奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)
「参加しないと、死刑ですか?」
「え゛っっ――?!」
騎士二人が、あまりの質問を聞いて、ギョッとした顔をした。
「そ、そんなことはありませんっ――」
「そのようなことは、絶対にありませんっ……」
二人が同時に取りなしていた。
「ですが、王宮から――王族からの招待を断ることなど、できないのでしょう?」
「そ、それは……」
そんな……拒絶されたことなど初めてで、二人が顔を見合わせて、困惑した様子が隠せない。
二人の役目と任務は、隣国に行きヘルバート伯爵令嬢に招待状を渡すこと、だ。一応……だけど、任務は完了したことになる――はずだ?
だけど、その伯爵令嬢から断りの――返答を持ち帰るのは、仕事のうちの一つなのだろうか……?
まだ、はっきりと断られたわけではない――はずだ?
どうしようか……と、二人の騎士が迷っている。
「わかりました。招待状は受け取りました」
「はい……」
だが、さっきの――不穏な発言の意味は明確にしてくれるんですか……? ――と聞き返したいのに、あまりにあっさりとした態度も、シーンと気まずい沈黙も、なんだか、その質問をしてはいけない状況にさせてしまっている。
「ご苦労様でした」
そして、その一言で、二人はお払い箱になってしまった。
シーンと、更に気まずい沈黙だけが降りる。
「……わかりました。失礼、します」
だが、またも、返答も反応もない。
もう、これは絶対に、ものすごく、アトレシア大王国が嫌われている証拠なのは、間違いなかった。
二人の騎士が気まずそうに、(一応) きちんと礼を済まし、客室を去っていく。
そして、セシルの片手には――まったく、頼んでもいない夜会への招待状が。
「早かったのですね」
執務室に戻って来たセシルの前で、さっきから仕事の手を止めていないフィロが、頭だけを下げるような礼をした。
「これを」
書類の整理をしているフィロの前で、先程、手渡された(封も開けていない) 封筒が出された。
フィロはそれを受け取り、セシルはさっさと自分の机の椅子に腰を下ろす。
ご丁寧に、ペーパーナイフを取り出し、封を聞いたフィロが、中から一枚の招待状を取り出した。
「夜会の招待状ですね」
そう、さっきの騎士達が説明をしてきた。
「それで、わざわざ、アトレシア大王国まで行かれるのですか?」
「行く気は全くありませんわ。でも、招待状だけ寄越して、夜会に招待――どころか、証人喚問並みの召集にしか見えないでしょう? これを無視したら、またも呼びつけてきそうですしね」
ああ、本当にイラつくほどに邪魔ですわ、面倒だけを押し付けて来て(怒) ――と、セシルの口に出されない怒気が、あまりに明らかだ。
「王宮から、それも、王太子殿下自らの招待状など、簡単に無視できないと承知で、わざわざ、招待状を送りつけてくるなんて。そんなにブレッカで作ってしまった借りが気に食わないのか、気に入らないのか、面倒なだけですわ」
普段のセシルは、滅多なことでは文句を言うようなタイプではない。
だが、今は、この招待状自体がセシルの癇に障ったのか、かなり苛立った様相をセシルは隠そうともしない。
多忙なセシルを呼びつけて、望んでも、頼んでもいない夜会などに参加させるなど、全然、お礼返しにもなっていない。
「傍迷惑です!」
その一言に尽きていた。
普通の貴族の令嬢なら、
「まあっ! 王宮からの夜会への招待! なんて素敵なのかしらっ! わたくしも、ドレスの準備をして、完璧に仕上げて見せますわ♡♡♡! ああぁ、王子サマとダンスができるかしらぁぁ」
あぁぁぁぁぁぁぁ――と、一気に夢心地で大喜びする場であろう(全ての会話に、エクスクラメーションマークだ)。
そして、いそいそと、夜会に向けてのドレス選びも余念なく、派手で豪奢なアクセサリーの買い付けに、お肌のパックや全身美容。
今から、その輝かしい(デビューの)日に向けて、一切の抜かりがないはずだ。
そんなもの、セシルがするかっ!
それでなくても、領地の仕事で、常に多忙を極めるセシルなのに、アトレシア大王国まで、またも顔を出さなくてはいけなくて、今回はその移動だけでも、往復で、優に十日以上かかってしまう。
決まり事が多い王宮内で身動き取れず、失礼も非礼も見せず、できず、慎ましやかな貴婦人を装って、最大限の注意を払って、マナーは完璧。
ああぁ、そんなことを考えるだけで、うんざりぃ……である。
仮病を使うべきかしら?
