奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「――そ、それ、は……。ですが……こんな得体も知れない下賤の輩に――」
「貴様、いつまで、王国の恥をさらけ出す気でいるのだ?」
「なにをっ――。我々が、罪を犯したなど、そんな証拠でも挙がっていると?」
「証拠は挙げられているだろう?」
「そんなものっ、でっち上げに過ぎません。王太子殿下ともあろうお方が、このような下賤の輩の言うことをお聞きになるなど――」
「口に気を付けろよ。さもなければ、この場で斬り落としているところだが」
怒気もなく、強く命令口調でもなかった。
だが、底冷えするような脅しある淡々とした声音が、本気を語っていた。
「……ひっ……、なにをっ……。王太子殿下と言えど、そのような横暴――」
「証拠が挙がっている、と言っているだろう? 貴様の隊から、証人まで上がってきている。それを、どう言い訳する?」
「証人? 一体、誰が、そんな……」
「貴様が見捨てた兵士達だ」
「見捨ててなどいませんが。今は――戦況が苦しいのです。兵士を無駄にはできません」
「そうだな。もう、貴様のくだらない言い訳は聞き飽きた。――この者を捕縛せよ。そして、この隊の指揮官及び、上級士官、その者達、全員の捕縛もだ」
「かしこまりました」
だが、中尉の目が飛び跳ねていた。
「そんな、横暴だっ――!」
「ダーマン中尉、王国軍の不正、違法行為、その他、有り余る罪を犯し、責務も果たさず、責任放棄の重罪を犯した貴様を逮捕する」
「なんだとっ! ――そんなの横暴だっ……!」
ガタッ――と、椅子が勢いよくひっくり返る。
「こんな所業、許されるわけがない……」
「取り押さえろ」
騎士団団長のハーキンが無情に言い捨てた。
「はい」
その場に控えていた十人程の騎士達が、一斉に、中尉を取り囲む。
「何をするっ……! 横暴だっ――! こんな言いがかりをつけられ――うがぁっ……!!」
うるさく抵抗をみせた中尉の脇腹を、素早い、鋭い肘付きが、一発入れられていた。
一瞬、痛みで呼吸を失った中尉が、その場で倒れ込む。
「恥を知れ。王国の恥さらしが」
肘当てを一発入れた騎士が、侮蔑も露わにそれを吐き捨て、地面にへばり込んだ中尉を腹這いにさせ、その背に自分の膝を押し付ける。
用意してきていた縄で、中尉の腕を縛り上げた。
その様子を見て、ハーキンが残りの騎士達に厳しい視線を向けた。
「お前達、残りの上級士官諸共、全員、捕縛せよ。逃亡者など、決して許さない」
はっ、と全員が硬く返事をする。
「隊ごとに、五人は付き添わせるように。この椅子の――数からしても、10人。全員捕縛せよ」
「わかりました」
バラバラ、バラバラと、重装備の騎士達が部屋から飛び出していく。
シーンと、その室内が一気に沈黙が降り、それも――気まずい沈黙だけが降り、その光景を全く興味もなさそうに静観している伯爵家代行は、ただ、引きずられていく中尉を、軽蔑したように見下ろしているだけだ。
「――――今回のことは、王国軍が恥ずべき醜態を晒し、伯爵家には多大な迷惑をかけてしまった……。非礼を、お詫びする」
王太子殿下である立場なら、格下の伯爵家程度に謝罪を述べる必要もない。
普段ならそうだ。
だが、相手は隣国。アトレシア大王国内の貴族ではない。
義勇軍として、強制的ではなくボランティアで戦に参加してきた他国の貴族なのに、自国の――それも、国を守るべき存在の王国軍の目に余る非礼の数々。
こんな醜態が、隣国のノーウッド王国に知られたのなら――もう、アトレシア大王国の恥さらしだけではなく、国交問題にも繋がるかもしれない。
隣国からの義勇軍を蔑ろにし、戦に強制参加させたなど――これは、ただの契約違反などという次元ではない。
むしろ、強制参加など、アトレシア大王国側の使役、または奴隷並の扱いをしてしまったと、誤解される恐れまででてきてしまう。
