ママの彼氏に胃袋掴まれた件



 次の日のお昼、宮部くんに誘われてお昼は2人で屋上で食べることにした。

 私と宮部くんはベンチに座って私はお弁当を開けた。昨日の唐揚げと白いご飯と卵焼き。
「質素だな、普段より」
「でしょ……実はさ、時雨くんのご実家のお母さんが倒れちゃったみたいで朝一に帰省しちゃった。昨日残してくれた唐揚げをママが揚げてくれて。あと卵焼きも……」
「ごめん、質素って言っちゃって」
 私は首を横に振ってもう一つのお弁当箱を開けた。

「おおお、これが特製焼肉のタレ漬け唐揚げぇ。少し焦げてるけどさ……ってすまん、ケチつけて」
「いいよ。私が作れればよかったんだよ。ママだって仕事忙しいのに慌てて作ってくれた」
「ほんと凄いよ。藍里の母ちゃん。じゃあこれ本当にもらっていいのか」

 だって宮部くんはまた学食のパンだけだもん。

「上手い、揚げたてだったらもっと上手いかもしれんけどこれでも十分美味しい」
「時雨くんとママに言っていくね」
「おう……でもこのキャベツ、ざく切り」
「あ……その」
 昨日切って盛り付けできなかったキャベツの残り。でも彼は気にせず食べてくれた。ホッ。
 あっという間に唐揚げは無くなった。

「今度時雨くんとやらに会いたいなぁ」
「……えっ、まぁいいと思うよ」
「ごちそう出てきそう」
「うんうん、喜んで作るよあの人」
「その時にはこの唐揚げがいいな」
「言っておくよ」
 食べ終わって2人でベンチに座ったまま空を見上げる。周りには数組カップルはいるし、遊んでるっグループもいる。私たちはどう見られているのかな。

「あのさ……時雨くんにね宮部くんは彼氏じゃないよって言ったら『よかった』っていったんだけどどう思う? ママの恋人だよ、普通恋人の娘に……手なんて出すわけないよね。32歳だし、その、ねぇ」

 ってなに言ってんだか。私って突拍子もないことをつい言ってしまうの、昔から。でも宮部くんはそんなこと知っててまた笑ってくれた。

「どう思うってそれ僕に聞くことかよ。お前ってほんと昔から変わってるよな。まぁそこが好きなんだけどさ」
 好き……好きって今言ったよね。どんどんドキドキしていく。

「ますますその時雨くんっていう人に会いたくなったなぁ。僕の恋敵」
 恋敵……。じっと私の目を見る宮部くん。

「それにそんなに自分の母親の彼氏に意識してるって……そっちの方こそ……」
 こんなにジトっとした目で見ないで、宮部くん。

「時雨くんから料理教わろうかな」
「それもいいね。私も習おうと思う……いつも学校から帰ると出来上がってるからさぁ。休みの日も1人でつくってるし」
「……2人で作れるようになれるといいな」
 宮部くんはそう言って私を見た。
「2人で?」
「そ、そのー2人で作るってのはそれぞれ作れるようになろうなっていう意味で、2人で一緒に台所に並んで、じゃない」
「わかってるって」
 お互いもうあたふたしてる。
「それにすっかり藍里は時雨くんに胃袋掴まれてる。それが心配だ」

 心配だって……そんなこと言われると確かにそんな気もする。美味しいんだもん、時雨くんの料理。そして優しい。
 宮部くんはニヤッと笑った。その意味深な笑顔は何?
 昔から私を知ってる人、落ち着く。こうやっているだけでも。ああ、わたしたちが再会するのが時雨くんと会う前だったら……素直にすぐ宮部くんを好きって言えたのに。
 神様は意地悪だ。



 終
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