奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
前回のように、部族連合側が、わざわざギリトルまで向かい、そこから、ブレッカの国境側に上がるには、時間がかかり過ぎる為、その案は却下された。
それで、後の本線に備え、抜け穴だけは奪還しておくべきだ、という結論に達する。
元々、ブレッカにいる王国軍を退けることが、第一の目的。第二に、援軍が来た場合、奇襲をかけて、挟み撃ちをするのが次の目的。
今までの戦法から判断しても、その作戦は成功していた。
ブレッカの領壁に近づいていくにつれ、煌々と炊かれた焚火台の灯りが、辺り一帯を照らし、部族連合の兵士達の姿も、露わにしてしまう。
おまけに、即興で作った塀なのに、その目の前には、深い穴が掘られている。
アトレシア大王国の王太子殿下が、予想もなく、急遽、南の砦に飛び立った、と言う報は、部族連合の耳にも入っている。
どうやら、南の砦の現状(惨状) を見て、王太子殿下が防壁を作らせたらしい。
そして、部族連合の兵士達を、あからさまに侮辱したように吊るされている捕虜達。
それを遠目から観察している部族連合の兵士達の顔に、侮辱された怒気が、すぐに浮かび上がってくる。
今まで、格下として、相手にもしていない蠅もどきの王国軍にしてやられるとは、部族連合のプライドが許さない。
塀の向こうで、兵士達が、部族連合の様子を伺っているのも丸見えだ。
「どうする?」
騎馬の兵士が、丸太の塀を睨みつけるように凝視しながら、淡々と口を開く。
「今更、引き下がっては、更なる恥の上乗せだろうが」
「あの塀が邪魔だな」
「確かに。仕方ない。歩兵で塀を壊させるしかないだろう」
慎重に、警戒をして、部族連合の兵士達が領壁に近づいていくが、近づき過ぎはしない。
そんな最中――
シュッ――!!
闇を切って、塀の隙間から何かが飛んできたのだ。
「――矢だっ! 下がれっ――!」
咄嗟に、その指示を出した騎馬兵の一人が、反射的に馬の向きを変え後進する。
ズボッ――――!
ボシュッ――!
矢が馬には当たらず、地面に突き刺さった。
ボワッ――!!
地面に突き刺さった矢の先から、一瞬だけ火花が飛び散った。
シュッ――
シュッ――
だが、その攻撃だけではなく、続けざまに、矢が放たれた。
丸馬出の後ろで待機しているリアーガ達は、連射ができるように、あらかじめ、何本もの弓矢に火をつける作業を、騎士達にさせていたのだ。
そして、かの有名な鉄砲三弾打ちに習い、リアーガ達だって、前後3列に並び、一番前の火矢を打ち終わると、すぐに後ろと交代し、二発目を。次に三発目をと、連射形式を取った。
王国騎士団の騎士には誰一人弓を操ることができる騎士がいなかった。だが、付け焼刃であっても、この二日間、ただ弓を引いて弓矢を飛ばす、という単純な動作を、徹底的に教え込まれたのだ。
それで、部族連合の兵士隊に当たらなくてもいい。ただ、真っ直ぐ飛ばせばいいのだ。
次々に、火が灯された弓矢が飛んできて、直接、当たりはしなくても、馬を怯えさせるのには、十分な効果だった。
突然の攻撃に、馬が驚き、嘶き、その場で、一気に馬達が興奮し出す。
「くそっ――!」
馬達を押さえようと、騎馬の兵士達の足並みが崩れる。
その光景を見て、歩兵としての攻撃部隊の兵士達が、更に怒りを募らせる。
「舐めおって――」
行くぞっ――と、一斉に歩兵が駆け出していた。
「待てっ――」
制止も聞かず、歩兵の攻撃部隊が走り出してしまった。先程からの侮辱を受けて、怒気がかなり上がりだしていた中、火矢などと、セコイ戦法で攻撃を仕掛けてくるなどふざけ過ぎている。
さっさと斬り殺してくれるわっ――傲慢な兵士達の態度が明白で、攻撃部隊の兵士達は、塀を回り込んで、中に侵入していく。
わぁっっ―――!!
領壁の向こうで、兵士達の怒号が鳴り響く。
だが、リアーガ達は、準備していた火矢を全部打ち終えると、颯爽と、奥の領壁に逃げ返っていた。
枡形虎口の出口には、落とし穴が仕掛けてあるので、そこには、リアーガ達の退路の為だけに、長い丸太が置かれている。
騎士達も必死で丸太の上を走り込み、リアーガ達も、落とし穴の向こう側に着いていた。
「丸太を片づけろっ」
その合図と共に、待機していた騎士達が、丸太に取り付けた縄を引っ張り上げる。
ドンッと、丸太が地面に落ちたが、騎士達はその丸太をすくい上げるかのように、縄を引っ張った。
端にいるリアーガ達が丸太を取り上げて、地面に落とす。
「邪魔になるから、さっさと片付けろっ」
「はいっ」
数人の騎士達が丸太を腕に挟み、大急ぎで丸太をどけていく。
「後は任せたぜ」
「ああ、大丈夫だ」
イシュトールがリアーガと代わり、前に出てくる。
リアーガはマントを翻し、繋げてあった馬に飛び乗った。これから、ハンス達と合流して、世にも不思議な“モンスターごっこ” に参加しなければならないらしい。
「敵兵が来ましたっ!」
中の領壁にも外側の監視ができるように穴を開け、立狭間を作った。そこから、外側に目を凝らしていて騎士が、叫んだ。
「全員、構えっ!」
イシュトールの号令が飛ばされた。
枡形虎口の裏では、長い木を削り、先を尖らせた即興槍。落とし穴には、串刺し用の杭が何本も突き刺さっている。
そして、落とし穴の向こうで待ち構えているのも、また、長い木の槍を構えた騎士達。
全員が腰を落とし身構える――
穴の開いた領壁側では、すでに、勇みこんでかけ込んで来た部族連合の兵士達が、次々に落とされていた。
怒号が飛び交い、叫び声が上がり、そこらは――またも地獄と化す。
その喧騒を聞きつけて来たのか、以前から領壁の穴より侵入していた部族連合の伏兵達が、視界もないような真っ暗な暗闇を、駆けてきていた。
穴の開いた場所から離れ、南東寄りの砦を監視する為に、ずっと、森の中で潜んでいた部族連合の隊だ。
ここ数日、王国軍の不穏な動きを察知して、隠れ潜んだ場所から、穴を掘っている兵士達の動向を監視していた、敵兵達である。
穴が占領されてしまい、外にいる部族連合の味方に連絡ができなくなってしまい、様子を伺って、ずっと隠れ潜んでいた敵兵達の隊は、穴のある方での喧騒を察知し、すぐに戦闘態勢に入っていた。
だが、視界もないような真っ暗な暗闇を駆けてきた敵兵の前に、いきなり――ボワッ、パアッ――! と、周囲が照らされたのだ。
「――な、なんだっ……!?」
突然、一気に周囲が照らされて、部族連合の兵士達の足が止まる。
ボワッ――!
シュシュッ――!
奇妙な変音と共に、部族連合の兵士達の前で――空で、青白いような、緑色の炎(?) が空を流れて行ったのだ!
「な、なんだっ……!?」
「なんだ、あれはっ……!?」
そして、一直線に空を駆けていく緑色の炎が、空を通り過ぎる度に、ボワッ、ボワッと、緑色の炎が浮き上がってくる。
「……なんだ、あれはっ……!?」
見たこともない不気味な現象を目にして、完全に、部族連合の兵士達の度肝が抜かれていた。
信じられないものを目にして、その場に立ち尽くしている。
枡形虎口を設置した領壁側とは違い、両方の砦を繋ぐ陸路には、灯り一つない。現代のように、道路に電灯があるわけでもない。
辺りは鬱蒼とした森に囲まれていて、闇が深まる深夜では真っ黒なだけで、視界もおぼつかない。木々が揺れ、その音だけが周囲をこすり、あまりに不気味な状態で、普通の人間なら、近づきたくもない場所だろう。
真っ暗闇な現状が功を為し、ハンスが仕掛けた「鬼火」の連射が、空を駆け抜けていったように見えたのだ。
高い場所に吊るした細縄には、小さな籠型の燈篭がぶら下がり、(ものすごい) 貴重な火薬を少し振りかけている。炎の勢いを途切れさせないように、縄にも、しっかりと蝋が塗り込んである。
そして、ここで不思議な“化学実験”の始まり~!
