奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
椅子を引き、セシルは静かに腰を下ろす。
その様子までも、(なぜか) 王妃アデラは興味深そうにセシルを眺めている。
やっと、殿方に邪魔されず、王妃アデラとセシルは二人きりで会う。
うふふふふ。
一番最初の出会いは衝撃で、あの時に、セシルはあまりに奇天烈なドレスを着ていた為、アデラも――コメントなし……。
自ら諍いなど持ち込まないよう、慎ましやかな王妃の立場を保っているので、あまりに見慣れぬ、奇妙で奇天烈なドレスをご令嬢が着ていようが、その点について、一切、コメントをしないのだ。
そして、二度目の出会いも、衝撃だった。今回は、前回とはまるっきり違う意味合いで。
セシルは、また王宮でも、王都でも、見慣れないデザインのドレスを着ていた。
でも、見慣れないからと言って、野暮ったいとか、奇天烈でとか、みすぼれたなんて印象が、一切、上がらないほどの――目を引くデザインのドレスを着ていた。
そして、記憶にあるセシルは焦げ茶の髪の毛をしていて、アルデーラに挨拶をしている間も、長い前髪が垂れて、あまり、壇上からでも、セシルの顔や表情が見て取れなかったのを覚えている。
なのに、ギルバートにエスコートされて、大広間の会場をゆっくりと進んでくるセシルは、銀髪だったのだ。
サラサラと癖のない真っ直ぐな銀髪が肩を流れ、セシルがゆっくりと進んでくる度に、優しくドレスの裾で揺れていた。
最初の時の印象とは全く違い、最初の時の外見や容姿だって全く違い、醸し出す雰囲気だって、最初の時に見た記憶から全くかけ離れてしまっていたセシルを前に、アルデーラ同様――いや、それ以上に驚いていたのは、アデラの方だ。
そして、長い前髪に隠れて見えなかったセシルの容貌は、息をのむほど儚げな美しい女性だったのだ。
それなのに、その容姿に相反する、深い藍の瞳。意志の強さを映した、強い眼差し。
きれいな令嬢や、嫋やかな女性は、何度も見てきている。
容姿だけでなく、着ているドレスや、身に着けているアクセサリー、仕草からでも、“美しさ”は醸し出さるものだろうと、アデラは考えている方だ。
だが、セシルが挨拶にやって来て、その姿を間近で見つめていたアデラには、素直な驚きで、言葉を失ってしまっていた。
容姿も、容貌も、醸し出す雰囲気さえも、その全てが全て、目を奪われる程の“美しい”が存在していて、力強い強さを秘めた藍の瞳に惹き付けられて、セシルの動き一つ一つに目が行ってしまって、その存在感が圧倒的だったのだ。
なのに、ふとした仕草や表情などが、ほんのりとした色気を醸し出し、目が離せないでいる先で、セシルの女性らしい体の稜線が艶めかしくて、目が奪われたままになってしまう。
ほぅ……と、知らず息を吐き出してしまっていたのは、セシルが挨拶を終えて、その場を立ち去って行ってからだ。
三度目の出会いはすぐにもやって来て、間近でセシルと接することができたが、他にも全員揃っていて、子供達もはしゃいでいて、大した情報が得られる集まりではなかった。
それで、王宮に滞在している間、ずっとセシルを独り占めしているギルバートに、無理矢理、頼み込んで、今日のお茶会にセシルを招待することができたのだ。
ギルバートはにこやかに頼みごとをしてくるアデラに、少々、困った顔をしていたが、
「将来の為にも、必要ですわよ」
などと、王妃であり、義姉であるアデラから窘められる形で、仕方なく承諾したのだった。
四度目の出会いは、やっと、アデラとセシルの二人きりである。
そして、今日もまた、セシルは見慣れないデザインのドレスを着ていた。なのに、セシルが着ると、あまり違和感が感じられないのが、不思議である。
今日も、コルセットをしていない。
今の流行で言えば、手で掴めるほどのものすごい細い腰を、(更に) 強調させた女性のドレスが“美の基本”と認識されている。
そんな中、夜会のドレスも、朝食会でのドレスも、そして、お茶会でのデイドレスも、セシルはコルセットなどしていなかったように見えた。
流れるような形がきれいで、歩く度に、ドレスの裾がゆらゆらと揺れて流れていたり、肩から流れていた長い布がひらひらと踊っていたりと、ウェストに注目などいかないほど、珍しく、それなのに――目が離せない形のドレスを着ていた。
ドレスのトップはⅤネックに見えるカシュクールで、片方の巻き部分が柔らかなクリーム色で、合わせの反対部分が、セシルと同じ深い藍の色をした二色混合だ。
