奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「証人がいるんですから。――みなさん、この場で、あの女がわたくしにひどい仕打ちをしたことを、証明してくださいな」
それで、なにを思ったか、自分の一人舞台でもあるまいに、後ろにいた数人の女生徒達に向かって、(華麗に) 両腕を上げて、女生徒達を呼んだ。
(これ、ジャジャーン、っていう効果音が出てくる場面なのかしら?)
すでに呆れを通り越して、このふざけたくだらない茶番劇にゲンナリすべきなのか、それとも、あまりに低劣なので、その点を感心すべきなのか、セシルも考えものだ。
ここが舞台の上なら、スポットライトが一点に集中し、周囲が一気に暗くなって静まり返った場で、証人一人一人の(華麗なる) 証言が出される場面である。
そう言えば――昔(前世、いや現世だったのか)、アガサクリスティーのマウストラップという劇を見に行った時に、そんな場面があったような?
いやいや、ここは前世(または現世) にトリップしている場合ではなかった。
あまりに淡々と傍観しているそんなセシルの前で、一人の少女が前に出て来た。
「わたくしは、そちらのヘルバート伯爵令嬢と、友人としてお付き合いさせていただきましたの。ですが、こちらのリナエさまの仕打ちがあまりにひどく、もう……お付き合いは、続けておりませんが……」
「ほら? こう言っているではありませんか。トゥア様、アーシー様、お二人も、証言してくださいませ」
「わかりました。わたくしも、そちらの伯爵令嬢とご友人としてお付き合いしておりましたが――リナエ様に対する仕打ちがひどく、もう交際をやめましたの……。本当に、ひどく……。貴族の女性をド突くなんて、あまりにひど過ぎますわ。リナエ様は、このように小柄で、きっと、大変痛い思いをなさったことでしょうし……」
「ええ、そうですわ。殺す気だったなど、なんてひどい――! ここは、人殺しがいる場ではございませんわ」
三人の少女が加わり、セシル一人だけが糾弾され、その場の雰囲気が、一気に悪化した。
ヒソヒソと、セシルのいる前で陰口を囁き合い、周囲の生徒達が「人殺しが……」 と、繰り返し始めている。
だが、セシルの態度は全く変わらない。
「お三方共、この茶番劇の前に、しっかりと、口合わせをなさらなかったのですか?」
「えっ……?」
「なにを……」
「証人として呼ばれているのに、なにを証明すべきなのか、ちゃんと理解なさっているのですか?」
「なにを――」
それで、三人が一瞬困惑を浮かべ、顔を見合わせた。
「なにとは――あなたがリナエ様にひどい仕打ちをした、ということですわ」
「違います」
「えっ!?」
三人揃って、あまりに素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
「違いますわよ。お三方は、そちらの男爵令嬢の私物が盗まれ、その犯人を見たから、証人として証言するように頼まれたのです。証人であるのなら、誰が、いつ、何を盗んでいたのか、証言をしなければなりません。お三方共、その現場を見ていらっしゃったのなら、簡単なことでしょう?」
「それは……」
「証言する為に呼ばれているのに、お三方、証言内容が食い違っていますわよ。お気づきではないんですか?」
「えっ――?」
それで、三人が三人揃って、また顔を見合わせた。
その(あまりに無知な) 顔は、自分達の言い分に食い違いや間違いがあったことなど、全く理解していない態度がありありだ。
「お三方共、ひどい仕打ち、とだけは言えますけれど、それが実際にどんなものであるのか、それを説明できていませんわよ。そちらの男爵令嬢が説明したままを口に出し、実際問題、何が起きたのか、起きていないのかも把握なさっていないのが、その口調からでも明らかですものね」
セシルが指摘するまでもないのに、なんて、幼稚で稚拙……。
「そして、そちらの男爵令嬢がド突かれた、とおっしゃりましたが、お三方共、その場面を見ていないことを、公に証言なさいましたものね。ただ、他人の話を聞いて口合わせなどするから、話が食い違ってしまっているのですよ」
「そんな……」
「そんなことは……」
「間違ってなどいないわ。そんなひどいことを言って、罪を帳消しにしようとしないで!」
「うるさいですね。少し黙りなさい」
金切り声を上げた男爵令嬢を、ピシャリ、と口を挟む隙もないほどに冷たく、セシルが一喝していた。
「なっ――!」
「少し黙っていなさい。他人が説明している時には大人しく聞いていなさい、と躾されなかったのですか? 自分の番がくるまで、そこで大人しく聞いていなさい」
「なっ――!」
そんな無礼なことを言いつけてきたのはセシルが初めてで、怒りで爆発するよりも、むしろ、少女は唖然としてしまっていた。
「「ド突くなど――」 は、例えである場面を想像した言葉で、実際に見ていた場合は「ド突いた」と、過去の事例を挙げるものです」
そして、「男爵令嬢が痛い思いをなさった――」 など、事件の現場にも居合わせず、その事件が起きた場面も見ていない、正にその証言をしていることになる。
ド突いて階段から落ちたのであれば、大層な大怪我になっていたことだろう。
「それも知らず、ただ、想像で出した言動であるから、「痛い思いをなさった――」 などと言えるのです」
しまった……と、焦り出すなど、本気で、セシルが(こんな稚拙なことを) 指摘するまで、自分達で気付かなかったのだろうか。
はあ……、探偵物語の足にも及ばない、こんな稚拙な点を指摘されるなんて、あまりにバカげていると気づきもしないのだろうか……。
なんて、時間の無駄……。
それで、なにを思ったか、自分の一人舞台でもあるまいに、後ろにいた数人の女生徒達に向かって、(華麗に) 両腕を上げて、女生徒達を呼んだ。
(これ、ジャジャーン、っていう効果音が出てくる場面なのかしら?)