燈篭の中の薪には、銅の粉末も振りかけられている。
昔、セシルに教わって、炎の色は変わるんですよ――と、その実験を見せてもらった子供達は、初めて見る(現代版) “化学実験”に、目を輝かせて大喜び。
王太子殿下に言いつけて、コロッカルから、わざわざと仕入れた銅の粉末だ。
お値段も張るが、まあ、それは王太子殿下が支払ったから、セシルや子供達には全く支障がない。
それで、後の本線に備え、抜け穴だけは奪還しておくべきだ、という結論に達する。
元々、ブレッカにいる王国軍を退けることが、第一の目的。第二に、援軍が来た場合、奇襲をかけて、挟み撃ちをするのが次の目的。
今までの戦法から判断しても、その作戦は成功していた。
ブレッカの領壁に近づいていくにつれ、煌々と炊かれた焚火台の灯りが、辺り一帯を照らし、部族連合の兵士達の姿も、露わにしてしまう。
おまけに、即興で作った塀なのに、その目の前には、深い穴が掘られている。
アトレシア大王国の王太子殿下が、予想もなく、急遽、南の砦に飛び立った、と言う報は、部族連合の耳にも入っている。
どうやら、南の砦の現状(惨状) を見て、王太子殿下が防壁を作らせたらしい。
そして、部族連合の兵士達を、あからさまに侮辱したように吊るされている捕虜達。
それを遠目から観察している部族連合の兵士達の顔に、侮辱された怒気が、すぐに浮かび上がってくる。
今まで、格下として、相手にもしていない蠅もどきの王国軍にしてやられるとは、部族連合のプライドが許さない。
塀の向こうで、兵士達が、部族連合の様子を伺っているのも丸見えだ。
「どうする?」
騎馬の兵士が、丸太の塀を睨みつけるように凝視しながら、淡々と口を開く。
「今更、引き下がっては、更なる恥の上乗せだろうが」
「あの塀が邪魔だな」
「確かに。仕方ない。歩兵で塀を壊させるしかないだろう」
慎重に、警戒をして、部族連合の兵士達が領壁に近づいていくが、近づき過ぎはしない。
そんな最中――
シュッ――!!
闇を切って、塀の隙間から何かが飛んできたのだ。
「――矢だっ! 下がれっ――!」
咄嗟に、その指示を出した騎馬兵の一人が、反射的に馬の向きを変え後進する。
ズボッ――――!
ボシュッ――!
矢が馬には当たらず、地面に突き刺さった。
ボワッ――!!
地面に突き刺さった矢の先から、一瞬だけ火花が飛び散った。
シュッ――
シュッ――
だが、その攻撃だけではなく、続けざまに、矢が放たれた。
丸馬出の後ろで待機しているリアーガ達は、連射ができるように、あらかじめ、何本もの弓矢に火をつける作業を、騎士達にさせていたのだ。
そして、かの有名な鉄砲三弾打ちに習い、リアーガ達だって、前後3列に並び、一番前の火矢を打ち終わると、すぐに後ろと交代し、二発目を。次に三発目をと、連射形式を取った。
王国騎士団の騎士には誰一人弓を操ることができる騎士がいなかった。だが、付け焼刃であっても、この二日間、ただ弓を引いて弓矢を飛ばす、という単純な動作を、徹底的に教え込まれたのだ。
それで、部族連合の兵士隊に当たらなくてもいい。ただ、真っ直ぐ飛ばせばいいのだ。
次々に、火が灯された弓矢が飛んできて、直接、当たりはしなくても、馬を怯えさせるのには、十分な効果だった。
突然の攻撃に、馬が驚き、嘶き、その場で、一気に馬達が興奮し出す。
「くそっ――!」
馬達を押さえようと、騎馬の兵士達の足並みが崩れる。
その光景を見て、歩兵としての攻撃部隊の兵士達が、更に怒りを募らせる。
「舐めおって――」
行くぞっ――と、一斉に歩兵が駆け出していた。
「待てっ――」
制止も聞かず、歩兵の攻撃部隊が走り出してしまった。先程からの侮辱を受けて、怒気がかなり上がりだしていた中、火矢などと、セコイ戦法で攻撃を仕掛けてくるなどふざけ過ぎている。
さっさと斬り殺してくれるわっ――傲慢な兵士達の態度が明白で、攻撃部隊の兵士達は、塀を回り込んで、中に侵入していく。
わぁっっ―――!!
