奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
* * *
ノーウッド王国を抜けて、アトレシア大王国に入国するのは、左程、問題がない。
ただ、領境、国境を抜けてしまえば、土地的に、すでにアトレシア大王国に入っていることになる。
セシルが統治するコトレアから、最初のアトレシア大王国に入るには、ノーウッド王国から南東に位置する、アトレシア大王国のコロッカルという領地に入らなければならない。
その領境での検問は、全く問題もなく通されていた。
セシルは、今や準伯爵の爵位を授かっている一貴族であるし、元は、ヘルバート伯爵家の一員である。
今回も、ヘルバート伯爵家としての通行書を作っていたので、荷物の検査も簡単なもので、全く問題なく検問は通行できた。
と言っても、セシル達が持参した荷物など、山のような木材ばかりで、次の荷車には、保存食や水樽と言った、あまりに無害なものばかりだ。
全員が帯刀して武装していようが、ギルドの証明書があり、“商隊の護衛”ということで、そちらも全く問題はなかった。
今回は、コトレア領で使用している大きな荷車となる荷馬車が、二台。ほとんど木材ばかりが積み上げられた荷車と、食糧などの雑貨が積み込まれた荷車だ。
そして荷車の荷馬車を引いている御者が、まだ大人にも見えない、成長途中の子供達? ――にも、見えなくはない。
セシル及び、セシルの護衛役であるイシュトールとユーリカは騎馬で、リアーガも自分の馬に乗り、アトレシア大王国のコロッカル領にやってきた。
荷馬車を引いている子供達が、二人一組となって荷馬車に乗車している。そして、もう一人の子供は、騎馬だった。
全員、コトレア領の領地の騎士が身に着ける黒いマントを身に着け、頭にはケープハットを被っている。それで、顔以外は、全身がスッポリとマントやハットの下に隠されてしまい、真っ黒な塊――だけがある。
リアーガに案内され、コロッカル領に入ってすぐの宿場町のような場所で、セシル達は馬を下りていた。
さすがに街中まで荷馬車を連れてくると悪目立ちしてしまう為、ユーリカを子供達と一緒に残し、子供達は、領境の領壁側の方に待機することとなっている。
「馬をおいていっても大丈夫なのですか?」
「ああ、ここらは問題ない。そんなに長居するんじゃないから、馬場に縛り付けておけば、問題ないぜ」
「そうですか」
イシュトールと共に、セシルは馬の手綱を木枠にくくりつけていく。
「こっちだ」
そのままリアーガについて、宿屋のような建物の中に入っていった。
入り口はカウンターがあるが、反対側は小さな食事処となっていた。ポチポチと客がいて、軽食やドリンクを飲んでいるような雰囲気だ。
セシル達が店に入ってきて、数人は入り口の方に顔を向けたが、すぐに興味なく、自分の食事や飲み物に戻って行く。
一番奥で座っていた一人の男が、リアーガを見つけ、手を上げた。
リアーガを先頭に、セシルとイシュトールが奥まで足を進めて行く。
「時間通りには、来れたんだな」
「まあな。長居は無用だろうさ」
気軽に話しかけてきたリアーガに、テーブルの前で腰掛けていた年配の男も、気軽に会釈する。
だが、リアーガのすぐ後ろにいるセシルの姿を認めて、おっ! ――と、瞳が微かに上がった。
「お前さんも来たのか?」
「まあ」
何とも言えない表情を見せた男だったが、自分の隣の丸椅子を、一応、セシルに勧めてきた。
「まあ、どうぞ」
「どうも」
それで、セシルは勧められた丸椅子に、簡単に腰を下ろした。
「イシュトールさんよ、そこの椅子使っていいぜ」
リアーガは隣のテーブルから椅子を拝借してくるようで、それを引っ張って、テーブルの角に、勝手に陣取ってしまった。
イシュトールは、セシルのすぐ隣に腰を下ろす。
セシルの向かい側には、もう一人の男が座っていて、セシルがやって来たことで、じぃっと、不躾にも見えないその視線で、セシルを凝視している。
「まあ、なんだ? 一応、お互い、紹介でもするか。こいつは、以前に話したリエフだ。会うのは、初めてだろ?」
「そうですね」
「それで、こちらは、ヘルバート伯爵サマだ」
「準伯爵です」
そして、わざわざ、律儀に、その部分を訂正するセシルだ。
男は口をへの字に曲げてみせ、
「準伯爵サマだ」
「はあ……、それは、どうも」
リエフと呼ばれた男は、一応、(自分では丁寧と思っている) 頭を下げて、挨拶をした。
「初めてお目にかかります」
「はあ……、まあ、そうだけど」
セシルの隣に座っている男は、以前から雇っている傭兵のジャールだ。かなり年配で、傭兵の経験も長く、まあ、ベテランに近い。
近年、ジャールの紹介で、たまに一緒に仕事をするようになったという男が、リエフだ。リエフはジャールよりもかなり年下だったが、リアーガよりは年上で、働き盛りの年代ということになるのだろうか。
ジャールは錆色の髪の毛をし、セイブル(sable) 色の瞳を持つ。日に焼けた肌が褐色に近く、目尻にも皺が少し目立ち始めてきている容姿だ。
対するリエフは、バタースコッチ(黄褐色) に近い髪に、薄緑の瞳を持つ、まだ若い男だった。
この世界に飛ばされて――転生させられて、セシルが初めて気づいたことは、周囲にいる人間は、大抵、元にいた世界と同じ髪色、肌色、瞳色を持っていた、ということだった。
その事実を知って、判って、かなり安心したものだ。
まさか、漫画や小説で良く出てくる、とんでもない色合いの髪の毛やら、瞳の色だったら、さすがに――それはファンタジーし過ぎていて、セシルも、とてもではないが、この世界で順応できていたか判らない。
例えば、どピンクの可愛らしいカールのかかった髪の毛。真紫の美しい長髪が垂れて――なんて? それから、金色の瞳が輝き――とか、真っ赤な深紅の瞳は情熱を表し、云々……。
ダメです……。
ペケ、ペケ、ペケ!
