奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「え……?」

 セシルが何か反応し返す前に、ギルバートが後ろのオスミンに向いていた。

「そうだろう、オスミン」

「はいっ、おじうえ。ぼくが、うしろをふりかえったら、セシルじょうがいて、でも、セシルじょうのドレスが、はなみたいにふわふわしていました」

 今朝、セシルが来ているドレスは、エンパイアスタイルのドレスを少しアレンジして、スカート部分はストンと真っ直ぐに落ちているのではなく、裾の方を少しだけ広げるように緩いフレアをいれたものだ。

 白地のドレスでも、白っぽく見えないよう、瞳と同じ深い藍色の刺繍を襟口やスカートに縫い込んである。

 それでも、サラサラと癖のない銀髪が肩を流れ、儚げな美しさと、柔らかなドレスの繊細さが合い混じって、可憐な美女がそこに(たたず)んでいる印象だけが上がっていたのだ。

「銀色の髪の色も、花々と一緒に溶け込んで行きそうだね」
「ぼくも、そう、おもいます。セシルじょうは、はなといっしょですね」

「……そ、それは、ありがとうございます……」

 まさか、こんな場所で――二人から嬉しそうに褒められるなどとは露にも思わず、少々、セシルも照れ臭くなってしまう。

 それで、ギルバートがセシルをエスコートしたまま、またゆっくりと進んで行く。

「ここがローズガーデンです」

 ローズガーデンと言うから、この場所で、外のガーデンの続きでローズが植えられているものばかりだと思っていたセシルは、大きな建物の中に案内されていた。

 扉を開いて一歩中に足を進めただけで、室内に絢爛豪華に咲き乱れるローズが所狭(ところせま)しと並んでいたのだ。

「まぁ……!」

 かなり大きな建物の中には、深紅に色づいた大型のローズがズラリと並び、その奥には真っ白なローズが。

 そして、脇の方にはピンク色のローズも植えられていた。

「ここは……もしかして、温室なのですか?」

 建物自体は、現代の温室のようにガラス張りの温室でもなかった。
 絢爛豪華(けんらんごうか)な建物で、むしろ、一つの館を想像しそうな造りだった。

 室内は温かく、建物がガラス張りではなくても、壁一面は大きな窓ガラスがはめられていた。そこから漏れる日差しが明るく、室内全部をキラキラと輝かせている。

「そうです。このローズは王族専用に栽培されているものなのです。少し、品質改良にも成功して、この花びらの大きなクイーンローズは、王妃陛下などのバースデーパーティなどにもよく飾られます」

「深紅の色が濃く、それでいて、花びらが大きく、まさに、“大輪の女王”とも呼べそうな、美しさですわ……」

 そして……セシルの記憶違いでなければ、大きなバスタブ一杯に浮かんでいたローズの花びらも、目の前にある深紅のローズの花びらに似すぎていないだろうか……。

 王妃専用に使用されるほど高価なローズを浮かべたローズバスに、セシルは浸かっていかもしれない事実に気が付いて、少々、ショックで心臓発作を起こしそうな気分だった。


(さすがに……それは、あまりに好待遇過ぎるでしょう……?)


 もう、セシルに借りを作ってしまったなどと、考えないでください……。

 これだけの好待遇を受けてしまっては、セシルだって、どう反応して良いのか分からない。

「この温室は――あまり深く考えたことはありませんでしたが、ご令嬢の領地のグリーンハウスに似ているかもしれません」

 この時代、建物の中で植物を栽培するなどという概念がない。
 土地も、建物も無駄にして、室内に床も作らず土のまま、という考えがないからだ。

 でも、セシルの領地にあったグリーンハウスは、現代で言えば、ビニールハウスをガラス張りにした、少々、高級感溢れる半温室のようなものだ。

「こうやって、ローズを育てることができるのなら、他の植物でも育てることができたのでしょうね」

 そして、セシルの領地に行かなければ、絶対にそんなことは考えもしなかったはずだ。

「室内で植物を栽培できれば、天候に左右されず、一年中、植物を栽培することができますけれど、さすがに、土地代も建築代もバカにはなりませんわ。一般の平民では、とても無理がありますもの」

「そうですね。でも、ご令嬢は、やり遂げましたよね」
「ものすごい借金をしましたの……」
「そうですか」

 多額の借金を覚悟しても、それでも尚、グリーンハウス建設へ実行できた、それをさせたセシルの意志の強さに、こっそりと、ギルバートがセシルに敬服していることなど、セシルはきっと知らないだろうに。




 では、ここでちょっと歴史のおさらいなど?


~*~ セシルの歴史教室:ローズ ~*~
 薔薇。Roseですね。

 2月7日はRose Day。ヴァレンタインの週の初めの日として、ローズを送る日ですね。ロマンチックですねえ。

 今回、王宮のガーデンでは、広大な敷地に広がった、よく手入れされた木々に、花々。ローズも出てきました。

 英国ヴィクトリア時代に、口に出されない思いを伝える為に、ローズの交換をする習慣ができたそうです。

 化石で、ローズが最初に発見されたのは、なんと、35百年前!
 実は、ローズの培養は、すでに5000年以上も前に始まっていたらしいです。時の中国からですね。
 それから、ローマやギリシアでも始まります。

 ローズは希望、平和、愛の象徴として扱われていましたが、後に戦争の象徴ともされました。
 15世紀、英国では軍隊の象徴にもなったほどです。現在では、ローズは、愛と親交の象徴ですよねえ。

 1830年頃から、お金持ちの間で、ローズの紅茶の人気がでてきます。
 ローズは300種類以上もあるとか。

 それで、きちんと上手く育てていくと、35年は生育するそうです。
 私はガーデンには、全然、向いていないので、数カ月もしないで、枯らしてしまいそうです(くすん)……。

 ローズオイルとかってよく売っていますけれど、あれを抽出するのに、どのくらいのローズが必要なのか知っていますか?

 2,000個のローズに対し、1gのローズオイルです。
 これを聞くと、あんな小瓶で売られているのを見ると、一体、いくつのローズを使ったのかなぁ、と感慨深くなりますね。

 花言葉などでは、赤「あなたを愛してます」「愛情」「美」「情熱」、 白「純潔」「私はあなたにふさわしい」「深い尊敬」、 ピンク「しとやか」「上品」、 青「夢かなう」「不可能」「奇跡」「神の祝福」、 黄「嫉妬」「友情」。

 ローズの部分にも花言葉があり、赤いつぼみ「純粋と愛らしさ」、刺「不幸中の幸い」などなど。


 そんなこんなで、ちょっと歴史雑談でした。
~*~~*~~*~~*~~*~~*~~*~

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