ママの彼氏に胃袋掴まれた件

 ママは冷蔵庫からビールを持って唐揚げと一緒にダイニングは持って行った。
 これをおつまみにするのか。他にも味噌汁、白ごはんがあるけど酒呑みのママはまだいらないだろう。
「唐揚げはまだ揚げるから。たくさん食べてね」
 時雨くんは何で心の広い人なんだろう。ママがあんなにリラックスしている表情は彼と付き合ってからである。

 私のママの印象はずっと何か怯えていて、目線を気にしてて無表情に近かった。笑うことも少なくて常にお父さんの表情を伺っていた。

 もともと家事も料理もできなかったママ。それをお父さんは常に馬鹿にしていた。インスタントやレトルトに頼ると常に説教。かと言ってママが捨てようとするとそんなことをするな! ってお父さんは怒鳴る。ビクビクしたママの表情。かと言ってお父さんも家事も掃除もしない。

 ママはママなりに頑張っていた。耐えてきていた。次第にママはお父さんを怒らせないように、としか行動しなくなった。私はそれを知っている。ずっと見てきた。
 ああ、ママは何でお父さんと一緒にいるんだろう。専業主婦だから? お金がないから?

 と思ったとある日にいきなり
「荷物まとめなさい、行くよ」
 と言われ家を一緒に出たのは高校に入ってすぐのことだったっけ。ママはこっそりお金を貯めて逃げる資金を作ってこっちまで逃げてきたのだ。
 一時期保護施設に私たちは匿ってもらって周りの人のおかげで半年かけてママとお父さんは離婚した。

 それから関東に数年住んで、愛知に移住して数ヶ月でママには時雨くんという彼氏ができて家事も料理もしてもらって今までにない優しく穏やかな顔のママを見た時、私はびっくりした。
 ママ、こんな顔して笑うんだ。そしてこんなにも美しい人だっけ。

 ……時雨くんも笑いかける。優しい顔で。何もできないママに対しても私にでさえも馬鹿にしない。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop