奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *
「ゲリラ戦、ユウゲキ戦という戦法をご存知ですか?」
「ゲリラ、戦? ユウゲキ、戦? いや、知らんな」
「そうですよね……」
午前中、セシルの騎士団の見学を終え、ランチタイムで客室に戻ったセシルと分かれ、ギルバートは(ものすごく) 仕方なく、午後の書類整理の為に騎士団の方に戻って来ていた。
その前に、団長であるヘインズの執務室に立ち寄ってみたのだ。
「私やクリストフだって耳にしたことのない戦法ですから、たぶん、ヘインズ団長もご存知はないだろうな、と」
「それは、一体、どんな戦法なのだ?」
「興味深い戦法ですよ。定例の攻撃方法ではなく、常に臨機応変に状況に対応して攻撃方法を変え、戦術や戦法を変え、敵を揺さぶり降ろしていく戦法だそうです。奇襲などが代表的なものでしょうね」
「奇襲……」
それで、その言葉にあまり良い印象を持っていないせいか、ヘインズも顔をしかめてしまっている。
その気持ちも、ギルバートは分からなくもない。
騎士であるのなら、正々堂々と戦え――という騎士道精神が刷り込まれているので、奇襲のような狡賢い戦法はあまり良しとしていない気持ちもある。
だが、そんな風に、自分達の理屈だけで勝手に戦法を決めてしまっていては、その状況や場面が外れてしまった場合、騎士団は戦えもせず、総崩れになってしまう可能性もある。
セシルと会話をしていて、その重要性があまりに浮きあがってしまった感じだった。
「我々は騎士としての誇りがあります。騎士になることは容易なことではありませんから。ですが、騎士の戦いにこだわってばかりいては、その状況が当てはまらない場合、戦うこともできず、護ることもできず、本末転倒です。騎士としての真意が問われてしまう」
「まあ、ギルバートの言っていることは分からないでもないがな――」
それでも、あまり簡単に賛成しかねいない様子でもある。
「先程、ご令嬢と話し合って、合同訓練ができないかどうかお願いしてみました」
「合同訓練? 他国の騎士と?」
なにをふざけたことを、と驚き以上に呆れが混ざり、ヘインズの顔もしかめられたままだ。
「きっと、かなり有益のある訓練になるものだと思います」
「冗談だろ」
「いえ、冗談ではありません。ご令嬢の元には、あの“精鋭部隊”が揃っている」
ヘインズだって、第一騎士団団長であるハーキンから、その話は聞いている。
“精鋭部隊”などと、大国であるアトレシア大王国でまで恐れられている騎士達だ。
子供の“精鋭部隊”だ。
冗談もほどほどにしろと笑い飛ばしたいのは山々なのだが、笑い飛ばせもしない事実で、その話を聞いている間、顔が引きつったままだった。
「私が一緒に行動していた時に見た攻撃方法でも――」
いや、かなりハチャメチャで、常軌を逸したものばかりだったが……。
おまけに、手加減無用、などと許可されたものだから、あの子供達と言ったら、報復する手を緩めないこと。過激なこと。苛烈を極めることこの上ない……。
「あれが……ゲリラ戦の一つというのなら、あれは、正直に言いましても、末恐ろしい戦い方でしょう。王国騎士団では、絶対に、あのような戦い方は上がってこないでしょうね」
それは、ある意味、いい意味でも悪い意味でも両方取れる意味合いだ。
あの子供達のように――苛烈を極める“悪巧み”をすれとは言わないが、それでも、どんな時でも、瞬時に攻撃方法を変え、自分達の力を最大限に生かせるような能力は、そうそう簡単に積み上がるものではないと、ギルバートも考えている。
「お前の言いたいことは分かるが……」
それでも、うーむと、気難しい顔をして、あまり、ヘインズ本人自身も納得していなさそうな雰囲気だ。
「たぶん、私の推測が間違っていなければ、ゲリラ戦などで対抗して――王国騎士団の騎士は、勝つことはできないでしょう」
「冗談を」
子供相手に、だ。
「いえ。ですから、その懸念があり、合同訓練をお願いしてみたのです」
「だが、他国の者に騎士団に近づけさせるなど危険だ」
「通常ならそうでしょうが、ノーウッド王国はアトレシア大王国の敵対国ではありません。次の十年を軽く見ても、ノーウッド王国が戦を仕掛けて来ることもないでしょうし、アトレシア大王国が戦を仕掛けることもないでしょう」
その前に、アトレシア大王国内では、“長老派”をぶっ潰す最重要事項があるのだ。
