奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
騎士団が弓兵として役に立たないと判断したフィロは、さっさと自分達の作戦会議に注意を戻す。
「本当なら、この角の部分の裏に潜ませた弓兵で、敵の側面を狙いたかったのに。最初の丸い壁で敵兵の勢いを削ぎ、まあ、壁の後ろで伏兵が立てられるのなら、そこでかなり食い止めることもできるね。それでも、領門を突破して来る敵兵には、側面から撃ち落とし、最後には、落とし穴で殲滅できる」
「弓兵の狙いは悪くないけど、弓を打てる奴がいなければ、話にならないな」
「そう」
それで、ふむ、とケルトがフィロの書き込んだ図面を見下ろしながら、なにかを考え込む。
「串刺し――って、落とし穴で?」
ケルトの質問にも、フィロが簡単に頷く。
「そう」
昔からの付き合いだけあって、お互いに話も早ければ、理解も早い。
「それはいいけど、この角を有効に使えないかどうかは、ちょっと考えてみるわ」
「わかった。時間はかけられないから、穴を掘ってる間は、外側に騎士団をずらりと並ばせて、威嚇させるしかないね」
「そうだな」
それで、今度は、フィロとケルトの二人からの視線を向けられ、王太子殿下の顔が嫌そうにしかめられる。
まさか、この場になって、作戦に協力しないのか? ――と、二人からのあまりに冷たい侮蔑された目だけが、王太子殿下に向けられている。
そう、何度も、何度も、繰り返さなくても、アトレシア大王国の王国軍は、“無能集団”で、“役立たず”だと、強調したいのは、理解した。
それについては、弁明もなければ、弁解もない。
「――いいだろう」
「それから、僕達が指揮を取っている間、邪魔させないでくださいね。はっきり言って、これからの戦いは、時間が勝敗を決めます。邪魔されたり、指示を無視するような奴らは、速攻で、一番前の前線に送り出しますからね」
小生意気で、一国の王太子殿下に向かって脅しをかけてくるなど、普通では許されない非礼。
だが、嫌そうに眉間を揺らした王太子殿下だって、王国の恥さらしを自慢しに来たわけではない。
「話は聞かせてもらったが、戦はお遊びではない。我が騎士団に命を懸けるよう命令するのなら、それなりの勝機がなければ、ただの無駄死にだ」
「勝機があるから、わざわざ、手伝ってやってるんですけど」
「主の仇合戦、ではなかったのか?」
冷たく言い返されて、フィロだって、その目を冷たく輝かせる。
「そうだけど。それが問題ですか? こんな土地、さっさと手放したって、僕達には、痛くもかゆくもなんともない。さっさと、部族連合にでも取られてしまえば良かったものを。どうせ、マスターがいなければ、当の昔に全滅していた場所だ」
痛いところを突かれ、それに対しては言い返しができない。
「やる気がないなら、さっさと帰ればいいでしょ。僕達には、別に、王国の騎士団に頼らなくても、やれることはある。ただ、時間が少しかかってしまうだけの話だ」
だから、今は騎士団がいるから、肉体労働に時間をかけずに済み、手間が省けるから、騎士団を使ってやるんだ――とでも聞こえそうな偉そうな口調だ。
「どうするんです? 僕達は、このままマスターを連れて、さっさと、この地を離れたっていい。王国には、なんの義理もないんですから」
生意気で、偉そうで、非礼をわきまえない立場でも――戦を経験したこともないような子供が、本気で部族連合を叩き潰す気でいる。
それも、聞き慣れない戦術を使って。
だが――王太子殿下も認めるのは(ものすごく、最高に) 嫌なのだが――話を聞く限りでは、子供達が作戦会議で話し合っている戦術は、確かに、理に適っているのだ。
今は、南側の王国軍は、ほぼ壊滅状態に近く、元々、“無能集団”で烏合の衆なだけの集まりだから、これからの部族連合と本格的な領土争いになった場合、絶対に勝ち目はない。
だが、アトレシア大王国にとっても、この土地を奪われるわけにはいかないのだ。
人数が足りず、それでも地を生かした戦術で、攻防共に、接戦でもかなり有利になれる作戦を持ち出してくるような――あまりに計り知れない子供を前に、王太子殿下も、この機にすがるしか、方法は残されていないのだ。
「――作戦を実行するに当たり、騎士団の騎士達には、指示に従うように言いつけておこう。ただし」
そこで、王太子殿下も強調する。
「君達の無茶に、騎士達を付き合わせるつもりは毛頭ない。そう判断した時点で、私がその指示を無効にするということを、忘れないでもらおうか」
「いいでしょう。ギリトル側のことは知りません。今は、中央寄りの穴から、敵をおびき寄せる作戦ですから」