そんな重要な問題も理解せず、威張り散らして、隣国の貴族を戦に投げ込んだ――王国側の責任は、ものすごい重いものだ。
運よく、伯爵家代行は、戦で命を落とさなかったようだから、まだ、「済まない」 と謝罪もできるが、もし――戦で命を落としてしまっていたのなら……、もう、アトレシア大王国だって、言い訳ができるはずもない。
だが、相手からの反応はない。
シーンと、更に気まずい沈黙だけが延びる……。
それで、セシル達の出方を待っている王太子殿下の前で、セシルは無言で、少し後ろを向き、その手を上げてみせた。
後ろに控えているフィロが、持っていたファイルの中から、一枚の紙を取り上げ、セシルに手渡した。
「これが、強制没収された物資のリストです。そして、急遽、買いださなければならない物資全部。全品名と容量、それから、かかった費用分、全て返してもらいましょうか」
トン、とその紙切れをセシルが、大きな机の上に叩きつけた。
すぐに、騎士団長のハーキンが、机の側を回って紙を取りに来た。サッと目を通した紙を、王太子殿下の前に差し出す。
その紙の中身を確認した王太子殿下は、顔には出さずに、苦虫を潰したような表情であったのは、言うまでもない。
「この場には、書類に記載されている物資を持ってきてはいない。明日まで用意させるので、それまで待ってもらいたい」
冷たい無言だけが返されるだけだ。
それで、表情を隠している奥でも、王太子殿下が、更に、苦虫を潰したような面持ちになりかけている。
「必ず、全部の物資を返すことを約束する」
「では、負傷兵は? まあ、すでに死んでいるでしょうけど」
淡々と、冷たく、全く気にもかけていないようなその言葉も、口調も、声色も、軽蔑だけが露わで、完全にアトレシア大王国を信用していない態度が明確だった。
それだけの――非礼も非道もしてしまっただけに、その場の王国騎士団の騎士達は、重い沈黙の中で、反論もできない。
「まったく、上が無能だと、下々に至る者達の締まりがない」
ものすごい――あからさまな侮辱だ。
事実――だとしても、王国の王太子殿下を前にして、その一言を投げつける者がいるなんて信じられず、付き添っている騎士団団長やその場の騎士達が息を詰めた。
確かに、この駐屯地の指揮官は、先程逮捕した中尉だ。
国王軍の締まりがなく、規制も管理されず、監視されず、あまりに恥さらしのオンパレードだ。
あんな無能な男を指した一言だったのかもしれないが――それでも、今この現在、この場所で、一番上に立つ立場にいるのは、紛れもない、王太子殿下だ。
その上が無能だから、下々の家臣達の締まりがない――など、明らかに、王太子殿下を侮辱した言葉と取られてもおかしくはない。
「大層な御託を並べ、威張り散らし、戦場にいながら兵士としての役割も果たさず、味方を殺し、兵士を無駄にし、おまけに悪事・不正の数々。よくもまあ、誉ある大王国の王国軍だ、などと豪語できること」
そして、更なる苦情に全く容赦がない。
切り傷に塩を塗り込むどころか、むしろ、その傷口を大きく割けさせ、傷口を更に刺激するかのように、ナイフで切り刻んでいる感じだ。
弁論も、反論も、弁解も――できない。
アトレシア大王国は、あの王国軍の指揮官たちのせいで、その名誉も立場も完全に地に落ちてしまったのだから。
「明日の朝までには全品返却、全額返済を」
それだけを言いつけて、挨拶もせず、礼も取らず、クルリと向きを変えて、伯爵家代行は、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「王太子殿下……」
あまりの信じられない話に、内から吹き荒れているほどの怒りで切歯扼腕しかかっている王太子殿下の側で、騎士団団長のハーキンも、それ以上の言葉がかけられない。
「――リストに記載されているものを、全て揃えよ」
「わかりました」
そして、2~3の指示を出した後は、完全に無言だった。