他国に戦など仕掛けて、足元をグラつかせるわけにはいかない。
「確かにな……」
「団長は、あの“精鋭部隊”の子供達がどのような戦い方をするのか、興味はないのですか?」
うーむ……と唸ったまま、ヘインズも何も言わない。
個人的には――興味がある。
ブレッカの戦で敵を叩き潰し、王国でも、悪徳貴族を叩き潰し、それも、あまりに素早い動きと攻撃で。
その統率を取っていたセシル自身だって、信じられない令嬢であるし、子供を付き従えている状態だって異常であるし、その子供が信じられない戦法を用いて戦うのだって嘘のような話に思えてならないほどだ。
だから、個人的には、ヘインズだって(認めたくはないが)、彼らに興味はある。
「陛下に許可を取ってみます。もし、許可が下りた場合、団長も聞き入れてくれますか?」
それは、国王陛下の命なら、ヘインズだって文句は言えない。
「まあ、そうだな」
「では、後程、お聞きしてみます」
今の所、団長であるヘインズはあまり乗り気ではなさそうだが、もし、国王陛下であるアルデーラがそれを問題視せず、合同訓練に興味を見せるのなら、ギルバート達も、積極的に合同訓練を奨励すべきだ。
「ところで、伯爵令嬢の護衛はどうなのだ?」
「順調です」
そして、たった一言に尽きる。
その返答を期待していたではないことを百も承知で、よくも、抜け抜けと、そんな答えだけを返してくるギルバートだ。
少々、ギルバートを睨め付けてもいないではないヘインズの前で、ギルバートの表情も態度も全く変わらない。
なぜ、この場で、すでに“鉄仮面”が戻ってきているのだろうか。
「他には?」
「何もありませんが」
そして、全く意味のない報告で終わっている。
「ご令嬢は、なにも、王国内で問題を起こそうなどとは、お考えになられていらっしゃいませんよ」
「それは、分かっている」
なにも、ヘインズだって、あのセシルが率先して問題を起こす、問題を持ち込んでくるなどとは、考えていない。
前回だって、むしろ、王国側の問題のせいで巻き込まれただけだ。
だから、特別、警戒を見せているわけではない(断じて言うが!)。
「でしたら、問題はありませんね」
そして、勝手にその場の会話を締めくくってしまったギルバートに、嫌そうに睨め付けているヘインズだったが、ギルバートは知らん顔。
「ゲリラ戦、ユウゲキ戦という戦法をご存知ですか?」
「ゲリラ、戦? ユウゲキ、戦? いや、知らんな」
「そうですよね……」
午前中、セシルの騎士団の見学を終え、ランチタイムで客室に戻ったセシルと分かれ、ギルバートは(ものすごく) 仕方なく、午後の書類整理の為に騎士団の方に戻って来ていた。
その前に、団長であるヘインズの執務室に立ち寄ってみたのだ。
「私やクリストフだって耳にしたことのない戦法ですから、たぶん、ヘインズ団長もご存知はないだろうな、と」
「それは、一体、どんな戦法なのだ?」
「興味深い戦法ですよ。定例の攻撃方法ではなく、常に臨機応変に状況に対応して攻撃方法を変え、戦術や戦法を変え、敵を揺さぶり降ろしていく戦法だそうです。奇襲などが代表的なものでしょうね」
「奇襲……」
それで、その言葉にあまり良い印象を持っていないせいか、ヘインズも顔をしかめてしまっている。
その気持ちも、ギルバートは分からなくもない。
騎士であるのなら、正々堂々と戦え――という騎士道精神が刷り込まれているので、奇襲のような狡賢い戦法はあまり良しとしていない気持ちもある。
だが、そんな風に、自分達の理屈だけで勝手に戦法を決めてしまっていては、その状況や場面が外れてしまった場合、騎士団は戦えもせず、総崩れになってしまう可能性もある。
セシルと会話をしていて、その重要性があまりに浮きあがってしまった感じだった。
「我々は騎士としての誇りがあります。騎士になることは容易なことではありませんから。ですが、騎士の戦いにこだわってばかりいては、その状況が当てはまらない場合、戦うこともできず、護ることもできず、本末転倒です。騎士としての真意が問われてしまう」
「まあ、ギルバートの言っていることは分からないでもないがな――」
それでも、あまり簡単に賛成しかねいない様子でもある。
「先程、ご令嬢と話し合って、合同訓練ができないかどうかお願いしてみました」
「合同訓練? 他国の騎士と?」
なにをふざけたことを、と驚き以上に呆れが混ざり、ヘインズの顔もしかめられたままだ。
「きっと、かなり有益のある訓練になるものだと思います」