いや、その程度の理由では、次にまた押しかけられて、呼びつけられても、面倒なだけだ。
結局は、アトレシア大王国に行かないわけにはいかなくなってしまうのだ……。
(最高に、最大限に、時間の無駄ですわっ(怒)! )
そんな文句も、アトレシア大王国の王子殿下になど、聞こえはしない。
「ブレッカでの一件がありますし、マスターは、全員、護衛を連れて行くべきですね」
その提案に、セシルも少し考えてみる。
「まだ、夜会までは時間がありますから、リアーガを呼び戻してください。それから、リアーガを通して、ジャールにも、少々、アトレシア大王国の内情を探ってもらっておくべきでしょうね。あの国、辺境だからと言って、あれだけ締まりのない軍隊が揃っているかと思えば、王太子殿下自らが騎士団を引き連れて、戦場にまで顔を出して来たり、どうも、一枚岩ではいかないような国みたいですから。また、問題に巻き込まれるなんて、御免ですわ」
「確かにそうですね。では、リアーガさんに、至急、戻ってくるように連絡をつけておきます」
「ええ、よろしくお願いね」
「アトレシア大王国、現国王陛下には、三人の王子と一人の王女。ブレッカで会ったのが、王太子殿下に即位してる第一王子殿下のアルデーラ。四人全員揃って、実子だ。側室はなし」
ふむふむ。最後の部分は、セシルも、特別、興味がある話題でもない。
それで、ただその続きを促すだけだ。
「典型的な王政で、特別、ノーウッド王国とは変わらない。国土は、ノーウッド王国の倍はあるだろうな」
「まあ、土地だけで言えば、大王国ですからね」
「まあな」
「なぜ、王太子殿下ともあろう立場の王子が、戦場に?」
「騎士団を動かしてるのが、王太子殿下ってな噂らしい。作ったのも、そいつだったからだ、とは聞いたがな」
「王太子殿下が、騎士団を設立したんですか? 大王国なのに、騎士団の一つもなかったんですか?」
「もう一つ騎士団はあったようだが、王太子殿下が違う騎士団を設立した、っていう話が上がってるぜ」
「元いた騎士団に対抗馬、ですか?」
「たぶんな」
リアーガは、器用なことに、セシルに簡単に説明をしながら、その合間に出された軽食を、かなりの勢いで平らげている。
「王宮内でも、随分、権力が分かれているみたいですね」
「そのようだな。ジャールが仕入れて来た話だと、なんでも、王太子殿下側の貴族と、反対側の勢力で、バチバチらしいぜ」
「戦争ですか? 権力争いで?」
「そこまでは知らないが、王宮では権力が二分してる、っていう話はかなり上がってきているらしい。酒場でも、その程度の話が上がってくるんだから、たぶん、本当のことだろうぜ」
そんな庶民にまで噂されるほどの――噂なのだろうか?
それとも、貴族に仕えている使用人が、主のいない場で、お決まりのお喋りでもしていたのだろうか。
まあ、どちらにしても、それだけ話題に上ってきているのなら、ある程度の信憑性はあるのかもしれない。
「ブレッカのことと言い、外政だけでなく、内政も落ち着きがないようですね、あの国は」
「そうみたいだな。ジャールが、アトレシア大王国に来るんなら、付き合ってやってもいいぞ、とは言っていたがな」
あのジャールは、本人は絶対に認めたがらないが、結構、世話焼きのおっさんである。それで、リアーガもふっと笑っていた。
「あら? それは親切ですね。それなら、その好意は受け取ることにしましょう。もう少し、情報収集をお願いしますね。下手な問題ごとに巻き込まれるのは、御免ですから」
「いいぜ。いつ行くんだ?」
「一応、夜会の一週間前に、ここを出発します。アトレシア大王国の王都の手前で、馬車に乗り換えましょう。護衛には、イシュトールとユーリカを。残りの全員は、王都で適当な場所でも確保してもらうかしらね?」
適当な、都合のいい、隠れ家――でしょう?
それで、セシルは王宮に閉じ込められても、王都には、セシルの味方がいることになる。
きっと、子供達の誰かが、王宮に近づける範囲で見張りを立てるだろうし、それで、セシルには、なんとかしても連絡が取れるようになる。
本当に、いつも頼りになる子供達ですわぁ。
夜会が終わって帰る時に、半日くらいは、王都で羽を伸ばさせてあげるべきですよね!
