マフィアのお兄ちゃん、探してます

まだ

「ただいまぁ〜」
あ、海!
「おかえりー海っ!」
ぎゅっと抱きつくと、戸惑うような表情を浮かべる海。
でもそれは、瞬きくらいの一瞬のことで。
「ふふっ、ただいま。……あれ、悠里は寝てるの?」
「うん、そーみたい。疲れてるのかも」
ちょっとギクリとしたけれど、曖昧に誤魔化す。
「じゃーん!いっぱい買ってきたよ!」
おおぉっ! 大収穫じゃん!
「教えてくれてありがとね、千秋」
「どーいたしまして!」
このときの俺は甘かった。
警戒してなさすぎて。
「ねぇ千秋?」
「なーに?」
だって海はいつも優しいし、冷静沈着。
イツメンの中で1番頭が切れる人。
過去の自分をぶん殴ってやりたい。
「もしかしてさ……」
やめて。
「千秋って本当は……」
ダメだ。
耳を塞ごうとしたとき。
「お……」
「たっだいまーー!」
丁度ナイスタイミングで湊が帰ってきた。
「湊ー!おかえり!」
「おう!」
くしゃくしゃっと頭をやや強引に撫でられる。
それが今は心地いい。
頭の中全部をぐちゃぐちゃにしてくれるみたいで、スッキリする。
海の視線から目を背けるように湊に抱きつく。
「ってか、今日の人質って誰?」
慌ててメモを確認。
「えぇっと……み、湊」
「俺!?」
目をまん丸に見開く湊。
ガチャリとドアが開いて、月羅が入ってきた。
「今日の人質はだぁれ〜?」
「俺」
湊は淡々と返事をして、リビングを出て行く。
「っ……」
ぐっと痛む心臓を抑えて、湊を見送る。
「じゃあ、俺、トイレ行ってくるね……」
海にそう伝えて、足早にリビングを出る。
「待って、俺も行く!」
海にぱっと手を掴まれた。
「っ、ごめん……」
手を振り払って、急いで駆け出す。
途端、後ろからぎゅっと抱きつかれる。
っ……!?
「動かないで」
海の冷ややかな声が響く。
「ちょっと来い」
いつもとは全く違う低音ボイスに、びくりと背筋が震えた。
一瞬で"怒っている"とわかる。
連れていかれたのは普段から人があまり来ない東非常階段。
「お前、何者だ」
何者、って……?
「とぼけんなよ」
ドンッと壁に押し付けられて、身動きが取れない。
「お前……名前、有栖千秋っつったな」
こくりと頷く。
「おかしいんだよ。戸籍上は、有栖千秋は……」
やめろ、言うな……!
ぐっと海の口を手で塞ぐ。
「おい、何すんだよ。図星か?」
海が俺の手を掴んだ瞬間、海の横腹を思いっきり蹴る。
「い"っ……」
海が怯んだ隙に、するりと海の腕から逃げ出した。
「あっ……おい!待て!!」
海の怒鳴り声を聞かずに、走って逃げる。
まだ……バレる訳にはいかないから。
海が見えなくなった所で、俺はそっとネックレスに手を伸ばす。
しゃらんっと揺れたネックレス。
サファイアが、俺の顔を反射する。
溢れそうになった涙を拭って、リビングではないどこかへ向かって歩き出した。
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