天妃物語〜本編後番外編・帰ってきた天妃が天帝に愛されすぎだと後宮の下女の噂話がはかどりすぎる〜
「紫紺、青藍、あなた達もご挨拶しなさい。あなた達の叔母ですよ」
「うん」

 紫紺は頷くと萌黄に向き直る。
 久しぶりの萌黄に紫紺は照れくさそうだ。鶯にくっついたまま挨拶をする。

「もえぎ、こんにちは。げんきだったか?」
「おかげさまで。紫紺様もお健やかなご様子で嬉しく思います」

 紫紺の挨拶が終わると次は青藍だ。
 鶯に抱っこされた青藍は萌黄を指差して「あうあ〜。ばぶぶっ」となにやらおしゃべりしていた。
 萌黄が困って鶯を見ると、鶯がにこにこしながら教える。

「青藍がこんにちはと言っています。青藍はおしゃべりが大好きなんですよ」
「そうなのね。青藍様、こんにちは。お元気そうでなによりです」
「あいっ」

 青藍がこくりと頷いた。
 でも照れてしまったようで鶯にぺたりっとくっついてもぞもぞした。
 こうして幼い子ども達が甘えるように鶯にくっついていて、萌黄は面白そうに小さく笑う。

「御子様方は鶯が大好きなのね」
「うん。ははうえがいちばんすきだ」
「私も紫紺と青藍を愛していますよ」

 鶯が幸せそうに微笑んだ。
 その姿に萌黄は目を細める。天上で幸せに暮らしていると知れるものだったのだ。

「萌黄、斎宮に変わりはありませんか? 最近のあなたは忙しくすごしているようですが、息抜きも必要ですよ? 分かっていますか?」

 鶯はくどくどと言った。
 鶯は生真面目で世話焼きなのだ。斎宮にあがる前の二人で貧しい暮らしをしていた時も、『もっとたくさん食べなさい』と自分の食事をわけようとしてくれたり、『体を冷やしてはいけませんよ?』と自分だって寒いのに火鉢(ひばち)の近くの温かい場所を萌黄に譲ってくれた。
 時に口うるさい小言のようではあるが、そこには鶯の愛情深さがある。萌黄はそれをよく知っていた。

「うん、ちゃんと気を付けるわ」
「よろしい。夜はしっかり眠って休むこと。斎宮のよいところは殿方(とのがた)の夜這いがないところですね」

 鶯が安心したように言った。
 殿方は既婚者でも正妻以外の女人のところへ通っていることが多い。いわゆる夜這(よば)いである。
 しかし斎宮で暮らす斎王は神職最高位の身分だ。おいそれと夜這いできる相手ではなかった。
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