アデラだって、こんな風に組み合わせ、色を混ぜたドレスなど見たことがない。
そして、緩やかに裾が伸びたAラインのドレープがかかったスカート部分が流れ、サイドに割れている部分から、中にはいているもう一枚の(?)スカートが深い藍色だった。
クリーム系の布地には、薄っすらとした白地の刺繍がほどこされ、藍色の布地の裾には、金色の繊細な刺繍がほどこされている。
その金色を強調するように、腰に金色の豪奢なベルトが巻かれていた。
全く見たこともないようなドレスなのに、そのドレスをあまりに至極自然に着こなしているセシルの面持ちに、様相に、そして、立ち姿に、野暮ったさを全く感じさせない。
むしろ、洗練された静かな佇まいと美しさが、ほんのりと見え隠れしているような雰囲気を醸し出していたのだ。
そして、そのドレスを更に強調させるような、儚げで麗しく美しい容貌。
ギルバートが、セシルに(メロメロに) 夢中になっている気持ちがよく分かる。
付き人や侍女がいないだけに、王妃であるアデラ自らが紅茶のポットを取り上げ、優雅に、紅茶をカップに注いでいく。
その一つが、セシルの前の方に押し出された。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
そして、こじんまりとしたテーブルの上には、王宮のシェフが、腕によりをかけて作ってくれたであろうデザートの数々が並んでいる。
とてもではないが、二人で食べきれるほどの量ではない……。
大抵、貴族の令嬢などは、お茶会でも、ほとんどデザートに手をつけにないことが多い(見栄もあるし、コルセットがきつ過ぎるのもあるし、ダイエットの為でもあるし)。
それで、余ったデザートなどは、使用人の(ラッキーな) お菓子と変わる。
丹精込めて作られた料理やデザートが無駄にされないのなら、セシルも問題はない。
これだけたくさん並べられた、素晴らしいデザートの数々。
王妃とセシルが、一切、手をつけなくても、きっと、王宮の使用人で、ちゃんと食べてもらえるだろう。
「今日は、突然のお茶会にお呼びしてしまって、ごめんなさいね」
「いえ。このようなご厚情を賜り、とても光栄に存じます」
王妃が紅茶に口をつけたので、セシルも一口だけ紅茶をすする。
その様子までも、(なぜか) 王妃アデラは興味深そうにセシルを眺めている。
やっと、殿方に邪魔されず、王妃アデラとセシルは二人きりで会う。
うふふふふ。
一番最初の出会いは衝撃で、あの時に、セシルはあまりに奇天烈なドレスを着ていた為、アデラも――コメントなし……。
自ら諍いなど持ち込まないよう、慎ましやかな王妃の立場を保っているので、あまりに見慣れぬ、奇妙で奇天烈なドレスをご令嬢が着ていようが、その点について、一切、コメントをしないのだ。
そして、二度目の出会いも、衝撃だった。今回は、前回とはまるっきり違う意味合いで。
セシルは、また王宮でも、王都でも、見慣れないデザインのドレスを着ていた。
でも、見慣れないからと言って、野暮ったいとか、奇天烈でとか、みすぼれたなんて印象が、一切、上がらないほどの――目を引くデザインのドレスを着ていた。
そして、記憶にあるセシルは焦げ茶の髪の毛をしていて、アルデーラに挨拶をしている間も、長い前髪が垂れて、あまり、壇上からでも、セシルの顔や表情が見て取れなかったのを覚えている。
なのに、ギルバートにエスコートされて、大広間の会場をゆっくりと進んでくるセシルは、銀髪だったのだ。
サラサラと癖のない真っ直ぐな銀髪が肩を流れ、セシルがゆっくりと進んでくる度に、優しくドレスの裾で揺れていた。
最初の時の印象とは全く違い、最初の時の外見や容姿だって全く違い、醸し出す雰囲気だって、最初の時に見た記憶から全くかけ離れてしまっていたセシルを前に、アルデーラ同様――いや、それ以上に驚いていたのは、アデラの方だ。
そして、長い前髪に隠れて見えなかったセシルの容貌は、息をのむほど儚げな美しい女性だったのだ。
それなのに、その容姿に相反する、深い藍の瞳。意志の強さを映した、強い眼差し。
きれいな令嬢や、嫋やかな女性は、何度も見てきている。
容姿だけでなく、着ているドレスや、身に着けているアクセサリー、仕草からでも、“美しさ”は醸し出さるものだろうと、アデラは考えている方だ。
だが、セシルが挨拶にやって来て、その姿を間近で見つめていたアデラには、素直な驚きで、言葉を失ってしまっていた。
