、首にかけていないと、テーブルの下で、ナプキンなど見えないでしょうから。


 そんなこんなで、ちょっと歴史雑談でした。
~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~




 話は逸れましたが、王宮の庭に戻って――――

 国王陛下がナイフとフォークを取り上げ、自分の食事を始めていく。
 それで、王妃と宰相が同じようにカトラリーを手に取った。ギルバートと王女も、食事を始めるようなので、最後の最後で、やっと、セシルの番だった。

 それから、ここで一つ言っておくが、もしホスト役(今回は、きっと、国王陛下なのだろう) が、最後まで食事を終わらせない場合、それに合わせて、自分の食事も少しだけ残しておくのがエチケットである……。

 一人だけ、全部平らげて満足しているのは――恥ずかしいマナーになってしまう。

 特に貴婦人の場合は、ものすごく苦しいコルセットをして、晩餐会に参加することが多い為、食事にほとんど手をつけない(つけれない) ことが多い。

 そうなると、周囲の貴婦人たちに合わせ、食事をあまりつけないのも、淑女のエチケットとなってしまう。

 朝から、本当に、気苦労の多い食事会ですわぁ……。
 食事くらい、楽に食べさせて欲しいものですよねえ、ホント……。

 美しく模様がほどこされた皿を削らず、音を立てず、ナイフとフォークを静かに動かし、背筋もピンと伸ばしたまま。

 ほんの一口程度の小さな切り口分を、ゆっくりと口に運んでいく(前屈みはしちゃいけません!)。

 きっと、腕によりをかけて作ってくれた朝食だろうに――今のセシルには、その味を満喫するほどの図太い神経はない。

 すでに、朝から神経がすり減って――精神的にぐったり……である。

「ヘルバート伯爵令嬢」

 ギルバート越しに、宰相である第二王子殿下に呼ばれ、セシルが少しだけ手を止めた。

「はい」
「確か、正式な領主任命をなさった、と言う話ですが?」

「はい。昨年、領主任命を拝命いたしました」
「ああ、そうですか。それは、喜ばしい報せですねえ」

「ありがとうございます」

 ギルバートを挟んで――会話など成り立つはずもなし。

 顔も見えないのに、まさか、この朝食の場で、第二王子殿下からの質問(尋問) なんて、そんな末恐ろしいことをされるのかしら……?

「なんでも、とても変わった領地の運営方法がされているとか? 是非、その話をお聞きしたいですねえ」

 そして――王女と子供達を抜かした王家の全員が、食事中の手が止まってしまっていた。

 この――ある意味、最強の偏屈王子、第二王子殿下であるレイフの()癖が出てきてしまった。

 興味の引かれること、興味のあることなら、なんでもすぐに追及、探求しないと気が済まない性格。

 その上、その興味が尽きるまで、徹底的に、自分自身で探り出さないと気が済まないしつこさと執着心。

 今朝は、ただ、王国のゲストとして招待しているセシルだから、そのゲストをもてなしているだけの集まりである(ついでに、ギルバートの思い人である女性となったセシルの紹介も兼ねてなのだが、ここでは秘密である)。

 レイフの興味が先走って、朝食会で政治討論をする場所ではないのだが……。

 それで、国王陛下であるアルデーラも、どこでレイフを止めるべきか、少し考えてしまっていた。

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