セシルは(かなり) 現実主義なのです。
たとえ、漫画も大好きで、小説も大好きで、ファンタジーだって読んでいた歴史があろうと、自分が経験している世界で、自分の視界の目の真ん前で、どピンクの髪の毛の少女と出くわしてしまったのなら、差別はしなくても、毎回、頭の中で、
「まぁぁ、髪の毛が、どピンクですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
と気にかかってしまうに違いない。
慣れは怖いものだけど、それでも、慣れるまでに、きっと、毎回、気になってしまうことだろう。
それで、この世界の人種が、前世(なのか現世) とあまり変わらない事実を発見して、ものすごーい安堵していたのを覚えている。
お話が逸れてしまいましたが――ジャールを通して、お貴族サマから仕事を受けていると聞かされ、それで一緒に仕事をする回数が増えたリエフは、この頃では、リアーガともよく一緒に行動することが多い。
その雇い主がやってきて、それも、貴族のオジョーサマだと判って、リエフの方も驚きが隠せない。
目の前に座っているセシルは、真っ黒なマントを身に着け、身体がスッポリと隠されてしまっている。フードがついてるようだが、今はフードをしていなく、濃い焦げ茶色の髪の毛は、フードの奥で、マントの下に隠れている。
それで、前髪が長く、瞳を覗くこともできない。ただ、鼻や頬の辺りに、そばかすようなものは見えた。
ノーウッド王国を抜けて、アトレシア大王国に入国するのは、左程、問題がない。
ただ、領境、国境を抜けてしまえば、土地的に、すでにアトレシア大王国に入っていることになる。
セシルが統治するコトレアから、最初のアトレシア大王国に入るには、ノーウッド王国から南東に位置する、アトレシア大王国のコロッカルという領地に入らなければならない。
その領境での検問は、全く問題もなく通されていた。
セシルは、今や準伯爵の爵位を授かっている一貴族であるし、元は、ヘルバート伯爵家の一員である。
今回も、ヘルバート伯爵家としての通行書を作っていたので、荷物の検査も簡単なもので、全く問題なく検問は通行できた。
と言っても、セシル達が持参した荷物など、山のような木材ばかりで、次の荷車には、保存食や水樽と言った、あまりに無害なものばかりだ。
全員が帯刀して武装していようが、ギルドの証明書があり、“商隊の護衛”ということで、そちらも全く問題はなかった。
今回は、コトレア領で使用している大きな荷車となる荷馬車が、二台。ほとんど木材ばかりが積み上げられた荷車と、食糧などの雑貨が積み込まれた荷車だ。
そして荷車の荷馬車を引いている御者が、まだ大人にも見えない、成長途中の子供達? ――にも、見えなくはない。
セシル及び、セシルの護衛役であるイシュトールとユーリカは騎馬で、リアーガも自分の馬に乗り、アトレシア大王国のコロッカル領にやってきた。
荷馬車を引いている子供達が、二人一組となって荷馬車に乗車している。そして、もう一人の子供は、騎馬だった。
全員、コトレア領の領地の騎士が身に着ける黒いマントを身に着け、頭にはケープハットを被っている。それで、顔以外は、全身がスッポリとマントやハットの下に隠されてしまい、真っ黒な塊――だけがある。
リアーガに案内され、コロッカル領に入ってすぐの宿場町のような場所で、セシル達は馬を下りていた。
さすがに街中まで荷馬車を連れてくると悪目立ちしてしまう為、ユーリカを子供達と一緒に残し、子供達は、領境の領壁側の方に待機することとなっている。
「馬をおいていっても大丈夫なのですか?」
「ああ、ここらは問題ない。そんなに長居するんじゃないから、馬場に縛り付けておけば、問題ないぜ」
「そうですか」
イシュトールと共に、セシルは馬の手綱を木枠にくくりつけていく。
「こっちだ」
そのままリアーガについて、宿屋のような建物の中に入っていった。
入り口はカウンターがあるが、反対側は小さな食事処となっていた。ポチポチと客がいて、軽食やドリンクを飲んでいるような雰囲気だ。
セシル達が店に入ってきて、数人は入り口の方に顔を向けたが、すぐに興味なく、自分の食事や飲み物に戻って行く。
一番奥で座っていた一人の男が、リアーガを見つけ、手を上げた。
リアーガを先頭に、セシルとイシュトールが奥まで足を進めて行く。