「穴が見つからなかったら?」
「その時は、ギリトル側に同じ罠を張るだけです。そちら側で、おびき寄せればいいだけの話です」
「いいだろう」
話はそこでついたようだった。
「じゃあ、待ってる間、できる限り木を切り倒そう。騎士団が前方にいるから、その後ろで木を切り倒せば、左程、問題は見られないと思う」
「いいぜ」
じゃあ、行くか――と、フィロを抜かした子供達全員が、立ちあがった。
「中央で残ってる100人の騎士達は、今は肉体労働に使います。時間が限られてますから、できる限り、さっさと片付けてしまわなければ」
「必要とあらば、待機している前方200の騎士から100人を引いて、必要な労働に回すべきだろう。部族連合が侵入してきた場合、即座に攻撃に加わることを前提に」
「わかりました。じゃあ、騎士達に指示を出してください」
わかっている……。
その仕事は、騎士団団長のハーキンの仕事だ、とでも言いたいのだろう。
ものすごい眉間に皺をよせ、一切口を挟まなかったハーキンも、椅子から立ち上がっていた。
* * *
「丸馬出と枡形虎口ですか?」
「そうです」
ひと眠りして、目を覚ましたセシルは、借りているベッドの上で、フィロからこれからの作戦を聞いてた。
フィロが今回提案した戦術と作戦は、セシルが、以前、フィロに教えてあげた昔話の例題を使用している。
昔――この世界ではない、前世(または現世なのか) の戦国時代、お城の護りを強化する為に工夫された仕組みだ。
セシルは、子供達に、たくさんの戦術を教え込んだわけではないが、それでも――自分の記憶で思い出せる、記憶に残る武将達の戦の歴史や戦術など、思い出せる限りで、子供達に話して聞かせていた。
そんな状況にはなって欲しくはないが、それでも、ただの知識としてでも、学べることはあるかな、との思いで。
お城や陣を護る為に、こういった工夫をしたり、敵を攪乱させたり、ちょっとした工夫や仕掛けでも、敵の隙を突くことができるのですよ――と言った感じで、教えていた昔話だ。
だが、フィロは子供達の中でも一番に頭の良い子供だっただけに、その話をした後でも、よく、セシルと二人きりの時に、戦術や戦法の話し合いをして、有利な点や不利な点、改善策など、色々と、ゲーム感覚でいつもやり取りをしてきた。
だから、戦の経験がなくても、実戦経験が少なくても、フィロはただの子供ではなかった。
「本当なら、この角の部分の裏に潜ませた弓兵で、敵の側面を狙いたかったのに。最初の丸い壁で敵兵の勢いを削ぎ、まあ、壁の後ろで伏兵が立てられるのなら、そこでかなり食い止めることもできるね。それでも、領門を突破して来る敵兵には、側面から撃ち落とし、最後には、落とし穴で殲滅できる」
「弓兵の狙いは悪くないけど、弓を打てる奴がいなければ、話にならないな」
「そう」
それで、ふむ、とケルトがフィロの書き込んだ図面を見下ろしながら、なにかを考え込む。
「串刺し――って、落とし穴で?」
ケルトの質問にも、フィロが簡単に頷く。
「そう」
昔からの付き合いだけあって、お互いに話も早ければ、理解も早い。
「それはいいけど、この角を有効に使えないかどうかは、ちょっと考えてみるわ」
「わかった。時間はかけられないから、穴を掘ってる間は、外側に騎士団をずらりと並ばせて、威嚇させるしかないね」
「そうだな」
それで、今度は、フィロとケルトの二人からの視線を向けられ、王太子殿下の顔が嫌そうにしかめられる。
まさか、この場になって、作戦に協力しないのか? ――と、二人からのあまりに冷たい侮蔑された目だけが、王太子殿下に向けられている。
そう、何度も、何度も、繰り返さなくても、アトレシア大王国の王国軍は、“無能集団”で、“役立たず”だと、強調したいのは、理解した。
それについては、弁明もなければ、弁解もない。
「――いいだろう」
「それから、僕達が指揮を取っている間、邪魔させないでくださいね。はっきり言って、これからの戦いは、時間が勝敗を決めます。邪魔されたり、指示を無視するような奴らは、速攻で、一番前の前線に送り出しますからね」
小生意気で、一国の王太子殿下に向かって脅しをかけてくるなど、普通では許されない非礼。
だが、嫌そうに眉間を揺らした王太子殿下だって、王国の恥さらしを自慢しに来たわけではない。
「話は聞かせてもらったが、戦はお遊びではない。我が騎士団に命を懸けるよう命令するのなら、それなりの勝機がなければ、ただの無駄死にだ」
「勝機があるから、わざわざ、手伝ってやってるんですけど」
「主の仇合戦、ではなかったのか?」