いつも、頑張ってくれていますから(ふふ)。
「え゛っっ――?!」
騎士二人が、あまりの質問を聞いて、ギョッとした顔をした。
「そ、そんなことはありませんっ――」
「そのようなことは、絶対にありませんっ……」
二人が同時に取りなしていた。
「ですが、王宮から――王族からの招待を断ることなど、できないのでしょう?」
「そ、それは……」
そんな……拒絶されたことなど初めてで、二人が顔を見合わせて、困惑した様子が隠せない。
二人の役目と任務は、隣国に行きヘルバート伯爵令嬢に招待状を渡すこと、だ。一応……だけど、任務は完了したことになる――はずだ?
だけど、その伯爵令嬢から断りの――返答を持ち帰るのは、仕事のうちの一つなのだろうか……?
まだ、はっきりと断られたわけではない――はずだ?
どうしようか……と、二人の騎士が迷っている。
「わかりました。招待状は受け取りました」
「はい……」
だが、さっきの――不穏な発言の意味は明確にしてくれるんですか……? ――と聞き返したいのに、あまりにあっさりとした態度も、シーンと気まずい沈黙も、なんだか、その質問をしてはいけない状況にさせてしまっている。
「ご苦労様でした」
そして、その一言で、二人はお払い箱になってしまった。
シーンと、更に気まずい沈黙だけが降りる。
「……わかりました。失礼、します」
だが、またも、返答も反応もない。
もう、これは絶対に、ものすごく、アトレシア大王国が嫌われている証拠なのは、間違いなかった。
二人の騎士が気まずそうに、(一応) きちんと礼を済まし、客室を去っていく。
そして、セシルの片手には――まったく、頼んでもいない夜会への招待状が。
「早かったのですね」
執務室に戻って来たセシルの前で、さっきから仕事の手を止めていないフィロが、頭だけを下げるような礼をした。
「これを」
書類の整理をしているフィロの前で、先程、手渡された(封も開けていない) 封筒が出された。
フィロはそれを受け取り、セシルはさっさと自分の机の椅子に腰を下ろす。
ご丁寧に、ペーパーナイフを取り出し、封を聞いたフィロが、中から一枚の招待状を取り出した。
「夜会の招待状ですね」
そう、さっきの騎士達が説明をしてきた。
「それで、わざわざ、アトレシア大王国まで行かれるのですか?」
「行く気は全くありませんわ。でも、招待状だけ寄越して、夜会に招待――どころか、証人喚問並みの召集にしか見えないでしょう? これを無視したら、またも呼びつけてきそうですしね」
ああ、本当にイラつくほどに邪魔ですわ、面倒だけを押し付けて来て(怒) ――と、セシルの口に出されない怒気が、あまりに明らかだ。
「王宮から、それも、王太子殿下自らの招待状など、簡単に無視できないと承知で、わざわざ、招待状を送りつけてくるなんて。そんなにブレッカで作ってしまった借りが気に食わないのか、気に入らないのか、面倒なだけですわ」
普段のセシルは、滅多なことでは文句を言うようなタイプではない。
だが、今は、この招待状自体がセシルの癇に障ったのか、かなり苛立った様相をセシルは隠そうともしない。
多忙なセシルを呼びつけて、望んでも、頼んでもいない夜会などに参加させるなど、全然、お礼返しにもなっていない。
「傍迷惑です!」
その一言に尽きていた。
普通の貴族の令嬢なら、
「まあっ! 王宮からの夜会への招待! なんて素敵なのかしらっ! わたくしも、ドレスの準備をして、完璧に仕上げて見せますわ♡♡♡! ああぁ、王子サマとダンスができるかしらぁぁ」
あぁぁぁぁぁぁぁ――と、一気に夢心地で大喜びする場であろう(全ての会話に、エクスクラメーションマークだ)。
そして、いそいそと、夜会に向けてのドレス選びも余念なく、派手で豪奢なアクセサリーの買い付けに、お肌のパックや全身美容。
今から、その輝かしい(デビューの)日に向けて、一切の抜かりがないはずだ。
そんなもの、セシルがするかっ!
それでなくても、領地の仕事で、常に多忙を極めるセシルなのに、アトレシア大王国まで、またも顔を出さなくてはいけなくて、今回はその移動だけでも、往復で、優に十日以上かかってしまう。
決まり事が多い王宮内で身動き取れず、失礼も非礼も見せず、できず、慎ましやかな貴婦人を装って、最大限の注意を払って、マナーは完璧。
ああぁ、そんなことを考えるだけで、うんざりぃ……である。
仮病を使うべきかしら?