「時間通りには、来れたんだな」
「まあな。長居は無用だろうさ」
気軽に話しかけてきたリアーガに、テーブルの前で腰掛けていた年配の男も、気軽に会釈する。
だが、リアーガのすぐ後ろにいるセシルの姿を認めて、おっ! ――と、瞳が微かに上がった。
「お前さんも来たのか?」
「まあ」
何とも言えない表情を見せた男だったが、自分の隣の丸椅子を、一応、セシルに勧めてきた。
「まあ、どうぞ」
「どうも」
それで、セシルは勧められた丸椅子に、簡単に腰を下ろした。
「イシュトールさんよ、そこの椅子使っていいぜ」
リアーガは隣のテーブルから椅子を拝借してくるようで、それを引っ張って、テーブルの角に、勝手に陣取ってしまった。
イシュトールは、セシルのすぐ隣に腰を下ろす。
セシルの向かい側には、もう一人の男が座っていて、セシルがやって来たことで、じぃっと、不躾にも見えないその視線で、セシルを凝視している。
「まあ、なんだ? 一応、お互い、紹介でもするか。こいつは、以前に話したリエフだ。会うのは、初めてだろ?」
「そうですね」
「それで、こちらは、ヘルバート伯爵サマだ」
「準伯爵です」
そして、わざわざ、律儀に、その部分を訂正するセシルだ。
男は口をへの字に曲げてみせ、
「準伯爵サマだ」
「はあ……、それは、どうも」
リエフと呼ばれた男は、一応、(自分では丁寧と思っている) 頭を下げて、挨拶をした。
「初めてお目にかかります」
「はあ……、まあ、そうだけど」
セシルの隣に座っている男は、以前から雇っている傭兵のジャールだ。かなり年配で、傭兵の経験も長く、まあ、ベテランに近い。
近年、ジャールの紹介で、たまに一緒に仕事をするようになったという男が、リエフだ。リエフはジャールよりもかなり年下だったが、リアーガよりは年上で、働き盛りの年代ということになるのだろうか。
ジャールは錆色の髪の毛をし、セイブル(sable) 色の瞳を持つ。日に焼けた肌が褐色に近く、目尻にも皺が少し目立ち始めてきている容姿だ。
対するリエフは、バタースコッチ(黄褐色) に近い髪に、薄緑の瞳を持つ、まだ若い男だった。
この世界に飛ばされて――転生させられて、セシルが初めて気づいたことは、周囲にいる人間は、大抵、元にいた世界と同じ髪色、肌色、瞳色を持っていた、ということだった。
その事実を知って、判って、かなり安心したものだ。
まさか、漫画や小説で良く出てくる、とんでもない色合いの髪の毛やら、瞳の色だったら、さすがに――それはファンタジーし過ぎていて、セシルも、とてもではないが、この世界で順応できていたか判らない。
例えば、どピンクの可愛らしいカールのかかった髪の毛。真紫の美しい長髪が垂れて――なんて? それから、金色の瞳が輝き――とか、真っ赤な深紅の瞳は情熱を表し、云々……。
ダメです……。
ペケ、ペケ、ペケ!
セシルは(かなり) 現実主義なのです。
たとえ、漫画も大好きで、小説も大好きで、ファンタジーだって読んでいた歴史があろうと、自分が経験している世界で、自分の視界の目の真ん前で、どピンクの髪の毛の少女と出くわしてしまったのなら、差別はしなくても、毎回、頭の中で、
「まぁぁ、髪の毛が、どピンクですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
と気にかかってしまうに違いない。
慣れは怖いものだけど、それでも、慣れるまでに、きっと、毎回、気になってしまうことだろう。
それで、この世界の人種が、前世(なのか現世) とあまり変わらない事実を発見して、ものすごーい安堵していたのを覚えている。
お話が逸れてしまいましたが――ジャールを通して、お貴族サマから仕事を受けていると聞かされ、それで一緒に仕事をする回数が増えたリエフは、この頃では、リアーガともよく一緒に行動することが多い。
その雇い主がやってきて、それも、貴族のオジョーサマだと判って、リエフの方も驚きが隠せない。
目の前に座っているセシルは、真っ黒なマントを身に着け、身体がスッポリと隠されてしまっている。フードがついてるようだが、今はフードをしていなく、濃い焦げ茶色の髪の毛は、フードの奥で、マントの下に隠れている。
それで、前髪が長く、瞳を覗くこともできない。ただ、鼻や頬の辺りに、そばかすようなものは見えた。