王太子殿下の怒りがあまりに心頭に達していて、もう、今はこれ以上喋りたくもない様相がありありとしていた。
「貴様、いつまで、王国の恥をさらけ出す気でいるのだ?」
「なにをっ――。我々が、罪を犯したなど、そんな証拠でも挙がっていると?」
「証拠は挙げられているだろう?」
「そんなものっ、でっち上げに過ぎません。王太子殿下ともあろうお方が、このような下賤の輩の言うことをお聞きになるなど――」
「口に気を付けろよ。さもなければ、この場で斬り落としているところだが」
怒気もなく、強く命令口調でもなかった。
だが、底冷えするような脅しある淡々とした声音が、本気を語っていた。
「……ひっ……、なにをっ……。王太子殿下と言えど、そのような横暴――」
「証拠が挙がっている、と言っているだろう? 貴様の隊から、証人まで上がってきている。それを、どう言い訳する?」
「証人? 一体、誰が、そんな……」
「貴様が見捨てた兵士達だ」
「見捨ててなどいませんが。今は――戦況が苦しいのです。兵士を無駄にはできません」
「そうだな。もう、貴様のくだらない言い訳は聞き飽きた。――この者を捕縛せよ。そして、この隊の指揮官及び、上級士官、その者達、全員の捕縛もだ」
「かしこまりました」
だが、中尉の目が飛び跳ねていた。
「そんな、横暴だっ――!」
「ダーマン中尉、王国軍の不正、違法行為、その他、有り余る罪を犯し、責務も果たさず、責任放棄の重罪を犯した貴様を逮捕する」
「なんだとっ! ――そんなの横暴だっ……!」
ガタッ――と、椅子が勢いよくひっくり返る。
「こんな所業、許されるわけがない……」
「取り押さえろ」
騎士団団長のハーキンが無情に言い捨てた。
「はい」
その場に控えていた十人程の騎士達が、一斉に、中尉を取り囲む。
「何をするっ……! 横暴だっ――! こんな言いがかりをつけられ――うがぁっ……!!」
うるさく抵抗をみせた中尉の脇腹を、素早い、鋭い肘付きが、一発入れられていた。
一瞬、痛みで呼吸を失った中尉が、その場で倒れ込む。
「恥を知れ。王国の恥さらしが」
肘当てを一発入れた騎士が、侮蔑も露わにそれを吐き捨て、地面にへばり込んだ中尉を腹這いにさせ、その背に自分の膝を押し付ける。
用意してきていた縄で、中尉の腕を縛り上げた。
その様子を見て、ハーキンが残りの騎士達に厳しい視線を向けた。
「お前達、残りの上級士官諸共、全員、捕縛せよ。逃亡者など、決して許さない」
はっ、と全員が硬く返事をする。
「隊ごとに、五人は付き添わせるように。この椅子の――数からしても、10人。全員捕縛せよ」
「わかりました」
バラバラ、バラバラと、重装備の騎士達が部屋から飛び出していく。
シーンと、その室内が一気に沈黙が降り、それも――気まずい沈黙だけが降り、その光景を全く興味もなさそうに静観している伯爵家代行は、ただ、引きずられていく中尉を、軽蔑したように見下ろしているだけだ。
「――――今回のことは、王国軍が恥ずべき醜態を晒し、伯爵家には多大な迷惑をかけてしまった……。非礼を、お詫びする」
王太子殿下である立場なら、格下の伯爵家程度に謝罪を述べる必要もない。
普段ならそうだ。
だが、相手は隣国。アトレシア大王国内の貴族ではない。
義勇軍として、強制的ではなくボランティアで戦に参加してきた他国の貴族なのに、自国の――それも、国を守るべき存在の王国軍の目に余る非礼の数々。
こんな醜態が、隣国のノーウッド王国に知られたのなら――もう、アトレシア大王国の恥さらしだけではなく、国交問題にも繋がるかもしれない。
隣国からの義勇軍を蔑ろにし、戦に強制参加させたなど――これは、ただの契約違反などという次元ではない。
むしろ、強制参加など、アトレシア大王国側の使役、または奴隷並の扱いをしてしまったと、誤解される恐れまででてきてしまう。
そんな重要な問題も理解せず、威張り散らして、隣国の貴族を戦に投げ込んだ――王国側の責任は、ものすごい重いものだ。
