マフィアのお兄ちゃん、探してます

妹ちゃん

朝。
目が覚めると、トーストの焼けるいい香りがふわんと鼻をくすぐった。
ん〜……っ。
体を起こして、キッチンの方を見る。
「あ、おはよう千秋」
「真冬兄!おはよー!」
あれ?立夏兄は……?
キョロキョロと辺りを見回していると、真冬兄が「立夏ならちょっと出かけてるよ」と、ベーコンを焼きながら言ってくれる。
お出かけかぁ……なんか、ちょっと心配。
「そんな心配そうな顔すんな。立夏のことだし、すぐ帰ってくるよ」
優しく笑って俺の頭を撫でてくれた真冬兄。
そっか……。
「それよりほら、今日の朝メシ!美味しそうだろ?」
フライパンの上ではウィンナーが踊り、もう既にベーコンエッグがお皿の上に。
きつね色にこんがり焼けたトーストと、色とりどりのジャム。
「めっちゃ美味しそう……!」
「昨日新鮮な食べ物が手に入ったから、奮発してみた。すぐ悪くなっちゃうからなー」
困った困った、と呟く真冬兄。
怖いから、どこから仕入れたのかは聞かないでおくことにした。


「たっだいま〜!」
それから数十分後、扉が開いて立夏兄が現れた。
「立夏、ちょっと遅かったな」
「ごめんふゆ兄」
遅かった、って……何か知っていたのかな。
気になったけど、わざわざ聞くのも違うよね。
「さっ、朝ごはん朝ごはん!」
立夏兄の元気な一声で、急いでテーブルを囲む。
「手を合わせて〜……いただきまーす!」
「「いただきます」」
どれから食べよう……!
全部がキラキラして見える。
メニューは蒼太兄の作るものと全然違う。
蒼太兄は和食が好きだから、洋食はあまり出なかったけど……。
実は俺、朝はパン派なんだっ……!
少し迷った末、ベーコンエッグからいただくことに。
そっとハシを伸ばして、口に入れる。
「ん〜……!」
めっちゃ美味しい……!
ベーコンの硬さと、卵のふわふわさがマッチしてて……最高!
ウィンナーはジューシーで、肉汁たっぷり。
トーストもカリッカリで、イチゴジャムを付けて食べた。
「ごちそうさまでしたっ」
ぱちんと手を合わせる。
「千秋、そんなんで足りる?大丈夫?」
心配そうに尋ねてきた立夏兄。
「もっと食べてもいいんだぞ」
真冬兄も笑って勧めてくるけど……。
「お腹いっぱいなんだよね……」
俺はかなりの少食なんです……。
ほんとはもっと食べたい……!
「じゃあお昼にとっとくわ」
真冬兄はお皿にさっとラップをかけてくれる。
「ありがとうっ!」
やったぁ……!
「あとで、いちごでも食うか」
真冬兄の一言に、ぱっと顔を上げる。
いちご……!
「千秋の目の色変わった」
ふふっと笑う立夏兄に、満面の笑みを返す。
「ってか……元々千秋って呼んでたっけ?」
え?
それは……どゆこと……?
「"千秋"じゃなくて"あき"じゃなかった!?」
千秋じゃなくて……あき?
あ、ニックネームのこと……?
それはわからない……あはは……。
思わず苦笑いが零れて、慌てて手で口を覆う。
「そんな気もするな」
同意するようにこくこくと頷いている真冬兄。
「ふゆ兄だけニックネームで、千秋だけ名前呼びなのはおかしいもん!」
頬を膨らませて力説する立夏兄に、可愛いなと微笑んだ。
でも、立夏兄はどうやってニックネーム
を……?
「俺は……なつって呼んで!」
「立夏のどこにもなつって入ってないけどいいのか?」
確かに……。
「いーのいーの!今日からなつね!!ふゆ兄、あき!」
そういえば……夏、秋、冬ときて……春がないなぁ……。
俺にも、弟がいたりして……あ、妹かもっ……!
そんなことを考えていたとき。
俺の考えを読んだかのように、真冬兄……ふゆ兄が口を開いた。
「そういえば……しゅんも元気かなぁ……」
"しゅん"……?
「久々に逢いたいねぇ〜!」
目が点になっている俺を見て、くすりと笑ったふゆ兄。
「春に音って書いて春音。女の子だよ」
春音……!
俺の、妹……!!
めちゃくちゃ逢いたいっ……!
「今度からはるって呼ぼ〜!」
るんるんでそう口にするなつ兄。
「写真ないの?」
顔が見たくてそう訊ねる。
「確か1枚だけあったよな?」
「しゅん……はるの卒業式っしょ?」
スマホを操作している立夏兄の手元を覗き込む。
「あった!」
うわぁ……!そっくりだっ……!
目はぱっちりしていて、まつ毛が長い。
ふわふわのロングヘアを編み込んでいて、ブラウンのスカートの可愛い卒服。
胸元には赤いリボン。
口元にはピンク色のリップが煌めいている。
「可愛い……っ!!」
「この前こっそり電話したら、はるもあきに逢いたがってたぞ」
ふゆ兄が笑って教えてくれる。
「ほんと!?」
思いがけない言葉に、思わず舞い上がってしまう。
ごめんね、今まで知らなくて……と心の中で謝っておいた。
「でも、はるもこの前小学校卒業したぐらいだしな……もうその頃くらいには俺らは東京にいたから、知らなくて当然だよな」
よしよし、と頭を撫でてくれるふゆ兄。
ってことは……今中1?
会いたいなぁ……。
なつ兄のいれてくれたオレンジジュースを飲みながら、エアドロップで写真を送ってもらった。
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