「冗談だろ」
「いえ、冗談ではありません。ご令嬢の元には、あの“精鋭部隊”が揃っている」
ヘインズだって、第一騎士団団長であるハーキンから、その話は聞いている。
“精鋭部隊”などと、大国であるアトレシア大王国でまで恐れられている騎士達だ。
子供の“精鋭部隊”だ。
冗談もほどほどにしろと笑い飛ばしたいのは山々なのだが、笑い飛ばせもしない事実で、その話を聞いている間、顔が引きつったままだった。
「私が一緒に行動していた時に見た攻撃方法でも――」
いや、かなりハチャメチャで、常軌を逸したものばかりだったが……。
おまけに、手加減無用、などと許可されたものだから、あの子供達と言ったら、報復する手を緩めないこと。過激なこと。苛烈を極めることこの上ない……。
「あれが……ゲリラ戦の一つというのなら、あれは、正直に言いましても、末恐ろしい戦い方でしょう。王国騎士団では、絶対に、あのような戦い方は上がってこないでしょうね」
それは、ある意味、いい意味でも悪い意味でも両方取れる意味合いだ。
あの子供達のように――苛烈を極める“悪巧み”をすれとは言わないが、それでも、どんな時でも、瞬時に攻撃方法を変え、自分達の力を最大限に生かせるような能力は、そうそう簡単に積み上がるものではないと、ギルバートも考えている。
「お前の言いたいことは分かるが……」
それでも、うーむと、気難しい顔をして、あまり、ヘインズ本人自身も納得していなさそうな雰囲気だ。
「たぶん、私の推測が間違っていなければ、ゲリラ戦などで対抗して――王国騎士団の騎士は、勝つことはできないでしょう」
「冗談を」
子供相手に、だ。
「いえ。ですから、その懸念があり、合同訓練をお願いしてみたのです」
「だが、他国の者に騎士団に近づけさせるなど危険だ」
「通常ならそうでしょうが、ノーウッド王国はアトレシア大王国の敵対国ではありません。次の十年を軽く見ても、ノーウッド王国が戦を仕掛けて来ることもないでしょうし、アトレシア大王国が戦を仕掛けることもないでしょう」
その前に、アトレシア大王国内では、“長老派”をぶっ潰す最重要事項があるのだ。
他国に戦など仕掛けて、足元をグラつかせるわけにはいかない。
「確かにな……」
「団長は、あの“精鋭部隊”の子供達がどのような戦い方をするのか、興味はないのですか?」
うーむ……と唸ったまま、ヘインズも何も言わない。
個人的には――興味がある。
ブレッカの戦で敵を叩き潰し、王国でも、悪徳貴族を叩き潰し、それも、あまりに素早い動きと攻撃で。
その統率を取っていたセシル自身だって、信じられない令嬢であるし、子供を付き従えている状態だって異常であるし、その子供が信じられない戦法を用いて戦うのだって嘘のような話に思えてならないほどだ。
だから、個人的には、ヘインズだって(認めたくはないが)、彼らに興味はある。
「陛下に許可を取ってみます。もし、許可が下りた場合、団長も聞き入れてくれますか?」
それは、国王陛下の命なら、ヘインズだって文句は言えない。
「まあ、そうだな」
「では、後程、お聞きしてみます」
今の所、団長であるヘインズはあまり乗り気ではなさそうだが、もし、国王陛下であるアルデーラがそれを問題視せず、合同訓練に興味を見せるのなら、ギルバート達も、積極的に合同訓練を奨励すべきだ。
「ところで、伯爵令嬢の護衛はどうなのだ?」
「順調です」
そして、たった一言に尽きる。
その返答を期待していたではないことを百も承知で、よくも、抜け抜けと、そんな答えだけを返してくるギルバートだ。
少々、ギルバートを睨め付けてもいないではないヘインズの前で、ギルバートの表情も態度も全く変わらない。
なぜ、この場で、すでに“鉄仮面”が戻ってきているのだろうか。
「他には?」
「何もありませんが」
そして、全く意味のない報告で終わっている。
「ご令嬢は、なにも、王国内で問題を起こそうなどとは、お考えになられていらっしゃいませんよ」
「それは、分かっている」
なにも、ヘインズだって、あのセシルが率先して問題を起こす、問題を持ち込んでくるなどとは、考えていない。
前回だって、むしろ、王国側の問題のせいで巻き込まれただけだ。
だから、特別、警戒を見せているわけではない(断じて言うが!)。
「でしたら、問題はありませんね」
そして、勝手にその場の会話を締めくくってしまったギルバートに、嫌そうに睨め付けているヘインズだったが、ギルバートは知らん顔。