奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
いきなり、訓練された軍隊のような号令で、護衛の二人の騎士だけではなく、子供達だって、言われもしないのに、説明もないのに、ありとあらゆる物資を組み立て終わっていた。
口を開けたまま、ポカンとその光景に釘付けになっている二人の前で、30分もした頃だろうか、全員がまた、一列に並んでいた。
「対策本部設置完了」
「対策本部備品設置完了」
「就寝用テント設置完了」
「同じく、就寝用テント設置完了」
「かまど設置完了」
「ご苦労様」
そして、セシルも全く驚いた様子もなく、全員の前に歩いて行ってそこに立つ。
「今夜は携帯食があるので、夕食の用意の必要はありません。全員に携帯食の配布をお願いね。食事の後、ζ、θ、κは、引き続き、駐屯地の確認を。η、ιは、ここら一帯の警備の確認を。アトレシア大王国の王国軍からなにか因縁をつけられたり、問題が生じた場合は、即座に私に報告を。余計な問題に巻き込まれそうになったのなら、すぐに逃げてきなさい」
「わかりました」
「明日は、一応、六時起きとしましょう。朝食の準備は、あなた達にお願いするわ」
「はい、わかりました」
「では、取り掛かってください」
はい、と礼儀正しく返事が返ってきて、子供達が、また、素早くキビキビと動き出す。
セシルがジャール達の所に寄ってきて、
「テントは、二台用意してあります。一台目は、αを含めたあなた達三人で。もう一つは、子供達が。私と残りの護衛は、対策本部で寝起きをしますので」
「……あ、ああ、わかった……」
なんだか――あまりについていけない光景に、状況に気圧されて、ジャールも未だにパチパチと瞬きを繰り返しているだけだ。
「今の所、夜は見張りを立てる必要はないと思いますので、今夜は、普通に寝てもらっても構いません。明日は、六時起床として、行動を起こしますので」
「あ、ああ……、わかった……」
「なにか質問は?」
「いや――うん? いやいやいや。そんなあっさりして、質問は? ――じゃねーだろ?」
「質問が?」
「あるぜ。あり過ぎるぜ。一体、あの子供達はなんなんだ?」
「領地の騎士見習いです」
「騎士見習い?」
「ええ、そうです」
それだけの説明で、全部の謎を説明したとでも思っているのだろうか……?
益々、困惑を深めた様子で、ジャールが言葉に詰まる。
隣にいるリエフも、何か質問したいのだろうが、何を質問すべきなのか考えどころだ。
「見習い――で、あれ?」
「ええ、そうです。優秀な子達ですからね」
いやいや、そんな所で自慢している場合じゃないでしょう?
今日は、自分達の予想を遥に超えて、絶句している状況ばかりに出くわしてしまったのは、気のせいではない。
今までだって、傭兵の仕事をしていれば、危険もあり、非常事態もあり、珍妙な場面もでくわした。
もう、その程度で驚いたり、ショックを受けたりするような素人でもない。――ないが、なぜ、今日に限って、二人とも顎が外れるほどの驚きを目にして、おまけに、言葉を失い絶句してしまった――などという、あまりにも稀な状況に陥っているのか……。
それは、もちろん――お貴族サマの概念が完全に当てはまらないセシルのせいです!
チャンチャン。疑問もすっきり、あっさり解決して、もう問題なし? ――なんてことがあるかっ!
* * *
深夜、全員が寝静まった頃、いきなり――ものすごい騒音が鳴り響いた。
ガラガラガラっ――――!!
ガラガラガラっ――!
全員が一斉に飛び起きていた。
すぐにテントから飛び出してきたジャンとケルトが、騒音のする方に走っていく。
その後を追って、フィロとハンスが残しておいたかがり火を持ち、二人を追う。
「何事です?」
「罠に引っかかった奴がいるようです」
トムソーヤが、テントから出て来たセシルの元に、小走りに駆けて来た。
「どういうことだ、マスター?」
リアーガもすぐに目を覚ましたようで、テントから、ジャールとリエフも出て来ていた。
全員、眠りには入っていたが、どうやら、着ている洋服のまま眠りについたらしい。
さすが、傭兵だけあって、敵地で隙を見せないよう、洋服を着たまま寝ているだけだ。
「どうやら、賊が侵入したようですけれど」
「賊? 部族連合が?」
「いえ。そうではないでしょうね」
特別、驚いている様子もなく、セシルは、対策本部側に立てかけておいたかがり火を取り上げる。
「では、確認といきましょうか」
スタスタと、暗闇を進んで行くセシルの後を、後ろから、ゾロゾロと男達もついていく。
暗闇を心許ない灯りを頼りに進んで行くと、セシル達が陣取っていたすぐ数メートル先で、ジャンとケルトが――すでに抗戦態勢で構えていたのだ。
手に持っているボーガンをある一点に向け、絶対に狙いを外さないように、その焦点がしっかりと固定されていた。
セシルが近づいていくと、フィロとハンスの持っているかがり火に照らされて――そこに二人の男が、なにか足に絡みついた縄を、必死で取り外そうと試みている動きが目に飛び込んできた。
「なんだよ、お前ら」
ザっと、すでにリアーガが動き出していた。
それで、躊躇いもせずに足を振り上げ、一人の男に素早い足蹴りを食わした。
「――ぐわぁ……っ……!」
勢いよく吹っ飛ばされ、それでも足にまとわりついている縄で動けず、男が後ろの地面にひっくり返る。
「――ああぁ……っ! やめてくれっ……。どうか、攻撃しないでくれっ……!」
もう一人の男が隣を見て、一気に顔面蒼白と化す。
「――ああっ、やめてくれっ……!――悪気はなかったんだ。見逃してくれ……!」
「俺達に害を為そうとする奴は、王国軍だろうと、武力行使で叩き潰してもいい、っていう契約を知らないのか?」
ひいぃぃぃぃっ――と、その音のままに、男が悲鳴を上げた。
同時に息を吸い込み過ぎて、ゴホッゴホッ、とむせかえる。
「ここで何をしている?」
「……そ、それは……」
グイッと、リアーガが男の胸倉を掴んでいた。
「ここで何をしている? くだらない戯言なんか並べてみろ。木から真っ逆さまに吊るして、死ぬまで拷問するぞ」
ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ……!