いや、その程度の理由では、次にまた押しかけられて、呼びつけられても、面倒なだけだ。
結局は、アトレシア大王国に行かないわけにはいかなくなってしまうのだ……。
(最高に、最大限に、時間の無駄ですわっ(怒)! )
そんな文句も、アトレシア大王国の王子殿下になど、聞こえはしない。
「ブレッカでの一件がありますし、マスターは、全員、護衛を連れて行くべきですね」
その提案に、セシルも少し考えてみる。
「まだ、夜会までは時間がありますから、リアーガを呼び戻してください。それから、リアーガを通して、ジャールにも、少々、アトレシア大王国の内情を探ってもらっておくべきでしょうね。あの国、辺境だからと言って、あれだけ締まりのない軍隊が揃っているかと思えば、王太子殿下自らが騎士団を引き連れて、戦場にまで顔を出して来たり、どうも、一枚岩ではいかないような国みたいですから。また、問題に巻き込まれるなんて、御免ですわ」
「確かにそうですね。では、リアーガさんに、至急、戻ってくるように連絡をつけておきます」
「ええ、よろしくお願いね」
「アトレシア大王国、現国王陛下には、三人の王子と一人の王女。ブレッカで会ったのが、王太子殿下に即位してる第一王子殿下のアルデーラ。四人全員揃って、実子だ。側室はなし」
ふむふむ。最後の部分は、セシルも、特別、興味がある話題でもない。
それで、ただその続きを促すだけだ。
「典型的な王政で、特別、ノーウッド王国とは変わらない。国土は、ノーウッド王国の倍はあるだろうな」
「まあ、土地だけで言えば、大王国ですからね」
「まあな」
「なぜ、王太子殿下ともあろう立場の王子が、戦場に?」
「騎士団を動かしてるのが、王太子殿下ってな噂らしい。作ったのも、そいつだったからだ、とは聞いたがな」
「王太子殿下が、騎士団を設立したんですか? 大王国なのに、騎士団の一つもなかったんですか?」
「もう一つ騎士団はあったようだが、王太子殿下が違う騎士団を設立した、っていう話が上がってるぜ」
「元いた騎士団に対抗馬、ですか?」
「たぶんな」
リアーガは、器用なことに、セシルに簡単に説明をしながら、その合間に出された軽食を、かなりの勢いで平らげている。
「王宮内でも、随分、権力が分かれているみたいですね」
「そのようだな。ジャールが仕入れて来た話だと、なんでも、王太子殿下側の貴族と、反対側の勢力で、バチバチらしいぜ」
「戦争ですか? 権力争いで?」
「そこまでは知らないが、王宮では権力が二分してる、っていう話はかなり上がってきているらしい。酒場でも、その程度の話が上がってくるんだから、たぶん、本当のことだろうぜ」
そんな庶民にまで噂されるほどの――噂なのだろうか?
それとも、貴族に仕えている使用人が、主のいない場で、お決まりのお喋りでもしていたのだろうか。
まあ、どちらにしても、それだけ話題に上ってきているのなら、ある程度の信憑性はあるのかもしれない。
「ブレッカのことと言い、外政だけでなく、内政も落ち着きがないようですね、あの国は」
「そうみたいだな。ジャールが、アトレシア大王国に来るんなら、付き合ってやってもいいぞ、とは言っていたがな」
あのジャールは、本人は絶対に認めたがらないが、結構、世話焼きのおっさんである。それで、リアーガもふっと笑っていた。
「あら? それは親切ですね。それなら、その好意は受け取ることにしましょう。もう少し、情報収集をお願いしますね。下手な問題ごとに巻き込まれるのは、御免ですから」
「いいぜ。いつ行くんだ?」
「一応、夜会の一週間前に、ここを出発します。アトレシア大王国の王都の手前で、馬車に乗り換えましょう。護衛には、イシュトールとユーリカを。残りの全員は、王都で適当な場所でも確保してもらうかしらね?」
適当な、都合のいい、隠れ家――でしょう?
それで、セシルは王宮に閉じ込められても、王都には、セシルの味方がいることになる。
きっと、子供達の誰かが、王宮に近づける範囲で見張りを立てるだろうし、それで、セシルには、なんとかしても連絡が取れるようになる。
本当に、いつも頼りになる子供達ですわぁ。
夜会が終わって帰る時に、半日くらいは、王都で羽を伸ばさせてあげるべきですよね!
いつも、頑張ってくれていますから(ふふ)。