マフィアのお兄ちゃん、探してます

発見

「……き、……千秋!!」
んー……?
目を開くと、目の前には暗闇。
ここ、どこ……?
だんだん暗闇に目が慣れてきて、人影がいるのがぼんやりとわかる。
「気づいたか……ちょっと歩くぞ?」
「あ、うん……!」
ほんとはまだちょっとだけふらふらしていたけど、無理して立ち上がる。
あっ……。
またふらりとよろけそうになって、立夏兄(仮)が慌てた様子で支えてくれた。
「っ、大丈夫か……!? ごめん、俺気ぃ使えないってよく怒られるんだよ……」
しょぼんと落ち込むような動作をした立夏兄。
「あの……あなたは?」
「ん?」
絶対に立夏兄としか思えない。
「名前、教えてください」
前の人が柔らかく微笑んだのがわかる。
「あなたは……誰なんですか?」
俺がそう尋ねると、強く手を引っ張られた。
「こっちに来て。少し話そう?」
そして、あまりにも俺がふらふらに見えたようで、立夏兄は俺をおんぶしてくれました。



「着いた。降りていいよ」
そっと地面に足を付ける。
立夏兄は目の前にあったドアを開く。
あれ……二重扉?
もう1回ドアを開けると、眩しい光が目に飛び込んできた。
っ……。
眩しさに目を細める。
中はリビングを少し狭めた感じの部屋。
右側の奥にはキッチンがあって、左側には衝立で隠されている。
「立夏、おかえり……って、は!?」
俺を見て、目をまん丸に見開いた……真冬兄。
うわぁ……!
すごく大人っぽくなってる。
もともと大人っぽかったけど……なんと言うか……しゅっとしてる。
横に立っていた立夏兄を見上げると、相変わらずの八重歯が覗いていた。
「千秋……!?」
真冬兄が椅子から立ち上がって、俺の方に近寄ってくる。
そっと俺のほっぺに手を当てた真冬兄。
「千秋、なのか……?」
「……真冬、兄……?」
「千秋、俺は?」
「立夏兄……!」
そう言うと、嬉しそうに笑った2人。
強くぎゅうっと抱きしめられる。
「良かった……生きてて」
「ほんとに、千秋だっ……!」
俺を抱きしめながら、肩を震わせていた。
えっ……お兄ちゃんが、泣いてる……!?
もらい泣きで俺も頬を涙が伝う。
慌ててぎゅっと抱きしめ返して、見られないようにした。
「可愛い……」
「なんだこの生き物……っ」
え?
すごく、頭にはてなマークが浮かんだ……。
「ちょっと待っててね。飲み物持ってくるよ」
真冬兄はそう言ってキッチンの方へと向かっていった。
数分後、いちごミルクをお盆にのせて持ってきてくれた真冬兄。
「ありがとう!」
マグカップを受け取り、口をつける。
ん〜……!
やっぱり美味しいっ……!
突然、立夏兄は何かを思い出したように「あーっ!」と声を上げた。
「ねぇ、千秋! どーしてここがわかったの!?」
どうして、って……。
「なんか、月羅に案内されて……あ、バルーンチャートの知り合いの人に、総長室で待っててって言われて……」
真冬兄は眉をひそめながらこくこくと頷いている。
「で、総長室を探索してたら、急に変な気体が流れてきて……」
「大丈夫だったのか?」
心配そうな真冬兄に笑みを返す。
「あ、だからふらふらしてたの!? 」
立夏兄がマグカップを落としそうになりながら叫ぶ。
危ないっ……!
「あぶねっ!」
ギリギリのところで体制をたて直した立夏兄。
「ちょっと首元触るよ」
真冬兄のひんやりした手のひらが触れる。
「……うん、体内にはあまり入ってないっぽいね」
この症状からして、きっと睡眠薬だろうし……そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。
真冬兄は昔から、人に触れるだけで、その人の悪いところがわかってたよな……不思議。
マグカップを取って、口へ運ぶ。
ごくりと薄桃色の液体を流し込む。
「ねぇ千秋。千秋の仲間たちはどうしたの?まさか、これまでずっと1人でいた訳じゃないよね?」
立夏兄の質問に、ふるふると首を振る。
「今までは、仲間と一緒に居たんだけど……秘密が、バレそうになって……俺は今日人質の順番だったから……」
途切れ途切れ言葉を濁しながらそう伝えた。
「なら……事が落ち着くまで、ここで過ごさないか?」
……っ、え?
真冬兄は優しい目で俺を見つめる。
「みんなとも気まずいだろうし……俺らももっと千秋とお話したい……ダメ?」
ダメなわけない……!
願ったり叶ったりな条件なんだけど……。
「俺だけお世話してもらうのは違うと思うから……何か手伝わせて!」
料理もまぁまぁできるし……お掃除なら大得意だからっ……!
「え……なら、掃除お願いしてもいい?……俺ら、掃除ダメダメで……」
眉をしゅん……っと下げて、お願いしてくる立夏兄。
犬の耳が生えていたら、ぺたんと垂れ下がっていそう。
「もちろん!任せてっ!」
グッとガッツポーズをつくって返す。
「あ、でも……お洋服どうしよう……?」
これは一応借り物だし……。
「んじゃあ、今夜こっそり取りに行くか」
さらっと爆弾発言をかます真冬兄。
「さんせ〜い」
ニコニコ笑顔の立夏兄も手を挙げている。
「え、でも……」
2人はバレたら1番ダメなんじゃ……。
「まぁ、任せろって」
そう言って真冬兄はパチンッとウィンクをした。
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