さっき以上に長い悲鳴を上げ(実際に上げて)、いきなり、男が、ガバッと、地面にひれ伏すかのように土下座した。
「――どうかっ、許してください……っ……! 悪気はなかったんです…。どうか、許してください……! まだ、なにも盗んでいません……。盗む前に、見つかって――」
「何を盗む気だったんだ?」
「なんでもです……。なんでもいいんです、売れれば…」
「てめーら、王国軍の癖に、盗賊まがいの悪行を犯すなんてなあ?」
「いえ――そ、それは……」
「なぜ、俺達を狙う?」
「そ、それは……、今日、駐屯地に貴族がやって来たっていう話が広がって――。それで、貴族なら、高価なモンの一つや二つ持ってるはずだから……。それで、ちょっくら盗めば金になると思って……」
「ふざけんなよ」
ドスの利いた声音で叱り飛ばされて、ひいぃっ……! と、男が土下座したまま、地面から飛び上がっていた。
「俺達から盗みを働こうが、その程度、ブレッカの店なんかで売れるはずもねーだろーが。それとも、わざわざ、コロッカルまで出向くって言うのか?」
「い、いえ……。ここに、贔屓にしている男が来るんです。その男に売りつければ、高値で買い取ってくれるもんで――」
すでに、全員が侮蔑を含んだ眼差しで、男達を見下ろしていた。
口を開けたまま、ポカンとその光景に釘付けになっている二人の前で、30分もした頃だろうか、全員がまた、一列に並んでいた。
「対策本部設置完了」
「対策本部備品設置完了」
「就寝用テント設置完了」
「同じく、就寝用テント設置完了」
「かまど設置完了」
「ご苦労様」
そして、セシルも全く驚いた様子もなく、全員の前に歩いて行ってそこに立つ。
「今夜は携帯食があるので、夕食の用意の必要はありません。全員に携帯食の配布をお願いね。食事の後、ζ、θ、κは、引き続き、駐屯地の確認を。η、ιは、ここら一帯の警備の確認を。アトレシア大王国の王国軍からなにか因縁をつけられたり、問題が生じた場合は、即座に私に報告を。余計な問題に巻き込まれそうになったのなら、すぐに逃げてきなさい」
「わかりました」
「明日は、一応、六時起きとしましょう。朝食の準備は、あなた達にお願いするわ」
「はい、わかりました」
「では、取り掛かってください」
はい、と礼儀正しく返事が返ってきて、子供達が、また、素早くキビキビと動き出す。
セシルがジャール達の所に寄ってきて、
「テントは、二台用意してあります。一台目は、αを含めたあなた達三人で。もう一つは、子供達が。私と残りの護衛は、対策本部で寝起きをしますので」
「……あ、ああ、わかった……」
なんだか――あまりについていけない光景に、状況に気圧されて、ジャールも未だにパチパチと瞬きを繰り返しているだけだ。
「今の所、夜は見張りを立てる必要はないと思いますので、今夜は、普通に寝てもらっても構いません。明日は、六時起床として、行動を起こしますので」
「あ、ああ……、わかった……」
「なにか質問は?」
「いや――うん? いやいやいや。そんなあっさりして、質問は? ――じゃねーだろ?」
「質問が?」
「あるぜ。あり過ぎるぜ。一体、あの子供達はなんなんだ?」
「領地の騎士見習いです」
「騎士見習い?」
「ええ、そうです」
それだけの説明で、全部の謎を説明したとでも思っているのだろうか……?
益々、困惑を深めた様子で、ジャールが言葉に詰まる。
隣にいるリエフも、何か質問したいのだろうが、何を質問すべきなのか考えどころだ。
「見習い――で、あれ?」
「ええ、そうです。優秀な子達ですからね」
いやいや、そんな所で自慢している場合じゃないでしょう?