領壁の向こうで、兵士達の怒号が鳴り響く。
だが、リアーガ達は、準備していた火矢を全部打ち終えると、颯爽と、奥の領壁に逃げ返っていた。
枡形虎口の出口には、落とし穴が仕掛けてあるので、そこには、リアーガ達の退路の為だけに、長い丸太が置かれている。
騎士達も必死で丸太の上を走り込み、リアーガ達も、落とし穴の向こう側に着いていた。
「丸太を片づけろっ」
その合図と共に、待機していた騎士達が、丸太に取り付けた縄を引っ張り上げる。
ドンッと、丸太が地面に落ちたが、騎士達はその丸太をすくい上げるかのように、縄を引っ張った。
端にいるリアーガ達が丸太を取り上げて、地面に落とす。
「邪魔になるから、さっさと片付けろっ」
「はいっ」
数人の騎士達が丸太を腕に挟み、大急ぎで丸太をどけていく。
「後は任せたぜ」
「ああ、大丈夫だ」
イシュトールがリアーガと代わり、前に出てくる。
リアーガはマントを翻し、繋げてあった馬に飛び乗った。これから、ハンス達と合流して、世にも不思議な“モンスターごっこ” に参加しなければならないらしい。
「敵兵が来ましたっ!」
中の領壁にも外側の監視ができるように穴を開け、立狭間を作った。そこから、外側に目を凝らしていて騎士が、叫んだ。
「全員、構えっ!」
イシュトールの号令が飛ばされた。
枡形虎口の裏では、長い木を削り、先を尖らせた即興槍。落とし穴には、串刺し用の杭が何本も突き刺さっている。
そして、落とし穴の向こうで待ち構えているのも、また、長い木の槍を構えた騎士達。
全員が腰を落とし身構える――
穴の開いた領壁側では、すでに、勇みこんでかけ込んで来た部族連合の兵士達が、次々に落とされていた。
怒号が飛び交い、叫び声が上がり、そこらは――またも地獄と化す。
その喧騒を聞きつけて来たのか、以前から領壁の穴より侵入していた部族連合の伏兵達が、視界もないような真っ暗な暗闇を、駆けてきていた。
穴の開いた場所から離れ、南東寄りの砦を監視する為に、ずっと、森の中で潜んでいた部族連合の隊だ。
ここ数日、王国軍の不穏な動きを察知して、隠れ潜んだ場所から、穴を掘っている兵士達の動向を監視していた、敵兵達である。
穴が占領されてしまい、外にいる部族連合の味方に連絡ができなくなってしまい、様子を伺って、ずっと隠れ潜んでいた敵兵達の隊は、穴のある方での喧騒を察知し、すぐに戦闘態勢に入っていた。
だが、視界もないような真っ暗な暗闇を駆けてきた敵兵の前に、いきなり――ボワッ、パアッ――! と、周囲が照らされたのだ。
「――な、なんだっ……!?」
突然、一気に周囲が照らされて、部族連合の兵士達の足が止まる。
ボワッ――!
シュシュッ――!
奇妙な変音と共に、部族連合の兵士達の前で――空で、青白いような、緑色の炎(?) が空を流れて行ったのだ!
「な、なんだっ……!?」
「なんだ、あれはっ……!?」
そして、一直線に空を駆けていく緑色の炎が、空を通り過ぎる度に、ボワッ、ボワッと、緑色の炎が浮き上がってくる。
「……なんだ、あれはっ……!?」
見たこともない不気味な現象を目にして、完全に、部族連合の兵士達の度肝が抜かれていた。
信じられないものを目にして、その場に立ち尽くしている。
枡形虎口を設置した領壁側とは違い、両方の砦を繋ぐ陸路には、灯り一つない。現代のように、道路に電灯があるわけでもない。
辺りは鬱蒼とした森に囲まれていて、闇が深まる深夜では真っ黒なだけで、視界もおぼつかない。木々が揺れ、その音だけが周囲をこすり、あまりに不気味な状態で、普通の人間なら、近づきたくもない場所だろう。
真っ暗闇な現状が功を為し、ハンスが仕掛けた「鬼火」の連射が、空を駆け抜けていったように見えたのだ。
高い場所に吊るした細縄には、小さな籠型の燈篭がぶら下がり、(ものすごい) 貴重な火薬を少し振りかけている。炎の勢いを途切れさせないように、縄にも、しっかりと蝋が塗り込んである。
そして、ここで不思議な“化学実験”の始まり~!
燈篭の中の薪には、銅の粉末も振りかけられている。
昔、セシルに教わって、炎の色は変わるんですよ――と、その実験を見せてもらった子供達は、初めて見る(現代版) “化学実験”に、目を輝かせて大喜び。
王太子殿下に言いつけて、コロッカルから、わざわざと仕入れた銅の粉末だ。
お値段も張るが、まあ、それは王太子殿下が支払ったから、セシルや子供達には全く支障がない。