容姿も、容貌も、醸し出す雰囲気さえも、その全てが全て、目を奪われる程の“美しい”が存在していて、力強い強さを秘めた藍の瞳に惹き付けられて、セシルの動き一つ一つに目が行ってしまって、その存在感が圧倒的だったのだ。
なのに、ふとした仕草や表情などが、ほんのりとした色気を醸し出し、目が離せないでいる先で、セシルの女性らしい体の稜線が艶めかしくて、目が奪われたままになってしまう。
ほぅ……と、知らず息を吐き出してしまっていたのは、セシルが挨拶を終えて、その場を立ち去って行ってからだ。
三度目の出会いはすぐにもやって来て、間近でセシルと接することができたが、他にも全員揃っていて、子供達もはしゃいでいて、大した情報が得られる集まりではなかった。
それで、王宮に滞在している間、ずっとセシルを独り占めしているギルバートに、無理矢理、頼み込んで、今日のお茶会にセシルを招待することができたのだ。
ギルバートはにこやかに頼みごとをしてくるアデラに、少々、困った顔をしていたが、
「将来の為にも、必要ですわよ」
などと、王妃であり、義姉であるアデラから窘められる形で、仕方なく承諾したのだった。
四度目の出会いは、やっと、アデラとセシルの二人きりである。
そして、今日もまた、セシルは見慣れないデザインのドレスを着ていた。なのに、セシルが着ると、あまり違和感が感じられないのが、不思議である。
今日も、コルセットをしていない。
今の流行で言えば、手で掴めるほどのものすごい細い腰を、(更に) 強調させた女性のドレスが“美の基本”と認識されている。
そんな中、夜会のドレスも、朝食会でのドレスも、そして、お茶会でのデイドレスも、セシルはコルセットなどしていなかったように見えた。
流れるような形がきれいで、歩く度に、ドレスの裾がゆらゆらと揺れて流れていたり、肩から流れていた長い布がひらひらと踊っていたりと、ウェストに注目などいかないほど、珍しく、それなのに――目が離せない形のドレスを着ていた。
ドレスのトップはⅤネックに見えるカシュクールで、片方の巻き部分が柔らかなクリーム色で、合わせの反対部分が、セシルと同じ深い藍の色をした二色混合だ。
アデラだって、こんな風に組み合わせ、色を混ぜたドレスなど見たことがない。
そして、緩やかに裾が伸びたAラインのドレープがかかったスカート部分が流れ、サイドに割れている部分から、中にはいているもう一枚の(?)スカートが深い藍色だった。
クリーム系の布地には、薄っすらとした白地の刺繍がほどこされ、藍色の布地の裾には、金色の繊細な刺繍がほどこされている。
その金色を強調するように、腰に金色の豪奢なベルトが巻かれていた。
全く見たこともないようなドレスなのに、そのドレスをあまりに至極自然に着こなしているセシルの面持ちに、様相に、そして、立ち姿に、野暮ったさを全く感じさせない。
むしろ、洗練された静かな佇まいと美しさが、ほんのりと見え隠れしているような雰囲気を醸し出していたのだ。
そして、そのドレスを更に強調させるような、儚げで麗しく美しい容貌。
ギルバートが、セシルに(メロメロに) 夢中になっている気持ちがよく分かる。
付き人や侍女がいないだけに、王妃であるアデラ自らが紅茶のポットを取り上げ、優雅に、紅茶をカップに注いでいく。
その一つが、セシルの前の方に押し出された。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
そして、こじんまりとしたテーブルの上には、王宮のシェフが、腕によりをかけて作ってくれたであろうデザートの数々が並んでいる。
とてもではないが、二人で食べきれるほどの量ではない……。
大抵、貴族の令嬢などは、お茶会でも、ほとんどデザートに手をつけにないことが多い(見栄もあるし、コルセットがきつ過ぎるのもあるし、ダイエットの為でもあるし)。
それで、余ったデザートなどは、使用人の(ラッキーな) お菓子と変わる。
丹精込めて作られた料理やデザートが無駄にされないのなら、セシルも問題はない。
これだけたくさん並べられた、素晴らしいデザートの数々。
王妃とセシルが、一切、手をつけなくても、きっと、王宮の使用人で、ちゃんと食べてもらえるだろう。
「今日は、突然のお茶会にお呼びしてしまって、ごめんなさいね」
「いえ。このようなご厚情を賜り、とても光栄に存じます」
王妃が紅茶に口をつけたので、セシルも一口だけ紅茶をすする。