今日は、自分達の予想を遥に超えて、絶句している状況ばかりに出くわしてしまったのは、気のせいではない。
今までだって、傭兵の仕事をしていれば、危険もあり、非常事態もあり、珍妙な場面もでくわした。
もう、その程度で驚いたり、ショックを受けたりするような素人でもない。――ないが、なぜ、今日に限って、二人とも顎が外れるほどの驚きを目にして、おまけに、言葉を失い絶句してしまった――などという、あまりにも稀な状況に陥っているのか……。
それは、もちろん――お貴族サマの概念が完全に当てはまらないセシルのせいです!
チャンチャン。疑問もすっきり、あっさり解決して、もう問題なし? ――なんてことがあるかっ!
* * *
深夜、全員が寝静まった頃、いきなり――ものすごい騒音が鳴り響いた。
ガラガラガラっ――――!!
ガラガラガラっ――!
全員が一斉に飛び起きていた。
すぐにテントから飛び出してきたジャンとケルトが、騒音のする方に走っていく。
その後を追って、フィロとハンスが残しておいたかがり火を持ち、二人を追う。
「何事です?」
「罠に引っかかった奴がいるようです」
トムソーヤが、テントから出て来たセシルの元に、小走りに駆けて来た。
「どういうことだ、マスター?」
リアーガもすぐに目を覚ましたようで、テントから、ジャールとリエフも出て来ていた。
全員、眠りには入っていたが、どうやら、着ている洋服のまま眠りについたらしい。
さすが、傭兵だけあって、敵地で隙を見せないよう、洋服を着たまま寝ているだけだ。
「どうやら、賊が侵入したようですけれど」
「賊? 部族連合が?」
「いえ。そうではないでしょうね」
特別、驚いている様子もなく、セシルは、対策本部側に立てかけておいたかがり火を取り上げる。
「では、確認といきましょうか」
スタスタと、暗闇を進んで行くセシルの後を、後ろから、ゾロゾロと男達もついていく。
暗闇を心許ない灯りを頼りに進んで行くと、セシル達が陣取っていたすぐ数メートル先で、ジャンとケルトが――すでに抗戦態勢で構えていたのだ。
手に持っているボーガンをある一点に向け、絶対に狙いを外さないように、その焦点がしっかりと固定されていた。
セシルが近づいていくと、フィロとハンスの持っているかがり火に照らされて――そこに二人の男が、なにか足に絡みついた縄を、必死で取り外そうと試みている動きが目に飛び込んできた。
「なんだよ、お前ら」
ザっと、すでにリアーガが動き出していた。
それで、躊躇いもせずに足を振り上げ、一人の男に素早い足蹴りを食わした。
「――ぐわぁ……っ……!」
勢いよく吹っ飛ばされ、それでも足にまとわりついている縄で動けず、男が後ろの地面にひっくり返る。
「――ああぁ……っ! やめてくれっ……。どうか、攻撃しないでくれっ……!」
もう一人の男が隣を見て、一気に顔面蒼白と化す。
「――ああっ、やめてくれっ……!――悪気はなかったんだ。見逃してくれ……!」
「俺達に害を為そうとする奴は、王国軍だろうと、武力行使で叩き潰してもいい、っていう契約を知らないのか?」
ひいぃぃぃぃっ――と、その音のままに、男が悲鳴を上げた。
同時に息を吸い込み過ぎて、ゴホッゴホッ、とむせかえる。
「ここで何をしている?」
「……そ、それは……」
グイッと、リアーガが男の胸倉を掴んでいた。
「ここで何をしている? くだらない戯言なんか並べてみろ。木から真っ逆さまに吊るして、死ぬまで拷問するぞ」
ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ……!
さっき以上に長い悲鳴を上げ(実際に上げて)、いきなり、男が、ガバッと、地面にひれ伏すかのように土下座した。
「――どうかっ、許してください……っ……! 悪気はなかったんです…。どうか、許してください……! まだ、なにも盗んでいません……。盗む前に、見つかって――」
「何を盗む気だったんだ?」
「なんでもです……。なんでもいいんです、売れれば…」
「てめーら、王国軍の癖に、盗賊まがいの悪行を犯すなんてなあ?」
「いえ――そ、それは……」
「なぜ、俺達を狙う?」
「そ、それは……、今日、駐屯地に貴族がやって来たっていう話が広がって――。それで、貴族なら、高価なモンの一つや二つ持ってるはずだから……。それで、ちょっくら盗めば金になると思って……」
「ふざけんなよ」
ドスの利いた声音で叱り飛ばされて、ひいぃっ……! と、男が土下座したまま、地面から飛び上がっていた。
「俺達から盗みを働こうが、その程度、ブレッカの店なんかで売れるはずもねーだろーが。それとも、わざわざ、コロッカルまで出向くって言うのか?」
「い、いえ……。ここに、贔屓にしている男が来るんです。その男に売りつければ、高値で買い取ってくれるもんで――」
すでに、全員が侮蔑を含んだ眼差しで、男達を見下ろしていた。