すでに呆れを通り越して、このふざけたくだらない茶番劇にゲンナリすべきなのか、それとも、あまりに低劣なので、その点を感心すべきなのか、セシルも考えものだ。
ここが舞台の上なら、スポットライトが一点に集中し、周囲が一気に暗くなって静まり返った場で、証人一人一人の(華麗なる) 証言が出される場面である。
そう言えば――昔(前世、いや現世だったのか)、アガサクリスティーのマウストラップという劇を見に行った時に、そんな場面があったような?
いやいや、ここは前世(または現世) にトリップしている場合ではなかった。
あまりに淡々と傍観しているそんなセシルの前で、一人の少女が前に出て来た。
「わたくしは、そちらのヘルバート伯爵令嬢と、友人としてお付き合いさせていただきましたの。ですが、こちらのリナエさまの仕打ちがあまりにひどく、もう……お付き合いは、続けておりませんが……」
「ほら? こう言っているではありませんか。トゥア様、アーシー様、お二人も、証言してくださいませ」
「わかりました。わたくしも、そちらの伯爵令嬢とご友人としてお付き合いしておりましたが――リナエ様に対する仕打ちがひどく、もう交際をやめましたの……。本当に、ひどく……。貴族の女性をド突くなんて、あまりにひど過ぎますわ。リナエ様は、このように小柄で、きっと、大変痛い思いをなさったことでしょうし……」
「ええ、そうですわ。殺す気だったなど、なんてひどい――! ここは、人殺しがいる場ではございませんわ」
三人の少女が加わり、セシル一人だけが糾弾され、その場の雰囲気が、一気に悪化した。
ヒソヒソと、セシルのいる前で陰口を囁き合い、周囲の生徒達が「人殺しが……」 と、繰り返し始めている。
だが、セシルの態度は全く変わらない。
「お三方共、この茶番劇の前に、しっかりと、口合わせをなさらなかったのですか?」
「えっ……?」
「なにを……」
「証人として呼ばれているのに、なにを証明すべきなのか、ちゃんと理解なさっているのですか?」
「なにを――」
それで、三人が一瞬困惑を浮かべ、顔を見合わせた。
「なにとは――あなたがリナエ様にひどい仕打ちをした、ということですわ」
「違います」
「えっ!?」
三人揃って、あまりに素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
「違いますわよ。お三方は、そちらの男爵令嬢の私物が盗まれ、その犯人を見たから、証人として証言するように頼まれたのです。証人であるのなら、誰が、いつ、何を盗んでいたのか、証言をしなければなりません。お三方共、その現場を見ていらっしゃったのなら、簡単なことでしょう?」
「それは……」
「証言する為に呼ばれているのに、お三方、証言内容が食い違っていますわよ。お気づきではないんですか?」
「えっ――?」
それで、三人が三人揃って、また顔を見合わせた。
その(あまりに無知な) 顔は、自分達の言い分に食い違いや間違いがあったことなど、全く理解していない態度がありありだ。
「お三方共、ひどい仕打ち、とだけは言えますけれど、それが実際にどんなものであるのか、それを説明できていませんわよ。そちらの男爵令嬢が説明したままを口に出し、実際問題、何が起きたのか、起きていないのかも把握なさっていないのが、その口調からでも明らかですものね」
セシルが指摘するまでもないのに、なんて、幼稚で稚拙……。
「そして、そちらの男爵令嬢がド突かれた、とおっしゃりましたが、お三方共、その場面を見ていないことを、公に証言なさいましたものね。ただ、他人の話を聞いて口合わせなどするから、話が食い違ってしまっているのですよ」
「そんな……」
「そんなことは……」
「間違ってなどいないわ。そんなひどいことを言って、罪を帳消しにしようとしないで!」
「うるさいですね。少し黙りなさい」
金切り声を上げた男爵令嬢を、ピシャリ、と口を挟む隙もないほどに冷たく、セシルが一喝していた。
「なっ――!」
「少し黙っていなさい。他人が説明している時には大人しく聞いていなさい、と躾されなかったのですか? 自分の番がくるまで、そこで大人しく聞いていなさい」
「なっ――!」
そんな無礼なことを言いつけてきたのはセシルが初めてで、怒りで爆発するよりも、むしろ、少女は唖然としてしまっていた。
「「ド突くなど――」 は、例えである場面を想像した言葉で、実際に見ていた場合は「ド突いた」と、過去の事例を挙げるものです」
そして、「男爵令嬢が痛い思いをなさった――」 など、事件の現場にも居合わせず、その事件が起きた場面も見ていない、正にその証言をしていることになる。
ド突いて階段から落ちたのであれば、大層な大怪我になっていたことだろう。
「それも知らず、ただ、想像で出した言動であるから、「痛い思いをなさった――」 などと言えるのです」
しまった……と、焦り出すなど、本気で、セシルが(こんな稚拙なことを) 指摘するまで、自分達で気付かなかったのだろうか。
はあ……、探偵物語の足にも及ばない、こんな稚拙な点を指摘されるなんて、あまりにバカげていると気づきもしないのだろうか……。
なんて、時間の無駄……。