ママの彼氏に胃袋掴まれた件
ママは40歳。8歳年下の時雨くんが可愛く思えるのだろうか。彼は私の前では甘えたようにはしてないけど二人きりだと甘えてるのかな……。
ってあまり考えたくないよ。ベッドにうずくまる。私がこうやって部屋に入ってる時、二人は抱きついたりキスしたりしてるかもしれない。
てかもう数ヶ月も一緒に住んでいるからママと時雨くんはもうそんな関係だろう。ドラマや漫画の見過ぎだ。
ママはお父さんと離婚して岐阜から関東に逃げて数年住んで、今年になって愛知に引っ越して数ヶ月ですぐ彼氏できるって……羨ましいよ。
そもそも仕事の接待で時雨くんの働いている料亭に行って彼に一目惚れして付き合いはじめたって。
その直後に料亭が潰れてすぐ居候、時雨くんはヒモ状態。宮部くんには心配されたけど変なことされてないよと言っておいた。ほんと心配性なんだから。
スウェットに着替えて台所に向かうとソファーにだらしなく寝てるママは毛布をかけられていた。お疲れ様。
それを横目に……台所からいい匂いがしてきた。じゅーっと音がする。今日は揚げ物かな。台所へ行くと時雨くんが唐揚げを揚げていた。
「いい匂いだね」
「でしょ。今日は焼肉のタレを漬け込んだ唐揚げだから」
「へー、それだけでいいの」
「うん。好みでニンニクチューブ入れてもいいし」
そう言いながら彼はキャベツを取り出した。普通のキャベツと紫キャベツ。
「藍里ちゃん、キャベツ切ってみる?」
料理なんて本当にできない。時雨くんに任せっきりだし、彼が来るまではキャベツの千切りだなんてママはカット野菜で買ってくるから家で切るものだなんて知らなかった。
私はとりあえず頷いて袖をまくって手を洗う。時雨くんは私が家事も料理もできないのは知っている。私はドキドキして包丁を握る。
「緊張するでしょ、前教えたようにやってごらん」
時雨くんは時折唐揚げを気にしながらも私をみてくる。実のところ千切りは前やったけど全くできなかった。私はキャベツをちぎってまとめて丸めてゆっくり切っていく。
その間にも唐揚げ第一陣が揚がってキッチンペーパーの上に置かれた。美味しそう。色も形も最高。
「よそ見しないでしっかり、リズム良く」
「はぁい……」
やっぱり私の不恰好な千切りじゃない千切りキャベツはそんな美味しそうな唐揚げの横に置くのは不憫だ。
彼は紫キャベツも千切りにしてくれたけどとても器用に千切りにしていく。私の不恰好なキャベツの上に乗せて混ぜ合わせて……コーン缶開けてまぶしていく。
「うわー美味しそうじゃん。太いキャベツと千切りキャベツがいい具合に混ざってるし」
気づいたらママが起きてきた。そんなに寝てないよね。まだ寝ていて欲しい。私と時雨くん2人の時間だもん。
てか……キャベツのことは突っ込まないで。メインは唐揚げでしょ。
「焼肉のタレ漬け唐揚げとザクザクキャベツサラダにコーン乗せの完成だよ。キャベツのシャキシャキ感がいいんだよ、居酒屋みたいで」
彼なりのフォローなのか。ママは笑ってるけどさ。