運よく、伯爵家代行は、戦で命を落とさなかったようだから、まだ、「済まない」 と謝罪もできるが、もし――戦で命を落としてしまっていたのなら……、もう、アトレシア大王国だって、言い訳ができるはずもない。
だが、相手からの反応はない。
シーンと、更に気まずい沈黙だけが延びる……。
それで、セシル達の出方を待っている王太子殿下の前で、セシルは無言で、少し後ろを向き、その手を上げてみせた。
後ろに控えているフィロが、持っていたファイルの中から、一枚の紙を取り上げ、セシルに手渡した。
「これが、強制没収された物資のリストです。そして、急遽、買いださなければならない物資全部。全品名と容量、それから、かかった費用分、全て返してもらいましょうか」
トン、とその紙切れをセシルが、大きな机の上に叩きつけた。
すぐに、騎士団長のハーキンが、机の側を回って紙を取りに来た。サッと目を通した紙を、王太子殿下の前に差し出す。
その紙の中身を確認した王太子殿下は、顔には出さずに、苦虫を潰したような表情であったのは、言うまでもない。
「この場には、書類に記載されている物資を持ってきてはいない。明日まで用意させるので、それまで待ってもらいたい」
冷たい無言だけが返されるだけだ。
それで、表情を隠している奥でも、王太子殿下が、更に、苦虫を潰したような面持ちになりかけている。
「必ず、全部の物資を返すことを約束する」
「では、負傷兵は? まあ、すでに死んでいるでしょうけど」
淡々と、冷たく、全く気にもかけていないようなその言葉も、口調も、声色も、軽蔑だけが露わで、完全にアトレシア大王国を信用していない態度が明確だった。
それだけの――非礼も非道もしてしまっただけに、その場の王国騎士団の騎士達は、重い沈黙の中で、反論もできない。
「まったく、上が無能だと、下々に至る者達の締まりがない」
ものすごい――あからさまな侮辱だ。
事実――だとしても、王国の王太子殿下を前にして、その一言を投げつける者がいるなんて信じられず、付き添っている騎士団団長やその場の騎士達が息を詰めた。
確かに、この駐屯地の指揮官は、先程逮捕した中尉だ。
国王軍の締まりがなく、規制も管理されず、監視されず、あまりに恥さらしのオンパレードだ。
あんな無能な男を指した一言だったのかもしれないが――それでも、今この現在、この場所で、一番上に立つ立場にいるのは、紛れもない、王太子殿下だ。
その上が無能だから、下々の家臣達の締まりがない――など、明らかに、王太子殿下を侮辱した言葉と取られてもおかしくはない。
「大層な御託を並べ、威張り散らし、戦場にいながら兵士としての役割も果たさず、味方を殺し、兵士を無駄にし、おまけに悪事・不正の数々。よくもまあ、誉ある大王国の王国軍だ、などと豪語できること」
そして、更なる苦情に全く容赦がない。
切り傷に塩を塗り込むどころか、むしろ、その傷口を大きく割けさせ、傷口を更に刺激するかのように、ナイフで切り刻んでいる感じだ。
弁論も、反論も、弁解も――できない。
アトレシア大王国は、あの王国軍の指揮官たちのせいで、その名誉も立場も完全に地に落ちてしまったのだから。
「明日の朝までには全品返却、全額返済を」
それだけを言いつけて、挨拶もせず、礼も取らず、クルリと向きを変えて、伯爵家代行は、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「王太子殿下……」
あまりの信じられない話に、内から吹き荒れているほどの怒りで切歯扼腕しかかっている王太子殿下の側で、騎士団団長のハーキンも、それ以上の言葉がかけられない。
「――リストに記載されているものを、全て揃えよ」
「わかりました」
そして、2~3の指示を出した後は、完全に無言だった。
王太子殿下の怒りがあまりに心頭に達していて、もう、今はこれ以上喋りたくもない様相がありありとしていた。