冷たく言い返されて、フィロだって、その目を冷たく輝かせる。
「そうだけど。それが問題ですか? こんな土地、さっさと手放したって、僕達には、痛くもかゆくもなんともない。さっさと、部族連合にでも取られてしまえば良かったものを。どうせ、マスターがいなければ、当の昔に全滅していた場所だ」
痛いところを突かれ、それに対しては言い返しができない。
「やる気がないなら、さっさと帰ればいいでしょ。僕達には、別に、王国の騎士団に頼らなくても、やれることはある。ただ、時間が少しかかってしまうだけの話だ」
だから、今は騎士団がいるから、肉体労働に時間をかけずに済み、手間が省けるから、騎士団を使ってやるんだ――とでも聞こえそうな偉そうな口調だ。
「どうするんです? 僕達は、このままマスターを連れて、さっさと、この地を離れたっていい。王国には、なんの義理もないんですから」
生意気で、偉そうで、非礼をわきまえない立場でも――戦を経験したこともないような子供が、本気で部族連合を叩き潰す気でいる。
それも、聞き慣れない戦術を使って。
だが――王太子殿下も認めるのは(ものすごく、最高に) 嫌なのだが――話を聞く限りでは、子供達が作戦会議で話し合っている戦術は、確かに、理に適っているのだ。
今は、南側の王国軍は、ほぼ壊滅状態に近く、元々、“無能集団”で烏合の衆なだけの集まりだから、これからの部族連合と本格的な領土争いになった場合、絶対に勝ち目はない。
だが、アトレシア大王国にとっても、この土地を奪われるわけにはいかないのだ。
人数が足りず、それでも地を生かした戦術で、攻防共に、接戦でもかなり有利になれる作戦を持ち出してくるような――あまりに計り知れない子供を前に、王太子殿下も、この機にすがるしか、方法は残されていないのだ。
「――作戦を実行するに当たり、騎士団の騎士達には、指示に従うように言いつけておこう。ただし」
そこで、王太子殿下も強調する。
「君達の無茶に、騎士達を付き合わせるつもりは毛頭ない。そう判断した時点で、私がその指示を無効にするということを、忘れないでもらおうか」
「いいでしょう。ギリトル側のことは知りません。今は、中央寄りの穴から、敵をおびき寄せる作戦ですから」
「穴が見つからなかったら?」
「その時は、ギリトル側に同じ罠を張るだけです。そちら側で、おびき寄せればいいだけの話です」
「いいだろう」
話はそこでついたようだった。
「じゃあ、待ってる間、できる限り木を切り倒そう。騎士団が前方にいるから、その後ろで木を切り倒せば、左程、問題は見られないと思う」
「いいぜ」
じゃあ、行くか――と、フィロを抜かした子供達全員が、立ちあがった。
「中央で残ってる100人の騎士達は、今は肉体労働に使います。時間が限られてますから、できる限り、さっさと片付けてしまわなければ」
「必要とあらば、待機している前方200の騎士から100人を引いて、必要な労働に回すべきだろう。部族連合が侵入してきた場合、即座に攻撃に加わることを前提に」
「わかりました。じゃあ、騎士達に指示を出してください」
わかっている……。
その仕事は、騎士団団長のハーキンの仕事だ、とでも言いたいのだろう。
ものすごい眉間に皺をよせ、一切口を挟まなかったハーキンも、椅子から立ち上がっていた。
* * *
「丸馬出と枡形虎口ですか?」
「そうです」
ひと眠りして、目を覚ましたセシルは、借りているベッドの上で、フィロからこれからの作戦を聞いてた。
フィロが今回提案した戦術と作戦は、セシルが、以前、フィロに教えてあげた昔話の例題を使用している。
昔――この世界ではない、前世(または現世なのか) の戦国時代、お城の護りを強化する為に工夫された仕組みだ。
セシルは、子供達に、たくさんの戦術を教え込んだわけではないが、それでも――自分の記憶で思い出せる、記憶に残る武将達の戦の歴史や戦術など、思い出せる限りで、子供達に話して聞かせていた。
そんな状況にはなって欲しくはないが、それでも、ただの知識としてでも、学べることはあるかな、との思いで。
お城や陣を護る為に、こういった工夫をしたり、敵を攪乱させたり、ちょっとした工夫や仕掛けでも、敵の隙を突くことができるのですよ――と言った感じで、教えていた昔話だ。
だが、フィロは子供達の中でも一番に頭の良い子供だっただけに、その話をした後でも、よく、セシルと二人きりの時に、戦術や戦法の話し合いをして、有利な点や不利な点、改善策など、色々と、ゲーム感覚でいつもやり取りをしてきた。
だから、戦の経験がなくても、実戦経験が少なくても、フィロはただの子供ではなかった。